第71話 死者の行進

 京たちがスープーに乗って救助に向かっていた頃、ヤンが守護する蓬莱山周辺にキョンシーが出現し苦戦を強いられていた。

「撃ち方、始めッ!」

 隊長のの指示が号令が飛ぶと、兵士たちはいっせいに銃を構え、引き金を絞る。

 兵士たちのまえには、小さく跳躍を繰り返す青い肌の死者たちが群れを成している。皆一様に帽子をかぶり、顔を隠すように札を付けている。

「よし、キョンシーどもが倒れた!」

 命中し、キョンシーは斃れる。西洋の銃のその威力は宝貝銃と遜色がないどころか、整備性、汎用性、入手性など勝っている点のほうが多い。

 太古の技術を現代の銃に取り入れるのはやはり難しいといえる。

「た、隊長。起き上がってきましたッ!」

「こいつ、この前死んだ……!」

 キョンシーを見て戦意を失う者も出てきた、厄介な点はここだ。

 死んで弔ったはずの隣人に襲われ、斃しても蘇る恐怖、生者を相手取るよりよほど厄介だ。


「辛いだろうが、我らで死守するのじゃ。ここで逃げれば民に被害が出てしまうぞ!」


「ヤン将軍!」

 隊長が弁髪の老将軍の名を呼ぶ。ヤンも突撃銃と槍を携えていた。前線で戦う気は満々らしい。

「将軍、我が部隊の騎兵で奴らに穴を開けます!」

 馬に乗って騎兵槍を携えるのは姜治。騎兵槍はすでに西洋でもほとんど使われなくなってしまっていたが、馬上から繰り出される騎兵突撃の威力はすさまじい。

 傀儡であるキョンシーに感情があるとは思えないが、再生するまもなく大打撃を与えればどうにかなる、そう思うしかなかった。

「騎兵隊、突撃せよ!」

「おおッ!」

 姜治がまず先頭を走り、槍を構え。兵士たちが後に続き、キョンシーたちを貫く。

「がッ……!」

「うう……」

 さすがに腹を貫かれれば起き上がれなかったようだ。

「よし、皆の者。キョンシーは無敵ではない。撃ち方、始めーッ!」

「おおおッ! 撃て、撃てーッ!」

 騎兵たちの突撃でキョンシーが沈黙したのを見て、隊長は大声を張り上げ号令をかける。

 劣勢だったはずのヤンの軍隊は士気が高揚したことで盛り返す。さすがのキョンシーも凄まじい弾幕には耐えられない。

「くけッ、くけけ……。やはり只人のキョンシーでは限界かのう……」

 京劇にでてくる奇妙な仮面を付けた絡繰兵が不気味な笑い声を発していた。戦いに向かないその姿はアーサーが言っていたオートマトンに酷似している。

「阿津、貴様! 何を考えている!」

 声が聞こえてきた。やや見下した変声期前を感じさせる少年の声だ。

 古代遺跡の技術を使用した通信機だ。電気を利用し、音を送ることができるらしい。

「錬とかいう功夫老師にせっかくのキョンシーを殺されたせいでこんな姿になっちまったんじゃぞ。奴を儂の手駒にせねば気が済まぬ!」 

 阿津――過去、キョンシーを引き連れ治安を乱した道士の名前だった。どうやらアーサーにオートマトンにされてしまい、手駒にされたらしい。

「おい! 都にキョンシーを放てば陰の氣を持てない連中しかいないんだから、容易に制圧できるんだぞ! それに勝手にオートマタまで――」

「小僧が指図をするか! 儂を黄泉返らせてくれたことには感謝しておるが、貴様の手駒になった覚えはないわ!」

 口論がだんだんと激しくなるのだが、すでに兵士たちが迫ってきている。

「ちッ、通信を斬るぞ。いでよおーとまたーッ!」

「うわッ、なんだこの黒い道着を着た連中はッ!?」

 アーサーのオートマタだった。どうやら阿津が勝手に持ち出したらしい。

「くけけッ、キョンシーだけだと思うなよ。雑魚はこいつらと遊んでおれい!」

「絡繰兵め、死者を冒涜しおって。舐めるでないわッ!」

 ヤンが怒りの形相で迫ってきていた。老齢でありながら槍を振るうその姿はかの蜀の武将、黄忠の武勇を思わせる。

 槍を一閃し、オートマタを切り裂く。本来、槍は突くものではなく斬るものなのだ。


「ヤン将軍ッ!」


 その時だ、突然遥か上空から声が聞こえてきた。

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