第29話 師弟、休憩す
「京様ー!」
「老師様~」
「老師殿!」
「アイシャちゃーん」
「無事に帰ってこいよ~!」
街の住民やヤンたち軍の者に見送られ、二人は馬で都に向かう。
「いってきま~す!」
「ちょっと都に行くだけなのに大げさすぎんだろ……」
手を振って別れを告げる京に、アイシャは溜息を吐く。
「アイシャも好かれてるのよ、よかったわね」
「……そうかな、そうだといいけど」
「いい傾向じゃない」
アイシャは顔を赤くすると、それを見た京はクスっと笑うのだった。
「ほいほい。それじゃそろそろ休みましょうかね」
山からだいぶ離れたところで、馬を休ませることにする。京とアイシャは馬を降りる。
「あなたも、お疲れ様」
馬をその場に合った木に縄を繋げると、馬はヒヒンと鳴いた後、地面の草を食べ始めた。
「で、都って実際どうなってんだ?」
アイシャが訊ねたのは都の状況だった。
「師範が亡くなってから殆ど引きこもってたから、最近の都の話はあんまり……」
「ヤン将軍から何か話を聞いてねェのか? ちょくちょく会ってたんだろ?」
ヤンとは交流していたはずだとアイシャは言うのだが、京は首を横に振り、
「師範が亡くなってから軍の詰所にはずっと行ってなかったのよ、
「なるほどな。俺もさっぱりだ」
アイシャが草の上に大の字になって寝転ぶ、考えるのをやめたらしい。
「それじゃ、昼ご飯にしましょうかね」
京が袋から出したのは豚の腸に乾燥した鳥肉を詰めた腸詰めだった。
冷蔵庫などない当時の中国では冬場に肉塊にして風通しのいいところで乾燥させ、長期保存ができるようにしていたのだ。まさに生活の知恵と言える。
「ホント、ババアって料理好きなんだな……」
アイシャは感嘆の吐息を漏らしている。
「宮殿に勤めてる厨師たちに頼み込んで料理を教えてもらったのよ。まァ、身体が弱いからせめてって事なんだけど。最初は畏れ多いとかいってたけど、根負けしたの」
「病弱な皇族サマだったとは思えねェな……」
アイシャは呆れかえっていた。皇族が料理をするなどとそれこそあり得ない話なのだから。
「でも、おかげで道場に引きこもるのにも役に立ったわ。こういう保存食とかね」
「確かにこりゃうめェな~」
アイシャは腸詰を喋りながら頬張っていた。
「ちょっと、食べながら喋らないでよ」
「いいだろ別に。お、やっぱ肉はうめェ!」
と、その時だ、耳を劈くような半鐘の音が周囲に鳴り響いた。
「……ッ!」
それを聞いて二人が立ち上がる。
「確か、村があったわね……」
京が地図を開く、近くに小さな集落が存在した。半鐘を鳴らすほどの緊急事態なのは間違いない。
「助けに行くだろ?」
「当然ッ!」
アイシャが確認すると京が木に繋ぎとめていたの馬の縄を外し、馬に乗る。
「あなたも悪いわね。村に急ぐわ、頼んだわよ!?」
「ヒヒン!!」
京の声を聞いた馬は了解とでもいうように心強く嘶くのだった。
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