第388話
Nao.side
夜の11時なのに「うわぁ!」と大きな声が出してしまった。いきなり部屋に入ってくるなり、床を這いずりながら私に携帯を渡してくる妹が恐怖でしかないからだ。
私は微かに震える手で携帯を差し出してくる水希から恐る恐る携帯を受け取った。
電話の相手がひかるちゃんだと分かり、ホッとしながら「もしもし…」と言うとひかるちゃんに大泣きされ今度は困り果てる。
この状況が突然すぎるし、ひかるちゃんは大泣きしているし、水希は倒れているし、何も知らない私には訳が分からない。
ひかるちゃんに落ち着いてと声を掛け「どうしたの?」と言うと、やっと泣いている事情を説明してくれた。
そして、なぜ水希が矢で撃たれたかのように床に倒れ込んでいるのか分かり、つい笑ってしまった。
確かに水希側からしたらキツい話で、きっと水希は自分に当てはめてしまったのだろう。
「ひかるちゃん、おめでとう。やっと、初めてを体験したんだ」
「はい…」
「ひかるちゃん、ふふふ…あっ、ごめんね。今ね、私の足元で水希が倒れているの。ひかるちゃんの話がショックで倒れちゃったみたい。でも、それぐらい水希側からしたら必死で頑張っている行為だから仕方ないかもね」
ひかるちゃんと朝倉さんは大人の階段を一段上がった。恋人としてのステップアップであり、先輩としても微笑ましいことだ。
でも、互いに初めてだと色々と分からないことだらけだし、色々と初めてゆえの難しいことが出てきてしまう。
ひかるちゃん的には朝倉さんの愛は感じたけど痛みも感じた。朝倉さんはきっと優しく、愛を大量に送ったと思うけど力加減が上手くコントロールできていないみたいだ。
朝倉さんに言えなかったことを経験の先輩である芽衣ちゃんに愚痴&相談をしようとしたら間違えて水希にLINEをしてしまうなんて…水希が可哀想で面白くてつい笑ってしまう。
水希からしたら、もし芽衣ちゃんにこんな風に思われていたらと思うと落ち込むのは当然だ。痛みは言われないと気づけない。
でも、いつか二度目を経験するひかるちゃんにとって経験のある芽衣ちゃんに相談したくなるのは分かる。朝倉さんに言わない方向でアドバイスも貰えるかもしれないからだ。
「そんなに痛かったの?」
「あの…力が強くて」
「荒い感じ?」
「いえ!優しかったです!でも…触る力が強くて、あとは///あの…」
やばい、理由を聞いている私が恥ずかしくなってきた。でも、ちゃんと原因を把握しないとアドバイスをできないから頑張らないと。
「力加減とか難しいよね。でも、そこは朝倉さんは分からないからひかるちゃんが伝えないと分からないと思う。それに、後からずっとひかるちゃんが我慢していたと知ったら朝倉さんショック受けると思うよ」
「はい…」
「きっと朝倉さんだったら大丈夫。それに、好き同士がする行為に痛みとかあったらダメだよ。だから、素直に思っていることは伝えた方がいい」
「はい、ありがとうございます!」
やっと、ひかるちゃんお明るい声を聞きホッとして電話を切る。私は今も床に倒れ込んでいる水希の頭を叩き、アドバイスをする。
「水希、明日ひかるちゃんに会ったとき普通にするのよ」
「うん…」
「あと、朝倉さんにはひかるちゃんがきっと言うと思うから何も言っちゃダメだからね」
「私からなんて言えないから大丈夫…。それに私がごんちゃんの立場だったら、逆に言われたらきっと受け入れられない。ショック死しそうなぐらい落ち込むよ」
デリケートな問題は当人同士で解決していくのが一番だ。私は落ち込んでいる水希の頭をポンポンと撫で、そんなに気になるなら芽衣ちゃんに聞いてみるといいと言う。
きっと芽衣ちゃんなら素直に言ってくれると思うし、水希が萎縮したら逆に芽衣ちゃんとひかるちゃんが落ち込んでしまう。
「ほら、試験勉強してたんでしょ。頑張らないと東條大学に行けないわよ」
「うん、頑張る」
私としては朝倉さんが一番心配だ。もうすぐ期末試験なのにひかるちゃんと結ばれて…気をつけないと頭が性一色になりかねない。
どのようなタイミングでそうなったかは分からないけど、少しだけタイミングが悪いと思えた。きっと、朝倉さんはしばらく勉強に身が入らないだろう。
私の考えとしては愛を受ける側は先に大人になることが多い。ひかるちゃんは愛を受け取る側で、朝倉さんは愛を送る側で、送る側は夢中になりやすく暫く発情期が続く。
朝倉さんが勉強そっちのけでひかるちゃんを求めないといいけど…大丈夫かしら。
でも、これ以上デリケートなことに口出しするのは難しいし私は見守るしかない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます