第34話

ふぅ、危なかった…。恭子先輩が私達を探しに来てくれなかったら、私は芽衣にキスをしていたかもしれない。

芽衣の気持ちも考えず、身勝手なキスなんてしちゃいけない。同意のないキスなんて最低のキスだ。


芽衣のファーストキスの話を聞いてから私はおかしくなった。相手がどんな人なんだろうって…。そのせいで、私達の関係がギクシャクしたような気がする。

くそ。相手、誰だよ…考えてしまうとムカついて仕方ない。このイライラする感情を教えてほしい。私には分からなくてずっと彷徨い続け、負のループしかできない。


お陰でモヤモヤとイライラが止まらなくて毎日が苦しい。私は高校生になってこんなに感情の起伏が激しいって知った。

中学生の時はこんな気持ちをあまり持ったことがなかった。いつもへらへらしてて…。

私はどんどん子供っぽくなっていく。大人になりたいのに、ずっとガキのままだ。



「2人とも探したんだからねー」


「恭子先輩、今日はもう帰っちゃダメですか?芽衣の気分がすぐれないみたいで」


「そうなの?分かった。先生に言っとくよ。水希は芽衣ちゃんを送ってあげて」


「はい」



まだ、芽衣の目は赤いままだからこのまま戻ったら目のことを聞かれるだろう。

だったら、このまま帰った方がいい。丁度、部室にいるし2人ともすぐに着替えられる。



「芽衣、着替えて帰ろう」


「うん」


「恭子先輩、ありがとうございます」


「2人とも気をつけてね」



恭子先輩が部室を出て行ったあと、2人で着替えて私達はゆっくり歩き出す。

さっきのことは無かったことにして、、実際に何もしてない。でも、私があのまま芽衣にキスをしていたらどうなっていたかな?

激怒した芽衣に頬を叩かれたかもしれない。最低って罵られたかもしれない。怖いよ…芽衣を失うところだった。


自分が怖すぎる。自分がなんで芽衣にキスをしようとしたのか分からなかった。

衝動なのか気まぐれなのか、、キスへの憧れなのか。正解が分からない、ただ体が勝手に動いていた。

家に帰ったらきちんと考えよう。モヤモヤ・イライラの先に答えがある気がする。







お祭りの華やかな雰囲気が好きだ。ワクワクして賑やかで、子供心に戻れる。

年齢的にはまだ子供だけど、更に小さい子供に戻った気分になる。

今日は散々悩んで、動きやすい格好で来た。お姉ちゃんは浴衣を着て、彼氏とお祭りデートをしている。私は私服でお祭り感ゼロだ。


でも、私まで浴衣を着たら芽衣が足を痛くなったとき何も出来なくなるのが嫌で普通の服にした。この格好だったらおんぶもできるし、芽衣を守ることができる。

お祭りはナンパをする人がいるから気をつけないといけない。小さくて可愛い芽衣は狙われそうで、私がナイトとして護衛をする。



「水希、お待たせ」


「おっ、浴衣似合ってるよ」


「水希は浴衣着なかったの?」


「うん、私は護衛にまわるから」


「ふふ、何それ」



芽衣と普通に話せることに感謝だ。恭子先輩、ありがとうございます。あの時、来てくれなかったら危なかったです。



「じゃ、行こう」


「水希、りんご飴食べたい」


「私はチョコバナナ」



お互いお祭りに来てすぐに食べ物屋に行き食い意地が張ってるけど、屋台こそお祭りの醍醐味だから楽しみたい。

雰囲気と賑やかさと食べ物。この3つをきちんと味わえたらお祭りは完璧で、10代の私達は食い意地が張ってるぐらいが丁度いい。



「水希、りんご飴美味しい!」


「一口頂戴」


「あんまり食べないでね」


「いいじゃん、ケチ」


「私もチョコババナ欲しい」


「じゃ、交換ね」



りんご飴って美味しいけど少し食べにくい。飴が齧りにくくて、歯にひっついてしまう。

うん、でも美味しいから許せる。食べにくさもお祭りの醍醐味だ。

私達はお互い赤い舌を見せ合って笑いあった。やってることが子供みたいだよね。


やっぱり甘い物を食べたらしょっぱい物を食べたくなる。甘いチョコバナナを食べ、次はたこ焼きかイカ焼きを食べたいなとキョロキョロと探していると、お姉ちゃんと彼氏さんが手を繋いで歩いているのを見つけた。

ラブラブでいいよね…楽しそうに笑いあって、、羨ましくなんてないからね!



「あっ、会長と彼氏?」


「うん」


「お似合いだね」


「そうだね(お姉ちゃん、絶対猫かぶってるけど)」



実の姉の恋愛事情を見るのはむず痒くて、恥ずかしくなり私は芽衣の手を引いてこの場から離れた。

お姉ちゃんはもう彼氏とキスをしたのかな?それとも…先のことも経験したのかな?

確か、付き合って半年…だったら全部経験してる可能性高い。


嫌だな、少し想像しちゃった…流石に姉のそういう想像はキツい。私は大きく頭を振りかぶり、やっと変な想像を消した。

このままだと、芽衣の嫌な想像もしてしまいそうで嫌だった…想像なんてしたくない、男の人に抱かれている芽衣なんて絶対に。



「芽衣、少し休憩しようか。ここに座って」


「水希も座ろうよ」


「狭いからいいよ」


「私だけなんて嫌」


「意地っ張りめ」



狭い石の上に2人で座り空を眺める。星が綺麗で、さっきまで屋台の明かりで星の輝きが分からなかった。

夏の星ははっきり星が見えて綺麗だ。あの星、夏の大三角だっけ?星には詳しくないけど何となく三角形に見える。



「水希、最近困らせてばかりでごめんね」


「本当だよ」


「ごめんって…」


「チョコレートケーキくれたら許す」


「それは誕生日にあげるから」


「練習用を食べさせてよ」


「でも…」



本当はいますぐ欲しい。芽衣が欲しくて堪らない。この衝動を誰か止めてほしい。今にも動き出しそうな手を掴んで欲しい。

楽しいお祭りなのに、初めての欲望が表に出てきそうになっている。芽衣が欲しいよ。

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