第276話
何度もポケットの中身を確かめ、何度も手に持っているテストの点数を見直す。英語が88点、数学が84点、理科が90点、国語はまだ返ってこなかった。
初めての点数のオンパレード。苦手教科で80点以上の点数をとり、得意教科では90点を叩き出した。
落ち着きがない私は境内を歩き、ワクワクしながら晴菜さんが来るのを待った。
私の顔はずっと締りがなくニヤけ顔になってしまう。ヘラヘラしながら私は幸せの絶頂にいた。早く、晴菜さんにテストの結果を伝えたくて興奮している。
「水希ちゃん。ごめん、待たせたね」
「いえ!全然大丈です」
「笑顔だね、そんなにテストの結果が良かったの?」
「はい!Vサインです」
「ってことは50点以上ってこと?」
「へへ、もっとですよー」
テストを晴菜さんに渡すと、晴菜さんがピョンピョンと飛び喜んでくれた。何度も「凄い!凄いよ!」と喜んでくれて私も嬉しい。
「水希ちゃん、頑張ったね」
「はい、頑張りました」
「ニコニコだね」
「はい、ニコニコです!」
ふふふとお互い笑い合い、幸せなひと時を過ごす。この時間がこの日の一番の幸せな時間だった。
この後、テストのミスを指摘され肩を落とすけど「次は気をつけようね」と言われ元気が戻る。
「他の教科も楽しみだね」
「はい、自信があります」
「頑張って東條大学にも来てね。先輩として応援する」
「絶対、東條大学に行きます。晴菜さんの後輩になりたいです」
もし、東條大学に受かり入学する頃には晴菜さんは卒業し社会人になる。入れ違いになるけど後を追いたい。
後一年早く生まれていたらギリギリ同じ大学に通えていた。お姉ちゃんは晴菜さんの後輩になれるから羨ましい。
「あっ、そうだ。実は晴菜さんに渡す物があるんです」
「何?」
「あの…これ///。お誕生日プレゼントも兼ねてなんですがいつもお世話になっているお礼と晴菜さんには沢山の物を頂いているので」
「開けていい?」
「はい」
晴菜さんが箱を開け驚いている。私はどんな風に喜んでくれるかワクワクしていた。でも、晴菜さんは指輪を見て箱を閉じた。
デザインが気に入らなかったのかもしれない。私はまた肩を落とし凹む。
「水希ちゃん、気持ちだけ受け取るよ」
「デザイン、気に入りませんか…」
「違うよ。可愛いデザインだし凄く嬉しい」
「だったら何で…」
「ごめん…私のせいだね。あの時、指輪が欲しいって言っちゃったから。あの時、水希ちゃんが泣いたから慌ててたの。ちゃんと別のを言えば良かった」
「指輪入りませんか…?」
「ごめん、指輪は受け取れない」
「でも、せっかくなので。違う物はまたいつかプレゼントします」
せっかくだからってのが強く、私は引き下がらなかった。だけど、一度指につけて欲しいとお願いしても頑なに断られる。
「水希ちゃん…好きな人以外に指輪はプレゼントしちゃダメだよ。恋人に失礼だよ」
「でも…」
「でもじゃない。ちゃんと相手のことを考えないとダメ」
また晴菜さんに怒られた。これで二度目だ。晴菜さんは大人で私を嗜める。しっかりとダメなところはダメと言ってくれる。
でも、私も今回は引き下がりたくない。返品するなんて嫌だし、付けなくてもいいから貰って欲しかった。
「付けなくてもいいので貰って下さい…」
「あっ…水希ちゃん、拗ねてる」
「拗ねてないです…」
「ごめんね、それでも貰えない」
「そんな…」
頑なに拒む晴菜さんとどんどん落ち込んでいく私。晴菜さんが指輪を返そうとするけど私は意地になり受け取らなかった。
困った顔をさせたくないのに子供の私は引き下がり方が分からず意固地になる。
「水希ちゃん、、」
「捨てて下さい…」
「そんなことできないよ…」
「じゃ、貰って下さい」
「それも無理…」
「じゃ、私はどうしたいいんですか」
指輪を選ぶとき、ワクワクしながら選んだ。だけど晴菜さんに拒まれ、箱から指輪を出してもくれない。
気持ちがどんよりしてくる。こんなにも頑張って選んだプレゼントを拒否されることが辛いなんて知らなかった。
「ごめんしか言えない」
「もういいです」
「あっ、水希ちゃん待って」
「帰ります」
「待って!」
このままここにいたら泣きそうで泣き虫の自分が嫌になる。必死に背中を向け、涙を堪える。目の前にあった桜の木からわずかに残っていた花びらが落ちてきた。
急激に虚しくなり花びらを拾う。甲子園の土を持って帰るとは違うけど、悔しい気持ちを重ねていた。
手のひらの上に乗せた花びらをポケットに入れようと思った。だけど、花びらが手のひらから落ちていく。
フワリと後ろから抱きしめられ、体が固まる。何度も晴菜さんに抱きしめられたことはあるけど晴菜さんが泣いているから私をパニックにさせた。
「あの…」
「私はどうしたらいいの…キツいよ」
「晴菜さん…?」
「もう何度も諦めるのは嫌なの」
後ろから甘い香りがする。振り向いて、晴菜さんが泣いている理由を知りたくて顔を覗き込んだ。その時、綺麗な晴菜さんの顔が近づいてきた。
甘い香りを漂わせた晴菜さんにキスをされたことに驚き、私の体が停止した。
だけど頭ではこのキスの意味を考え、答えに取りつく前に唇を離される。
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