誕生日

景文日向

プレゼント

「そうねぇ、優也も大きくなったしそろそろ携帯を買ってもいいかしら」


中学生になってから初めての誕生日に、母は言った。

前々から三歳上の兄が携帯を持っていることを理由に買って貰おうとしても、

「まだ早いわよ」で片づけられていた。

どうやら両親で「この日に買おう」と決めてあったようで、俺はすぐショップに連れていかれた。


着くと、予約済みだったらしくすぐに俺達は呼ばれた。

選択権は無く、用意されていた携帯電話を手渡される。


「お兄ちゃんがね、「アイツならこれきっと好きだぜ」って選んでくれたのよ。どうかしら」


確かに、この携帯はとても良い。見た目も格好良く、俺の好きな青色が映えている。

機種も最新なので、機能面でも申し分ない。俺の思考を兄に見破られているようで、悔しくもなってくる。

「確かに良いよこれ。ありがと」

そう礼を言い、俺達は携帯と共に家に帰った。


ただいま、とドアを開けるとそこには兄がいた。

「おかえり。携帯どうだ、良い感じか」

そう聞いてくる兄の表情は、何処か誇らしげだった。自分の見立てに、自信があるのだろうか。

「良かったよ、ありがと。何で兄貴はあの機種にしたの」

純粋な疑問をぶつけると、兄は答えた。

「……んだよ、母さんバラしちゃったのかよ……。俺が買うとしたら、あれにするから。

それに、お前が好きな色があったからな。母さんに任せたら、ダサいのになりそうで可哀想になって」

兄は自分の携帯を手に取り、いじり始めた。

兄なりの照れ隠しだろう。俺はもう一度「ありがと」と言い部屋に帰った。


今日は、良い誕生日になった。欲しいものも手に入り、兄の想いにも少し触れられた。

俺は幸福感に包まれながら、そっと眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

誕生日 景文日向 @naru39398

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ