第10話

「きゃー、水希もっとゆっくり走ってよ」


「ゆっくりだよー」


「おんぶされている方は早く感じるの!」


「じゃ、しっかり捕まってよ」


「うぅ…分かった」



おんぶされている芽衣が私の背中から少し体を離すから揺れを感じやすいと思う。

でも、やっとしっかり私の背中に掴まってくれたお陰で芽衣を背負う私も安定する。

あっ、距離が近くなり芽衣の匂いが漂ってきた。いい匂いだな、この匂いを嗅ぐと心が安らぎ気持ちが落ち着く。



「重くない…?」


「軽いよ」


「水希が見ている目線ってこの高さなんだね」


「高いでしょー」


「ムカつくぐらい高い」


「ねぇ、芽衣はさ」


「えっ…」



うわーうわー、危なかった!顔を横に傾けて話そうとした瞬間、芽衣の顔が近くにありキスをしそうな距離だった。

ファーストキスがこんな形でするなんて嫌だ。時々、友達同士でキスする子いるけどあれはどんな気持ちでやってるのだろう。


私は冗談でも流石に嫌だ。やっぱりファーストキスは好きな人としたい。

芽衣はキスの経験はあるのかな…。きっと可愛いから中学の時にはもう恋人がいたかもしれない。

キスか…キス///。芽衣が彼氏とキスしている絵を想像してしまった。ドキドキする。



「水希、そろそろ降ろして」


「えっ、うん」


「もうすぐ始まるからクラスの所に行ってるね」


「分かった」



芽衣はやっぱりキスの経験があるのかもしれない。私はこんなにもドキドキしているのに平然としている。

でも、なぜだろう?平然としている芽衣にショックを受けている自分がいる。

ダメだ…今から大一番の部活対抗リレーがあるから心を落ち着かせないといけない。

ウォーミングアップも終わったしあとは頑張るだけだ。芽衣にカッコいい姿を見せたい。









「さぁ、午後の部が始まります!皆さんがお待ちの部活対抗リレーです!」



放送部のアナウンスで全校生徒の盛り上がりが凄い。部活対抗リレーは5人でバトンを回しグラウンドを半周ずつ走る。そして、アンカーは1周を走ることになっている。

運動部と文化部に分かれ走り、運動部は選ばれた4つ部活、陸上部・バスケ部・バレー部・テニス部で、そこに戦いを挑むのが生徒会だ。


だけど、今年の生徒会はそれぞれの運動部の実力者が集まっているから接戦になると予想されている。

生徒会は去年まで文化部に所属しているメンバーが多く、文化部の部活対抗リレーに出ていた。でも、今回は全員運動部のメンバーばかりで運動部の部活対抗リレーに出ることになった。


だから、お姉ちゃんが気合入っている。私はお陰で気が重いよ。

周りを見渡すと予想通り陸上部は恭子先輩と私と同じ短距離選手の1年生のメンバーが出場する。私のライバルがいた。



「水希、勝つよ!」


「お姉ちゃん…お腹痛い」


「はぁ?気合よ!負けたら許さないからね」


「(小声)鬼軍曹め…」



もうやるしかない、やるしかないんだ。今日まで頑張ってきた…絶対に勝ってやる。勝って・・あぁ、文化部のリレーが始まった!

周りから頑張れーって声援が飛び交っていて、文化部でこの声援の多さなのに運動部への声援は文化部の5倍以上と聞いている。

そんな声援の中、私はグラウンドを一周走らないといけないなんて地獄すぎる。



「おぉ!文化部の1位は吹奏楽部です!!」



凄い…生徒の盛り上がりがどんどん上がっている。周りからバスケ部頑張れーや生徒会の名前も聞こえてくる。やばい、心臓の鼓動が早くてドキドキが半端ない。

あっ、芽衣が真剣な顔でこっちを見てる。両手を胸の前でギュッと握り、、芽衣に良いところ見せたいから頑張らなきゃ。


よし!やれる!もう前しか見ない!



「さぁ、それでは運動部の部活対抗リレーが始まります!出場者の皆さん、位置について下さい」



私は陸上部の短距離選手でアンカーとして走る。生徒会としても陸上部の短距離選手としても不甲斐ない結果は残せない。

勝ってやる、絶対に勝ってやる。



(パァーン!!!!!!)



「みんな一斉に走り出しました。ただ今、横一列で順位はまだ分かりません!」



先輩…頑張って。できれば、私にバトンが回ってくるまでに少しでも差が付いてて欲しい。できれば、1位でバトンが回ってきて!



「さぁ、3人目にバトンが渡りました。ただ今1位は陸上部!2位はバスケ部!3位は生徒会となっています」



3位…先輩、頑張って、、それにしても陸上部は仕方ないとしてバスケ部が早い。流石、コート内を毎日ダッシュで走り続ける体力と筋力、やっぱり凄すぎる。

4人目は生徒会長でもあるお姉ちゃんの番だ。お姉ちゃんは長距離選手だけど、毎日走り込みをしているから足には自信がある。


だから、せめて2位でバトンを下さい。私と同じ陸上部のアンカーは足がめちゃくちゃ早いの。期待の1年生メンバーで一度も勝ったことがないライバル。

だけど、陸上部はお姉ちゃんと同じ4番手のメンバーが短距離選手の恭子先輩だ。これは非常にまずい、めちゃくちゃ厳しい戦いだ。



「バトンが4人目に渡ります!!!おぉ、順番が入れ替わりました!生徒会長がバスケ部を抜きました!生徒会長〜凄ーい///」



今のアナウンス、私情が入っているよね。喋り方が乙女になっていたけど…はぁ、そんなことより次は私の番だ。

お姉ちゃんが必死に頑張っている。芽衣も心配そうな顔で見ている。絶対芽衣を喜ばせたい、笑顔で勝ったよって言いに行きたい。

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