第352話
山下さんがいなくなり、取り残された私達の間には重い空気が流れる。私はごんちゃんに対して怒りたかったけど佐藤先輩もいるし、先輩の友達もいるから諦めた。
それに、ひかるの前でごんちゃんを怒るのは気が引ける。恋人が怒られている姿なんて見たくないだろうし、ひかるのためにやめた。
「2人ともバスケ部の後輩が無理言ってごめんね」
「大丈夫です。佐藤先輩、ありがとうございます」
「山下ちゃん、いい子なんだけど夢中になると周りが見えなくなる子で。まぁ、それだけ竹本さんに夢中だったのかな」
みんな、山下さんの情熱的な想いには苦笑いだ。佐藤先輩の友達以外、ごんちゃんとひかるが付き合っていることを知っている。
だから、敢えて佐藤先輩は言ったのかもしれない。下を向いたままのごんちゃんに、行動を起こさなかったごんちゃんに。
「まーちゃん…」
「ひかるちゃん、、ごめんなさい。私、動けなくて…情けないね」
「ごんちゃん、マジで情けないよ」
「分かってるよ、、」
「私はごんちゃんに動いて欲しかった」
「そんなの分かってるよ!」
「だったら動けよ!ひかるを取られるかもしれないのに、下ばかり向いてあり得ないから。ひかるに不安な顔させるな」
ごんちゃんへの怒りが治らなかった私はごんちゃんと喧嘩になる。初めての喧嘩だ。
ごんちゃんが反省しているのは分かっているけど、もしひかるに何かあった時、、守れない。だからこその怒りだ。
「朝倉さんは自分に自信を持った方がいいよ。あと、強くならなきゃダメ」
「はい…」
佐藤先輩が間に入ってくれて、ごんちゃんに助言をしてくれた。こう言った場合は先輩からの言葉の方が効き、受け入れやすい。
そして、私はまだ子供だ。さっきまではごんちゃんを怒らないと決めていたのに、か弱い声を出しながらひかるに謝るごんちゃんに対し怒りを抑えることが出来なかった。
「ごんちゃん…私も自信なんてないよ。だけどね、水希を思う気持ちは誰にも負けない」
芽衣の口から私への気持ちは誰にも負けないと聞き、感動と嬉しさが込み上げる。
私は嬉しくて芽衣を後ろから抱きしめた。私も芽衣への気持ちは誰にも負けない。
「芽衣、大好き〜」
「こら、水希。芽衣ちゃんとイチャイチャするのは後でしなさい」
「あっ、はい」
佐藤先輩に嗜められ、私は芽衣から離れる。そんな私を見ていたごんちゃんの目が羨ましそうで、目が合うと逸らされた。
ごんちゃんとひかるは付き合ってまだ2ヶ月で、ピュアすぎる交際と性格のせいで自信が持てないのかもしれない。
「ごんちゃん、ひかるにちゃんと気持ちを伝えたら?きっと、ひかるは受け止めてくれるよ。抱きしめたいなら抱きしめればいい、キスしたいならキスすればいい。ひかるはごんちゃんの恋人なんだからきっと受け入れてくれる。だから、エッチも…って痛い!えっ、芽衣…何で叩いたの」
「デリカシー!もっと言葉はオブラートに包まないと駄目でしょ」
「あっ、ごめんなさい…」
私のオブラートに包んでない助言のせいでごんちゃんとひかるの顔は真っ赤だ。佐藤先輩はゲラゲラと笑い友達に怒られていた。
「朝倉さん、私からも助言するね。勢いは大事だよ。奥手すぎると手の早い水希に取られちゃうよ」
「佐藤先輩!私は芽衣に一筋です!」
「朝倉さん、優希にも気をつけてね。この人、タラシだし竹本さんのことずっと可愛いって言ってるから」
「ちょっと、加奈子…今、言わなくてもいいじゃん」
佐藤先輩とお友達の様子がおかしい。佐藤先輩はお友達の発言にオロオロして、、もしかして2人は付き合ってる?学校一モテる佐藤先輩が加奈子先輩に尻に敷かれている。
「佐藤先輩…あの、お二人の関係って」
「あー…付き合ってる」
「えー、そうなんですか!?」
「最近、付き合い出した///」
まさかの佐藤先輩の交際宣言にみんなが笑顔になり祝福をする。私が馴れ初めを聞くと佐藤先輩が照れながら教えてくれて、2人の初々しさが可愛い。
加奈子先輩は前に佐藤先輩と噂になったお友達で、文化祭をきっかけに付き合い出した。
加奈子先輩にデレデレの佐藤先輩は年上だけど可愛くて微笑ましい。
きっと、ごんちゃんへの助言は佐藤先輩が体験したことなのだろう。私も恋は勢いだと思っている。勢いがないと恋は進まない。
「ごんちゃん、ひかるのこと好きだよね?」
「当たり前じゃん!大好きだよ!ひかるちゃんへの想いは誰にも負けないし」
「ひかる、良かったね。ごんちゃんがひかるのこと大好きだって」
「うん///」
奥手な友達のために私はアシストをする。きっと、ごんちゃんは変われるはずだ。
奥手から脱却して、、惚気話はあんまり聞きたくないかな。恥ずかしくなるし。
友達の関係から恋人へ。勢いと勇気とタイミングで関係は変わる。佐藤先輩もごんちゃん達も幸せそうな顔で私も嬉しいよ。
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