第306話 打ち明けられました

俊哉達のお団子が来ても、店員の女性の様子がソワソワと落ち着かないように感じられた。


それに気付かないふりをしながら、高耶は普通に団子を味わい、お茶を楽しんでいた。


「美味いな」

「うむ。甘過ぎず、辛過ぎず……これは完敗だ……」

「……何の勝負をしてるんだ……」


向かいに座る彰彦が、団子を食べ終わり、本気で悔しそうに頭を抱えていた。


そこに、メールの返信があった。こんなに早く返信が来るとは思っていなかったので、少し驚く。それだけ伊調も気にしていたのかもしれないと、警戒しながら開く。


それは気掛かりなものだった。



『そちらの土地神とは、先々代の時代から、随分と長くお付き合いがありました。ですが、三年ほど前に唐突に姿を消されたのです。しかし、消滅されたり、代替わりされたというわけではなく、ただ、眠られているようです。なぜかは分かっておりません』



基本的に、土地神が何者かによって封じられたのではなく、眠りについた場合は、術者は手を出さないことになっている。無理に起こすことは禁忌とされ、ただ静かに見守るだけとなる。


それから二通目が届く。



『お目覚めになるまで、近付かないようにしておりました。ですが、それ以前に結界があったという情報もございません』



伊調達は、随分と長くここに来ていたのだろう。先々代の時代からと言っているが、術者は長命なものが多い。特に神楽部隊の者はその傾向が強く出る。先々代から数百年引き継いで、ずっと付き合いのある神だったはず。


それなのに、この結界に気付かなかったというのとはないはずだ。


高耶は返信する。



『ありがとうございます。この結界が、誰によるものかを確認してみます』



神による結界ならばまだ良い。だが、神が眠っている内に、勝手にどこかの術者が仕掛けたのならば問題だ。


さて調べようかと、席を立とうとした時だった。


「あ、あの……」


店員の女性が、申し訳なさそうに高耶の側に来て声をかけて来た。


「はい。なにか?」


目を逸らし、どうしようかと何かを迷っている様子の女性に、高耶は目を向けた。そして、しばらく待つと、女性が頭を下げた。


「っ、高名な術者の方とお見受けいたしますっ。どうかっ、どうかお助けくださいっ」

「……え……」


そう来るとは思っていなかった高耶だ。


「助ける……とは……その、奥にある結界の?」

「っ、はいっ。やはりお気付きでしたか……私達は……っ、半魔の血を引くものです。それで、ここの土地神と契約し、隠れ里を作っておりました……」


半魔とは、悪魔や天使と人との子や、呪いや神託を得て、人の枠からはみ出してしまった者のこと。


術者によっては、彼らを人とは認めない者もいる。頭の固い祓魔師エクソシストであれば、彼らを魔と決めつけて攻撃する者もいるだろう。


だから、高耶に声を掛けるのも、相当躊躇ためらったはずだ。とはいえ、高耶に偏見はない。悪魔にも、天使にも友人がいるのだから当然だろう。


「……なるほど……ですが、もうそれほど血の力もないように感じますが?」

「はい……」


こうした者達は、世界中にいる。迫害され、追われ、隠れ里を作り、その中で血が薄まるのを待つようになったのだ。


その中には、力を土地神に捧げ、更に人と交わることで、その血の力を薄くしていく場合と、逆に力を濃くすることで、人としての生をやめ、あちら側の住民になる場合がある。


この変化を、隠れ里の中で静かに待つ。もちろん、能力者として連盟に入る者もいる。力をきちんと管理し、家門としていくこともある。


だが、そうして生まれたものは他の術者達に嫌われる場合もあり、馴染むことが難しかった。力が制御出来なくなるかもしれないという不安も強いためだ。


「私などは、もうほとんど力もありませんので、人里に出る頃なので良いのですが……そうでない者もまだ沢山おります……それなのに……っ」


彼女は、ここで茶屋をしながら、人の世界に戻る練習中だったのだろう。


「三年ほど前……っ、私達の里が乗っ取られてしまったんです……数人の鬼によって……」

「っ……」


まさかと思った。


高耶は思わず立ち上がり、気配を探る。そして、土地神がなぜ眠りについたのかを理解した。


「っ、そういうことか……」


土地神は、鬼に取り込まれることがないよう、自らを封じていたのだ。









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