働き蜂

秋山ひかや

プロローグ

 小山の黄昏で影の小さな二人が手をつなぐ。黒い髪、白い服、胸の前につくのは名札だ。196418の少年と317811の少女。ぐしょぐしょになった彼らが濡れた草に打ちつける。獣が捕食者から逃げているようだ。前の少年が立ち止まるので少女が危うく転げるところだった 。

「どうしたか」

 問われる彼は彼女を見ると何かを考える。

「速くなきゃ」

 うながしている彼女に彼が近寄る。

「ねぇリカ、聞いて。俺が君が一人で逃げてほしい」

「え!? 何を言ってるの。私がなんて君を残すもんか。一緒に行こう」

 ためらう声の彼が彼女を見る。

「俺を見て! 使命が君に待っているだろう」

「――」

 すすり泣く彼女が辛い涙を飲み込む。

「そのため行きて!」

 言った彼が首飾りを解くと赤くなった目の可愛い女につけて肩を軽く叩く。

「君が行く後で捕まえられると思う。けどやっと方を探す。そして君に追いつける。だからあの時まで俺の分も尽くしてほしい」

「うん」

 優しく笑う。

 ――

 彼らが抱きしめ合う。感情を抑えなくなった彼が涙を覚えた目が赤くなる。

「大丈夫、また出会う」

「うん」

「またね」

「バイバイ」

 その姿が森の緑にだんだん合い消えると見る彼が叫ぶ。

「おい、室外クラブって嬉しかった!」

 ぞっとしている手をきつく握り締める彼が振り返って深い息を吸う。いきなりどこから空間で赤い線を描く。

「ああ――」

 倒れた彼、壊れた足の骨、流した血。矢が足を突き抜けた。

 赤く帯びる服と変化刀を武装されるグループの兵士の三人が現れてキヨのところに近付く。

「おい! ま! こいつ! 戻ってくるね!」

「英雄と思ったかバカ」

 彼らが笑う。痛みが落ち着いたキヨが立つ。

「――」

 グループから兵士の一つは立つばかりのキヨの腹を殴る。膝を崩れ落とした彼がもう一度立ち上がる。他の兵士が彼の尻を蹴ると残った兵士が彼を顔を打つ。

「うい、固い!」

 くらくらとキヨが地面に崩れ落ちる。鼻から血が来た彼が起きようとすると足が滑り落ちる。彼らがじっくりと残虐に彼をぶっ飛ばし始める。すると突然彼らが止めた。

 池面に伏せる彼は頭に重さが増すと感じられる。仰いで見上げる。黒いブーツ、朱のコート、ベルトに矢筒とボウガン連れていく男が彼の頭に踏んでいる。

「アルドさま。残った女が逃れた」

 足を納める。

 グループから兵士の一つがキヨの頭を下げて抑える。

 何かを呟くアルドが一歩進んで目の前の森を眺める。左手の食指の鉄爪から空気でぱちんと鳴らす金属の音。足掻いているキヨの可哀想な目と氷のように冷たい彼の目が出会った。何かを思い出した恐れの作り笑うアルドが屈み込むとキヨの前髪を握る。

「ねぇ昔話聞きたい?」

「――」

 手を放つアルドがあちこち歩き回りながら語りかける。

「昔昔、ある法官がパーティのために狩猟をした。彼は皆に怪傑と呼ばれた」

アルドが言いながらホルスターに納めているボウガンを抜く。

「なぜなら彼のボウガンの技能が――

――上手だ」

「ごめん、ごめん、いい形容詞あるなら教えて」

「狙うこと光を測ることも上手だよ」

アルドが一矢を矢筒から抜くと銃身の溝に矢を置くと矢固定装置部分に押す。

「だけど勘違いするな。怪傑つなわち法官ではないぞ」

 後ろの兵士たちがまだ明らかな悟りもないと何を語られると丸い目で見張り合っている。アルドが手に銃床を持ち振りながら物語を続ける。

「たとえ怪傑がどんな偉い戦功を達しても突然法官になることできないだろう」

「――」

「うるさいな!」

 引き金を引いた。矢は抑えている兵士の頭を飛び越してキヨの足に突き通した。

「ああーー」

 大声でキヨが叫ぶ。

「お前の呻きが俺に嫌感じさせるので黙れなきゃ次の矢は足ではないぞ! 続けよう」

 撃ったアルドが他の矢を抜くと装置しながら語り続ける。

 かなり遠く逃げたリカは響き渡る叫びが聞こえる。キヨの声だろうと彼女が不安に襲われる。何が起こるのと知りたい彼女が周りに見回すと小丘が見つかった。茨があっても彼女がそこに上ると決めたんだ。

「怪傑と言われる通り。一匹、二匹、三匹、一旦えじきを見えると一撃のもとに倒す。狩猟のことがかなり好都合、最後パーティできると思う休みつもりがある。けど鹿の群を出会った法官が止めたいのに怪傑がその馬鹿なシカを狩ると仕向ける」

 茨がある木丘けど彼女がやっと頂に上った。それなのにはっきりと見えない。

 すくめるアルドが森に向かうとやや作り笑う。

「彼が鹿のカップルの一つを選ぶ。そのカップルは夫婦か恋人か友人か兄弟かもしれない。法官がただ法官だ。裁くのは彼の仕事だ。草むらから豹のようにひそかに近付く。ひとつずつ、かさかさと。ばらされちゃった。しかし彼も怪傑なので待ち伏せのは楽しむだけだろう。崩れた草むらから立つ彼カップルの中で可哀相な鹿を狙うと撃った。結果が誰にも知った。トロフィーで怪傑に満足させなきゃいけない法官が微妙な状況に落ちた。それは逃れた鹿の友達が振り返る。彼が考える。

『なぜ! 彼は友達が犠牲になって助けられたのに!』

『なぜ! これは馬鹿なシカではないか!』

『正義のため、復讐のため、そのシカを殺す決めを裁く!』

と考えるではないぞ!

『俺がまだ法官するべきか! 怪傑になるべきか!』

と考えているんだ」

「ま、ま、どちらにしても結果が一つだ、何を知ってるん?」

 むせび泣くキヨが哀願する。

「アルドさま、彼女を赦していただけませんか」

 沈黙しか何もなくキヨを見詰めている彼が踵を返すと森に進んでボウガンを上げて狙う。

 涙の中で抑えられているキヨが身体の力を尽くしてアルドを手で空中に絶望に引き努める。アルドに届かない間がだんだん遠のくようだ。

 森の隅々に生火木が赤く染める矢庭に茨の隙間から覗くリカにびっくり恐れさせると彼女が素早く逃げる。顔や髪が汗だく彼女が茨を渡る。とげが刺さった足に血が来る。喘ぐ彼女が振り返らなく必死に走る。

「さよなら、シカちん」

 ソフトな叫び声の矢が赤い跡線を無慈悲に空間に描く。逆らえないキヨが土にうつ伏せる。小刻みに震える唇。濡れた目の上にのは本の痛みだ。彼の心の中に何かがばらばらになった。

 彼を持っていくとグループを合図するアルドが手を上げて軽く振ると森の方に向かって遥かに望む。

 赤い火染められる森の奥のは地面に伏せる動かない身体の少女だ。

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働き蜂 秋山ひかや @akiyamazero

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