第92話 功夫絡繰兵哪吒
「
「むッ、哪吒の炎の功夫を模倣しているのか!」
フェイは自らの外套でナタクの炎を防ぐ、フェイの外套は西洋の外套に似せてあるが、その材質は妖怪変化である火鼠の皮をなめしたものだ。
耐火性だけでなく、下手な金属製の鎧より硬度があるのだ。
「フェイ!」
陣がフェイとナタクに割り込みナタクの腕を狙い炎剣を振るう。
「なにィッ!?」
哪吒の腕は斬れず、逆に陣の剣を弾いたのだ。
炎剣は二千度を越える熱で鋼鉄すらバターのように斬り割いてしまうほどで、数多くの絡繰兵を斬り裂いた炎剣だが、ナタクを構成する金属は耐えてしまったのだ。
「あれは
頼が槌を構える。雷槌という新型の機械槌だ。
「加速器起動!」
頼が雷槌の柄を握ると、凄まじい起動音が鳴り、槌からジェット噴射を吹き出した。
加速させることですさまじい打撃力を叩きだすのだが、無論、ジェット噴射なのだから仙人ではない只人の身では厳しいものがある。
頼が身に着けている鎧は
まだ実験および改良段階ではあるが、成果は上々のようだ。
「おおおおおおおお!」
頼は雷槌を振り上げて絶叫し、飛び上がるのだが――。
「
哪吒が拳を構えると、突如巨大な炎の壁がその眼前に現れる。 どうやら炎壁は極陽拳や極陰拳にもあるような防御技のようだ。
「――ッ!」
頼は哪吒の炎を浴びてしまう。増強鎧もまた特殊な素材でできている、大火傷を負うという事態は避けられた。
飛び退く
「頼!」
凛が駆け寄ると、頼はその場に座り込み。
「凛、すまん……」
「怪我は、なかったようですね。でも一応見させてもらいます」
救急キットから診察道具を取り出し、診るが異常は見られなかった。とはいえ大事をとる必要はある。
「帝と陣隊長ばかりに任せてばかりではいけないからな……。もどかしい」
こう頼が意気込むのは先日大量の絡繰兵に負傷させられ、戦線離脱させられた時の事を思い出すからだ。
――帝直属の精鋭に選ばれたのだぞ!
代々士官を輩出しているエリートの家系である頼としては戦果を上げたいと思うのは当然のことだ。
「くっ、致し方なし――、か……」
フェイと陣はナタクから距離を取り、射撃を主とした戦術に切り替える。
射撃は功夫遣いには有効な戦術だと思われがちだが、
「縮地――」
哪吒が瞬時に距離を詰めてきた。足に着けた車輪によるローラーダッシュだ。
功夫遣いの基礎であり遠距離攻撃の対策でもある縮地の再現だ。それは瞬時に距離を詰める事で射撃をするいとまを与えない。
「
「ちッ!」
「ぬう!」
フェイと陣は距離を詰めた哪吒の炎を纏った蹴りを喰らう。
致命傷は避けられたが、哪吒は縮地まで修めており、射撃で牽制する手も使えない。
「絡繰兵ながら、
象棋――中国における将棋に似た盤上遊戯の事であり、フェイは歯噛みさせられるしかなかった。
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