第298話 言葉の重さ

声を掛けてきたその生徒へ、高耶は答える。


「ああ……秘伝高耶だ」


これに、彼は小さく頭を下げ、俯いたまま名乗った。


みなと律音りつとと申します。伊調の家の者です」

「……神楽部隊の……なるほど……だからか……」


納得したのは、彼が『吹き虫』を寄せながらも、少しずつ浄化し続けているからだ。


伊調の名は、当主のみが名乗るというのを聞いている。一族の名字も名も捨て、ただの『伊調』になるのだそうだ。そして、代々、神楽部隊の頭を担う。


因みに、彼らの一族は『音一族』と呼ばれ、音に関する名が付いていた。


「僭越ながら、少々、お時間をいただけないでしょうか」

「構わないが……」

「では、こちらへ。お連れ様や、そちらも」


お連れ様と言ったのは、俊哉のこと。そして、そちらもと目を向けたのは、統二にだった。


統二も知らない生徒らしく、少し戸惑いながらも、高耶と目を合わせて頷いた。


案内されたのは、図書室の隣りの部屋。どうやら、クラブで使う部屋のようだ。ドアを閉めると、みなと律音りつとは、人払いの術をかける。


そして、席を勧めた。


「そちらの席にお掛けください」

「ああ……」


高耶は椅子に腰掛けながら、彼に憑いていた吹き虫達が部屋の端に固まったのを確認する。そして、あることに思い当たった。


「そうか。確か、音一族は子どもの頃は学校の吹き虫や害ある妖を自身に寄せ、浄化する修行をすると聞いたことがある」

「はい。その通りです。修行と言ってはいますが、ついでの掃除です。この土地の音を聞き取り、卒業までに調律する。土地の力を増幅させ、そうすることで、こうした妖が溜まらないようにするのが学生として生活する間に課せられた宿題のようなものです」


学生として、この場に留まる時間が多いため、そのついでに、場を調整する練習とするらしい。


「うちの一族は、全国に散らばり、様々な学校に定期的に子どもが通う事で、過度に妖が学校に溜まることなく、安定していたのですが……」

「……この学校に、異常に吹き虫が多いのと関係が?」

「はい……この学校に入ったのは、私が初めてなんです。大抵の学校は、二度目くらいになっているはずなんですが、その……進学校なので……」

「……?」


理由が分からなかった高耶だが、俊哉は察したようだ。


「あっ、もしかして、成績? 受からなかったとか?」

「……はい……元々、進学校は勉強の方に意識が行くので、学校には吹き虫さえ溜まりにくいんです。なので、後回しというか……受かったら良いな〜という感じで、たまたま今回は私が受かったというだけで……うちの一族は、一般的な勉学より、術の修行の方を優先してしまいますので……」

「なるほど……」


勉学よりも術の修行というのには、高耶も統二も納得してしまう。


「ただ、本当にこの学校は異常みたいでして……調べた所、この学校の敷地内には、三本の神木があったらしいのです。どうやら、元々、溜まりやすい場所だったようで、そのために植えられたものだったのですが……」

「切られたのか……」

「はい……場所はこの校舎の中央と、校庭、それと、別館のここです」


必要があったから植えられたものを、切られてしまっては、もうしようもない。こうして、人は自分達で墓穴を掘っていくのだ。


やしろはあったか?」

「いいえ……その場所の資料が見つからず……」

「なら、その場所の特定だけでも先にしよう。神木の位置から割り出せるかもしれない」


スマホを取り出し、上空からの写真を確認する。そして、神木があったはずの場所の中心が、体育館のある場所だと分かった。


「体育館か……視てみるか。統二、今、体育館には行けるか? 確認してきてくれ」

「すぐにっ」


統二が出て行くと、そこで、俊哉が湊律音の顔をじっと無遠慮に見つめているのに気付く。


「どうしたんだ? 俊哉」

「ん〜……なんか、見たことあるんだよな〜」

「そうなのか?」

「おお……最近なんだよな……テレビ……いや、ネット?」


何度か俊哉が首を捻る。そこで、湊律音がクスリと笑って、メガネを外した。


「えっと。一応、試験的になんですけど……」


そうして、胸ポケットに入っていた小さなくしで髪をとき、シワの寄った上着を脱ぐ。そうすると、もう別人だった。


「っ、あ!! リツトだ!! すげえ!」

「ん?」


高耶のオタクルックからの変身よりも驚く。とても可愛らしく、爽やかな美少年になったのだ。


だが、それ以上に俊哉が興奮する意味が分からないという顔をしていると、その勢いのまま、俊哉が詰め寄ってきた。


「っ、何で知らねえんだよ! 最近人気のアイドルだよ! ネットで有名になって、最近はテレビでも出てる!」

「……そういえば、音一族で、芸能事務所を一つ創ったって言ってたな……」

「は!? ちょっ、陰陽師だろ!? なに表に出てきてんの!?」

「いや、今の時代、音楽かけながら歩いてるし、これ使えたらいいなと……何年か前に、伊調さんと話したんだ……」

「はい。まさにそれです! やってみました!」

「……」


高耶は、本当に軽い気持ちで、使えたらいいですよねと話した。それをそんな本気で受け止められるとは思わなかったのだ。


「高耶……お前、もうちょっと発言に気を付けた方がいいぞ……」

「……気を付ける……」


ちょっとした思いつきを、何となく言っただけだが、高耶の発言力は密かに大きくなってきている。信頼度も高い。そのため、何となくの言葉も、しっかりと聞いて心に留め置かれてしまうらしい。


今後は、気を付けようと反省する高耶だった。








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