第17話 七夕ゲーム




「ただいま~」

「あにぃお帰り。…チッ、こいつ要注意だな…遠距離戦にさせないために近くで戦闘開始してすぐ殺すかセントラルシティなり障害物の多いところに誘うか…」


 …琉生のデスクをのぞき込むと…銃撃戦の戦いをしていた…いや、戦い見ている。


「何やってるんだ?」

「あぁ、大会の予選の観戦…」


 だが、琉生は僕を横目でチラッと見て、ため息を吐いた。


「ふぅ…仕方ないなぁ、あにぃなんだよ。言いたいことがあるんでしょ?」

「…ギク…」

「バレバレ。言ってごらん、聞いてあげるから」


 ヘッドセットを外して、椅子の上に足を置き、頬杖を突く琉生。

 なんだこの圧倒的下民感…。だがしかし、僕はリア充になるかもしれないのだ!そう!


「…僕、彼女出来るかも」

「は?」

「いやぁ~実はねぇ~」





「それ、朗報でも何でも無いよ」

「へ?」


 最初は呆れた目立ったけど、事の顛末を話し終える頃には、琉生の目はいつの間にか、僕を憐れむものと変わっていた。


「恋愛対象に入ってるだけで別に好きじゃない。あるいみ、ようやく周りと同じスタートラインに並んだってレベルかな?

 うわーおにーちゃんが女子の恋愛対象に入ってるなんて驚き~すごいね~おにーちゃ~ん」


 煽りも煽り、酷い煽られようだ…。


「うそ…」

「例えばミナ姉ぇが僕に惚れることもある訳、それと一緒。

 なんだい、彼女がどうのとか言うからリア充になったのかと思えば違うんだ。つまんな」

「…引きこもりのくせに!僕より人付き合い無いくせに!実は素の自分だとコミュ障がバリバリ全面に出てくるクセに!」

「あ~はいはい。陰キャは黙ってろ」


 もう相手にしない、とヘッドセットを付け直した琉生は、話を聞いてくれるようではなさそうだ。





「…やっと終わった…」

「あぁ…期末試験も終わりだね」


 7/7、七夕の日、ようやく試験が終わった。

 この学校、中間試験がない代わりに期末試験が早い。今日から十日間試験休みだ。


「よし、じゃあ解散してよろしい!期末試験お疲れ様!」


 その号令をかけ声に、一斉に生徒がクラスから去る。皆今日は家で休むん…。


「お~い!このままカラオケいかね!?」

「映画だろ!」

「ボーリング!」


 廊下に出た途端、リア充が騒ぎ出した。一応道草は禁止だけど、教師も今日だけは黙認している。

 …そう言う道草、僕一回もやったことないんですけど…てか貴方たちまだ一年生だよね!?なんでそんな仲良しなの!?


「さ、僕等も部室に行こうぜ。今日はゲームを考えてきたんだ」


 まぁでも…横を歩く上機嫌のミナを見る。別にいいか、と思えてきた。





「…七夕ゲーム?」

「そ、まぁと言う名のただのケンパ遊び。ほとんど片足だからケンケンなだけだけど」


 ミナはテキトウに人1人分の面積の輪っかを投げる。

 部室棟の裏の広場。誰1人として通らない場所だ。


「で、彦星と織り姫。この輪っかは2人を結ぶための橋。

 彦星は織り姫と同じ輪っかにはいれば勝ち。出来なければ織り姫の勝ち」

「途中まで設定が原作に忠実で最高じゃねぇかと思ったけどさ。織り姫の勝ち条件が完全に生命保険狙いの結婚詐欺師なんだけど」

「思いつかなかったんだよ。ルールは簡単。1つの輪っかに一本の足。地面に手を突いたり、輪っかからはみ出るとアウト。地面に付ける足は変えていいよ

 さ、どっちをやりたい?ちなみにジュース一本の賭け」


 ミナは自分の足下に輪っかを落として、両手を挙げた。そのまま伸びをする。


「…じゃあ男だし彦星で」


 少し考えてから言う。多分、ミナなら次にこう言うはずだ。


「「ジェンダートラップ!」」


 声が重なる、なんとなく嬉しくて笑みが浮かんできた。





「彦星!その鷹を踏みつけて私の所まで来て!」

「…言い方よ。言い方なんとかしなさい」

「台詞通り言って!アドリブでちゃんと台詞作って」

「…織り姫、待っていてくれ。君を絶対に取り戻して見せる!」

「ギャグセンスゼロだね」

「煩い!行くよ!」


 片足を上げて次の輪まで跳ぶ。結構遠いっ…。


「結構苦しいだろ?足交換ありとは言え、最後は2~3mぐらいかな?」

「…鬼畜だな…」

「ねぇ、彦星、落ちずに私の所まで来て!」

「…あぁ、行くよ…絶対に!一本のジュースに賭けて誓う!」

「ギャグセンス70点かな。結構面白かった」


 輪はスタートゴール含めて八個、つまり七回跳べばたどり着く。跳ぶ回数も七夕と掛けてるなら座布団一枚だな。


「お、簡単にくるねぇ。まぁ最後のこのジャンプが勝負かな?ちなみに僕を押し出してもアウトだから」

「なんだと!?」

「大丈夫だって、僕も後ろに下がっておくから。競技の妨害はしないよ」


 …最後のジャンプ…かなり長い…けど…。後ろに下がって足を入れ替える。

 助走を付けて…跳べっ!

 ミナに向かって跳ぶ。飛距離は十分…いや、十分すぎる。このままだとミナにぶつかる…。


「わわっ…」


 なんとか着地する…けど、ミナを押してしまった。ミナが倒れていく。


「っと…!」


 なんとか手を掴む。けど、片足じゃ安定しないで結局、両足をついてしまった。いや、そんなことどうでもいい。

 倒れかけたミナを引き寄せる。凄く急接近して…心臓が跳ね出す。

 いや、これはチャンス!格好いい台詞を言えるチャンスだ!


「大丈夫だ。俺がいるから、お前を守ってやるよ」

「っ…!…い、いつまでくっついてる気だい!この変態!

 助けてくれたことは感謝するけどJKの腰に手を回すな!

 ぼ、僕だって乙女なんだ!ドキドキするんだよ!」


 アニメのシーンを思い出していたら、そのキャラがやっていたように腰に手を回していたみたいで…ミナを怒らせてしまった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る