第72話 老師、見参!

 突如、華麗に着地して戦場に現れたのは――。


「極陽拳老師――京、見参ッ!」


 ポーズを決めて見せる。芸達者なのもそ功夫遣いゆえの身体能力ゆえだろう。

「おお、京様ッ! アイシャも無事でなによりじゃ」

「空からとはいったい……」

 ヤンが歓喜の声を上げた。とはいえ、突然空から現われた京たちに姜治は腰を抜かしたようだが。

「皆、無事か!」

 外套をなびかせるフェイが大声で隊の安否を確認するする。フェイのよく通る声は隊の士気をより高める。

「フェイ陛下!」

「将軍、戦況はどうだ!?」

 フェイはスープーから降りて訊ねた

「はい、それにその龍は?」

「説明は後だ、将軍。速やかにキョンシーどもをせん滅するぞ! 突撃せよ!」

 フェイが号令を掛けると、兵の士気は最高潮となる。

「帝がいらっしゃったぞ。我らの雄姿、見せつけよ!」

「おお!」

 兵は沸き立ち、阿津が呼び出したキョンシーに向かっていく。

「くけッ! 極陽拳の老師じゃと、あのクソ老師に弟子がおったのか! 実に面白いのう……」

 阿津は京たちを見て気味の悪い笑い声を発し、仮面を外す。憎悪を煮詰めたような醜悪な顔がそこにはあった。

「それに、あの娘……。クケケッ! いい見世物をが見れるぞ!」

 阿津はアイシャを見て、より醜悪な笑みを強める。そしてまた仮面を付け直し、そして、脱兎のごとく駆けだした。

「ちッ、あの京劇の面を付けた絡繰兵。逃げるぞ! 追え!」

「あ、あああああああ……」

 姜治が馬を走らせようとしたのだが、キョンシーに阻まれる。今度は只人を素体にしたのより強いようでしぶとくくらい付いてくる。

「クソッ、邪魔をするな!」

「姜治、京様たちに任せるのじゃ。霧深き森に逃げられては馬では追えぬ!」

 ヤンの言う通りだ、阿津が逃げたのは不帰の森方面で、準備なしに入れば帰れないとされている。

「わかりました、老師殿、願いします!」

「了解、わかったわ!」

「任せとけ!」

 姜治の言葉に頷き、二人は阿津を追い掛ける。

「ちくしょう……、老けるもんじゃねェな、こりゃ」 

 と、太公望は着地に失敗してしまっていた。戦線復帰は数百年ぶりであるのだから無理もない。それでも京を圧倒してのけるのだからやはり太公望は恐ろしく強いのだ。

「先生、大丈夫ですか?」

「いや、久しぶりに酔っただけだ、しかし情けねェ」

 スープーが麒麟とは思えないほどつぶらな瞳で見てくるのだが、どうやら太公望は乗り物に酔ってしまっているようだ。

「いえ、先生はまだ覚醒めざめたばかりですし……」

「言い訳してるみたいで嫌なんだよ。あの奇妙な絡繰兵は京ちゃんたちに任せるとして。軍の連中を手伝うとしよう。スープーは増援を警戒してくれ」

 スープーに見張りを任せ太公望はヤンたちの助太刀に向かうのだった。 

 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る