第256話

「水希、明日の水曜日から週一で家庭教師をお願いしたからね。頑張りなさいよ」


「うん…」


「水希ちゃん、またよろしくね」


「よろしくお願いします…」



晴菜さんはいつもの晴菜さんで「勉強頑張ろうね」って笑顔で言われ、私の心臓がチクチクと痛い。

私の勘違いなのかな…壁があるはずなのに壁がないように錯覚する。新たな恋をした晴菜さんを祝福したいのに応援できない。



「送りますね」


「うん、いつもありがとう」



自転車を押しながら晴菜さんの横を歩き、いつもだったら色々と話すのに言葉が出てこない。

自転車の車輪の音だけが響き沈黙が続いた。だけど、晴菜さんは大人だ。明るく話し掛けてくれて、やっと車輪の音が聞こえなくなった。



「1年が早いね〜」


「そうですね…」


「水希ちゃん、元気ないね。どうしたの…?」


「そんなことは…」



ダメだ、普通に話せない。彼氏のことが気になり、相手はどんな人なのか・元彼クソ野郎とは違うタイプなのか知りたくて不安が拭えない。



「あの…」


「何?」


「・・・何でもないです」


「あっ、そうだ。水希ちゃんに、、」


「聞きたくないです!!!」


「えっ…」



あっ、しまった。つい大声を出し晴菜さんを驚かせてしまった。きっと彼氏のことを言うのだろうと勝手に決めつけ拒否をした。

聞きたくないと私の心が拒否をする。



「これ…プレゼント」


「えっ?」


「生徒会長になったって菜穂ちゃんから聞いてたから、、迷惑かな」


「嬉しいです!すみません、違うことを考えていて」


「良かった。生徒会長頑張ってね」


「はい、ありがとうございます」



あっ、可愛い。寝癖を隠すために被っているいつもの帽子が古く、いつか買い直そうと思っていた。

晴菜さんと久しぶりに出会った時、いつもの帽子を被っていたから気になっていたのかも。晴菜さんは大人で細かい所にも気づく。



「似合ってますか?」


「うん、似合ってる」


「大切にします」



これで晴菜さんにプレゼントを貰ったのは二度目で私は一度もプレゼントをしたことがない。嫌だな…どんどん自分が情けなくなる。

貰ってばかりで、晴菜さんに何もしてあげれてない。でも、大人の人に何をあげらた良いのか分からなくて子供っぽいプレゼントって思われるのも嫌だ。



「あの…晴菜さんの好きな物って何ですか?」


「好きな物?うーん、猫」


「それは好きな動物です」


「物って難しいよ」


「じゃ、食べ物とか」


「どら焼き」


「ふふ、ははは」


「あー、笑ったな」



だって、猫型ロボットみたいなんだもん。でも、やっと私も笑顔になれた。



「あの、晴菜さんに何かプレゼントしたいので欲しい物を教えて欲しいです」


「プレゼント?何で?」


「私は貰ってばっかりなので」


「気にしなくていいよ」


「ダメです!私は手袋もチョコも帽子も貰って…何もお返し出来てません」



本人にプレゼントが何がいいのか聞くのはダメだと思うけど、私としては晴菜さんが欲しいものをプレゼントしたい。



「じゃ、指輪が欲しいかな」


「指輪ですか?サイズ分かります…?」


「冗談だよ。恋人がいるのに他の人に指輪を贈っちゃダメ。恋人に失礼だよ」


「あっ…すみません」



またやっちゃった。何でいつも言われないと気づかないのかな…大人になりきれてない。



「プレゼントとか気にしなくていいから」


「ダメです!」


「頑固者」


「晴菜さんも頑固者です」


「私の欲しい物は手に入らないの…だから、プレゼントは本当に気にしないで」



そんな…手に入らない物って言われ私からのプレゼントを拒否された気分だ。

それか高価な物で私がバイトで稼いだお金じゃ足りないのかな、、それともいらないって遠回しに言われたの?



「あの、、手に入らない物って何ですか?」


「秘密」


「・・・教えて下さい。必ず買うので」


「買える物じゃないから」


「意味が分かりません…」


「えっ…水希ちゃん」



悔しくて、晴菜さんに子供扱いされた事が凄く嫌で涙が自然と流れていた。子供みたいだから泣きたくないのに止まらない。



「どうしたの…」


「私はまだ16だし…晴菜さんより4歳も年下だけど、、子供扱いは嫌です」


「そんな風には思ってないよ。水希ちゃんはしっかりしてるよ」



晴菜さんを困らせている時点で、子供っぽくて自己嫌悪に陥る。この歳の差がムカつく。

あまりに4歳差が大きい。



「涙拭こう…」


「大丈夫です」


「指輪…指輪が欲しい」


「えっ…」


「これは本当に欲しい物だよ」


「じゃ、今度一緒に、、」


「サイズは気にしなくていいから、水希ちゃんが良いなって思う指輪がいい」



私はお姉ちゃん同様、晴菜さんにも一生勝てない。縮まらない歳の差に悩み、迷惑ばかりかける。涙を拭かれ、小さい子供みたいだ。

私は涙を拭く晴菜さんの手を掴む。指のサイズを感覚でいいからちゃんと見たくて自転車を止め触っていると、、指が細くて、女性らしい手に息を呑む。


私の手は少しゴツゴツしてて、芽衣の手は小さく可愛くて、晴菜さんの手は大人の女性の手だ。肌が綺麗で滑らかで、思わず「綺麗な指」と呟いた。

あっ、晴菜さんの手が遠くにいく。「遅くなるから帰ろう…」と言われ、晴菜さん自体が遠くに行こうとする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る