第97話 亀裂

「オートマトンの調整の時間を稼いでくれた礼に、見逃してはあげようかと思ったんだけどね」

 と、アーサーは腕の時計を見やる。

「……、あと少しか。手始めに、僕の実力を見せてあげよう」

 アーサーは銃を構えるが、よく見れば普通の拳銃と違いブレードが付いている。近接戦闘ができるよう近接武器を取り付けた拳銃のようだ。

「これでも僕はエリクシル《銀の水》を飲んでいるし、さらに肉体改造も施している。侮るなよ?」

 と、アーサーは姿を消す。功夫遣いの縮地を模したような、俊足の足運びだ。

「ちッ!」

 ブレットが拳銃の引き金を引く。一発、二発と撃ち込まれるが怯む様子はない。

「功夫遣い共と一緒にするなよ」

「ぐッ」

 アーサーの刃はブレットの腕を掠めるが、それだけではすまさない。

「ブレット!」

 慌てたクロウリーが拳銃のトリガーに手を掛けようとするが、アーサーはそれを許さない。

「まず貴様からくびり殺してやる。副官が死ぬのを見て絶望しろ」

「ぐっ、あが……」

 ブレットの首が閉まり、呼吸が詰まる。

「手を放しなさいッ!」

 クロウリーは我に返り、ナイフを抜き放ち、アーサーに切りつける

「ちッ……」

 さすがにナイフで斬られた痛みまでは無視できなかったらしく、反射的にブレットを放り投げた。

「ぐ……。化け物め」

 ブレットは締められた首を抑え、毒づく。

「ふん、異能者狩りをしていた異能者に言われたくはないね」

「おおおおッ!」

 クロウリーが我を忘れてナイフをアーサーめがけて振り回す。ブレットを殺されかけたのがよほど堪えたようだ。

 近接戦闘の技術も知っているが、それを忘れるほどクロウリーは激高してした。

 ――せめて一太刀でも!

 そう思うのは、結局利用された無念を思えばこそだった。

「鬱陶しい、纏めて殺して――」

 アーサーが腕に氣を籠めた時だ、上空からの声が切り裂いた。


「貴様、何をしているッ!」


 《座天使》ソロネの声だった、空に上がっていた天使も悪魔も供にいる。京たちと和解した後、仔細を報告するためにクロウリーの元に戻ってきたのだ。

「召喚獣が戻ってきたのか。健気な奴だ」 

「答えろ、何故聖女殿を殺そうとした。返答次第では――」

 ソロネがアーサーに凄むのだが、アーサーはククッと笑い。

「必要なくなったからだ。これ以上に言葉がいるかい?」


「なるほど……。ならば我が煉獄の炎で聖女の敵を焼き尽くしてくれよう!」


 ソロネは杖を剣に変え、アーサーめがけて炎を放ったのだった。

 

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