第114話

はぁ、はぁ、私は芽衣家から制服のまま走っている。走らないと体の興奮と疼きが取れなくて、叫びたいのを抑えたかった。

前にも思ったけど、何でこんな時に部活がないんだ…せめて思いっきり走れたらいいのに。



「ただいまー」


「水希、遅かったね、どこかで勉強してたの?」


「図書室」


「赤点取ったら許さないからね」



分かってるよ、生徒会役員は赤点なんて許されないと耳にタコが出来るぐらいお姉ちゃんに聞かされた。

だから、芽衣とのことも我慢してるのに。ただ、お姉ちゃんと元々の頭の器が違いすぎてなかなか勉強が進まなすぎる。



「あっ、これ。あげる」


「何?あっ、チョコのお菓子だ」


「前、水希に渡して欲しいって言ってきた女の子に…また貰った」


「誰なんだろ…?」


「分かんないわよ…可愛い子で、髪を2つ結びしてた」


「2つ結び…遠藤さん?」


「知ってるの?」



お菓子作りが上手で、髪を2つ結びの女の子だと遠藤さんしか思いつかない。それに、前バスの中で会った時お互いの最寄りのバス停がそこそこ近いことが分かっている。

でも、何でお姉ちゃんに渡したのかな?直接、学校でくれたらいいのに。



「遠藤さんは最近知り合った女の子だよ」


「ふーん、お菓子に釣られちゃダメよ」


「私、食いしん坊みたいじゃん!」


「食いしん坊じゃん」



食いしん坊なのは当たっているからこれ以上言い返せない。お菓子に釣られて軽音部とのコラボが決まったぐらいだし…私は食い意地が張ってる。

でも、運動するとお腹が空くし…甘い物はすぐにエネルギーチャージできるから最高の食べ物なんだ。


このお菓子、美味しそうだ。前、貰ったチョコのお菓子も美味しかったしマドレーヌも美味しかった。

遠藤さん家庭部だし、お菓子作りが好きなのかな。味見だったらいつでもするのに。



「名前…遠藤さんの名前、ちゃんと教えて」


「遠藤さんの?遠藤美南だよ」


「遠藤美南…要注意だわ(恭子にLINEしなきゃ)」


「何で要注意なの〜?」


「私の妹なのにダメな子だわ…それとも無自覚のタラシなの?」


「何で貶すのー!酷い!それにタワシって、意味分かんない」



無自覚なタワシって初めて聞いた。もしかして私が亀の子タワシに似てるって意味?もしそうだったらかなりのショックだよ。

一応、夏は日焼け止めを塗って焼けないようにしたけど焼けて茶色いのかもしれない。女子力の低下が怖い…。



「はぁ、、バカ…」



お姉ちゃんがさっきから酷いことしか言わない。もういいよ…疲れたし、早くお風呂に入って寝たい。試験勉強は明日にしよう。

テストは赤点さえ取らなければいいから…赤点さえ取らなければ。



「お姉ちゃん、何?…ジッと見て」


「普通よね」


「分かってるよ!」


「芽衣ちゃんはどこに惚れたのかな」


「中身!」


「そうね、水希は優しいからそこに惹かれたのかも」



貶されて褒められてプラマイゼロすぎてちっとも嬉しくない。見た目は中の中だけど、中の中が好きな人がこの世にはいる。

きっと芽衣がそれで、中身もプラスされて好きになってくれたと思う。芽衣は見た目も性格も良いから羨ましい…(小悪魔だけど)


大体、見た目も性格も良い人なんてズルすぎる!欠点を補正せずに生きれるなんて羨ましすぎるよ。

お姉ちゃんも恭子先輩もひかるも…なぜ同じ人間なのに差が出るんだ。不公平だ。



「はぁ、お腹空いた。お風呂から上がったらお菓子食べーよっと」


「私も頂戴」


「えー」


「預かった私も食べる権利がある」



遠藤さんのお菓子は美味しいから独り占めしたかった。お風呂上がりに食べようと思っていたお菓子をお姉ちゃんに半分取られあっという間にお姉ちゃんの口の中に消えていく。



「これ、美味しい〜」


「遠藤さん、お菓子作り上手だよね」


「ひかるちゃんと同じぐらい美味しい」


「うん、私の周りお菓子作り上手な人多くてラッキーだよ」


「はぁ…芽衣ちゃんが大変そう」



嘘でしょ…お風呂上がりに食べようと思っていたお菓子をお姉ちゃんに全部取られた。

急にため息を吐いたと思ったら、手に持っていたお菓子を奪い取られ「私が成仏させる」って意味の分からない言葉を言われた。


何、成仏って!ってか、私のお菓子、、一口も食べれなかった。遠藤さんのお菓子、楽しみにしていたのに。

酷いよ、私が貰ったお菓子なのに…お陰でお腹が空いた。微かに甘い匂いが袋からして余計に私の胃袋を刺激する。



「私のお菓子…」


「水希、色んな人からお菓子を貰うのやめなさい」


「何でー」


「餌付けされてるって分からないの?」


「餌付けって、、動物じゃないもん」


「誕生日に遠藤さんからお菓子貰うのやめなさいね」


「貰う予定ないよ。遠藤さん、私の誕生日知らないと思うし」



お姉ちゃんは私を何だと思っているんだ。餌付けって、そんなにお菓子にホイホイと釣られるタイプに見えるの?

今のところ1度だけだ。もう2度と釣られないって決めてる(軽音部とのコラボがトラウマ級)



「あっ、でも…誕生日にひかるからガトーショコラ貰う予定」


「芽衣ちゃんは知ってるの…?」


「知らないけど、、」


「だったら内緒にしなさい。誕生日に恋人が他の人からケーキを貰うとか良い気持ちしないから」


「分かった…」



お姉ちゃんに窘められ、反省するのが正しいと思うけどいまいちピンとこない。何でケーキを貰っちゃダメなのだろう。

ひかるは誕生日プレゼントのお返しとしてくれるだけだし…それでも芽衣からしたら嫌なのかな?

私は鈍感なのかもしれない。難しいよ、、善意と好意の境目が分からない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る