第302話 言わずには終わらない

メールで土地の情報を確認していると、安倍あべの焔泉えんせんから電話がかかってきた。


「……はい」


少し警戒しながら出ると、焔泉はふっと笑うようにして告げる。


『なんやの? その覇気のない声は』

「いえ……仕事の話ですか?」


多分違うと思いながらも確認する。こういう場合、あまり良い思いをした事がない。たいてい、不吉な予言を伝えてくるのだから。


『違いますわ。今、資料請求されはったやろ? どうしはるんかと思おてなあ』

「……滝が欲しいと言われまして」


それだけで、察しの良い焔泉は納得する。


『はあ〜。充雪殿か。あそこの滝はええらしなあ』

「知っているんですか?」

『昔、伊調や神楽部隊んとこの子らが、行きはる言うとりましてん。そこの旅館もお気に入りやってんで?』


充雪は、滝行に理想的な場所と言ったが、本当に良い場所だったらしい。


『滝まで行くんは、観光客にはちょい厳しいらしゅうてな。人も来うへんし、結界も張りやすい言うてはったわ』

「……そうなのか?」


これは、電話を離して、充雪に尋ねた。すると充雪は、ハッとした後、腕を組んでうんうんと頷きながら答える。


《確かにっ。俺は飛んでったけど、アレは行くまでの過程も楽しめそうだ!》


これに気付いて、ますます欲しいと思ったようだ。


『最近は伊調も中々行けれへん言うてはったなあと思い出したんよ』


ここ十数年は来られていないらしい。何があったという訳ではないということなので、そこは安心だ。


「……連盟で旅館ごと買い上げますか?」

『それや! できれば、それが理想や! 出来はるやろか?』

「山の方の土地は別ですが、この旅館なら、経営者の子どもが同級生なので、それとなく聞いてみます」


資料を見ると、この旅館と滝のある山の方は所有者が違うようだった。


『頼むわ! 保養所としても使えそうやしなあ。滝含めた山の方の買い上げ交渉は、こっちで手配するわっ』

「分かりました」


どうやら、連盟で買うので、高耶の方で交渉したり、お金を出す必要はなさそうだ。


『せや。山神、土地神への挨拶は任せるえ』

「……分かりました……」


そうなるだろうとは思っていた高耶だ。これは土地を買おうと思った時点で覚悟していたので構わない。


『せやけど、いくら滝を欲しがられた言うても、高坊が買おうとするなんて、どないしたん?』

「あ……ここ、瑶迦さんの所の式達が気に入ってる旅館だったみたいで……多分、研修とかに使ったんだと思います」

『ほおっ』


高耶がここに着いて、感じたのは、その式達の残した力の残滓。だから、決して悪い感じもしなかったし、気にすることでもなかった。


「滝を手に入れるなら、ついでにここも買い取ったら、喜ぶかなと」

『なるほどなあ』


どのみち、買い取って、経営していくとしても、連盟の関係者を客の対象としようと考えていたため、連盟で買い取ってもらえるならば、有り難い。


そうすれば、式達もここで働くことが出来るだろう。人件費もかからなくなるため、都合も良かった。


『ほんなら、ある程度、見込みが出来たら、交渉担当を送るで、連絡してや』

「分かりました」


契約なんかの、面倒な手続きもやってもらえるのは楽で良い。


ほっとしていた高耶だが、お約束があった。


『せや。高坊。気い付けえよ? なんやか高坊を……【求める者らが居る】……らしいでなあ』

「……分かりました……ありがとうございます……」

『ほなな〜』


気楽に言ってくれるが、この予言だけはどうにかして欲しい。


「……はあ……」


電話を切った高耶が、重々しくため息を吐いたため、時島が心配そうに声をかける。


「……大丈夫か? 蔦枝……」

「……なんとか……」

《アレか? また占いか? よく当たるからなあ》


充雪はカラカラと笑う。自分に特に害がないので、彼も気楽なものだ。


「占い……ああ、焔泉さんのか」

「はい……」

「まあその……あまり思い詰めんように」

「はい……」

「お茶淹れてやるから」

「ありがとうございます……」


事情を察した時島は、高耶を労わるように声をかける。


そこに、空気を読まない俊哉がやって来た。


「高耶ぁぁぁっ。ここ、ピアノあるってよ!」

「……」


また何をやらせるつもりだと、俊哉を睨んだ高耶は悪くないはずだ。








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