第283話 これもやりたいらしい

高耶だけで向かうのは警戒されるかと思い、優希と遊びに来た可奈、美由を連れて教えられた住所の家に向かった。


今日は手ぶらではない。いつものリュックではなく、小さなトランクケースを持っている。これには、調律の道具が入っていた。


優希は、いつものリュックではないことを確認し、満足そうに頷く。


「はじめて見るカバンっ。お兄ちゃんににあうねっ。いつもそれならいいのにっ」

「これは道具入れなんだが……」


よっぽどあのリュックが気に入らないらしい。


「あたらしいのかう?」

「いや……瑶迦さんの所にはある……」

「なら、えらんであげるね」

「ああ……」


瑶迦の屋敷には、高耶専用の衣装部屋があり、鞄や靴さえも揃っている。わざわざ買う必要もない量で、仕事の種類に応じて使っていたりする。ただ、借りているという感覚があるので、あまり持ち出さないのだ。


指定された家までは、高耶の家から徒歩で二十分ほど。校区内だった。ソラくんの家は祖父母の家にとても近いらしい。


父母は共働きで、接客業のため、休みの日は仕事で特に家に居ないのだとか。よって、土日はほとんど祖父母の家に行くことになるということだ。


指定された家の手前。そこかなと家を確認すると、家の奥。隣に小さな神社があることに気付いた。


家を通り過ぎて、その神社の前に立つ。神社といっても、祠に近い社だ。その奥にあるのは、恐らく神木だろう。しかし、無惨にも幹が折れてしまったようで、折れて残った幹があるだけだった。


「……力は……残って……」


残った部分が朽ち落ちることなくあると確認し、感じ取ると、力は残っているようだった。


「……巫女がいるのか?」


繋がりが見えた。細いが、幾本もの繋がりの糸が、隣の家に続いている。


巫女は神との仲立ち人だ。よって、幾つもの縁の糸を持ち、他者へと繋ぐことができる。その糸が、呼ばれている家に繋がっていたのだ。


「……お兄ちゃん。ここ、かみさまいる?」

「ああ……けど、眠ってる」

「おきないの?」

「すぐには無理だな」

「そっか……」


残念そうな優希の頭を撫でる。瑶迦や珀豪達から、神様の話を聞いているらしい。


「お兄ちゃん。わたしね。カグラをおどれるようになりたいの。おまつりで見た、おどり……おどれるようになりたい」

「神楽か……」


優希は神子として、何かを感じているのかもしれない。


因みに、ムクと名付けた護衛は、学校へ行く時もランドセルにくっ付けていくし、今回のようにお出かけする時は、バッグのポケットに入っている。


「じゃあ、それも勉強しないとな」

「おべんきょう?」

「そうだ。舞にも意味があるから、神さまのことを勉強して……着物できちんと動けるようにしないとな」

「っ、うん! がんばる!」


優希は、色んなものに手を出すが、嫌になって手放すことがない。頑張り過ぎな気もするが、今のところ、努力ではなく好奇心を原動力としているため、伸びも良い。


出来ないことは出来るまでやりたい性格らしく、挫折を未だに知らない。けれど、優希ならば乗り越えられるのではないかと、大人達は信じていた。


そんな優希に引っ張られているのが可奈、美由の二人だ。


「え〜。ユウキちゃんがやるやら、わたしもやりたい」

「でも、カグラってなに?」

「なんだろ?」


二人は、神楽を見たこともなさそうだ。


「今度見せてあげるよ。神さまに見せる踊りなんだ」

「「へぇ〜、なんかカッコいい」」


子どもらしい感想だ。


「おどり、すごくキレイで、カッコいいよ! けど、ふえとかで、がっそう合奏するのもカッコいいのっ」

「「へぇ〜」」

「アレも、神さまに聞かせてるんだ。優希達も、今度の学芸会のがそれの代わりみたいになるから、頑張って欲しいな」

「そうなの? かみさまが見にくるの?」

「ああ」

「ユウキがんばるよ!」

「わたしも!」

「わたしも〜」


神様が見に来ると聞いて、親が来るというよりも、気合いが入ったようだ。


「あっ、だからソラくんが、ちゃんとれんしゅうできるようにするんだねっ」

「そうだよ。それに、練習したら、ここの神さまも喜んでくれそうだからな」

「お〜。なら、はやくピアノなおしてあげて!」

「そうだな」


そうして、ソラくんの祖父母の家に向かった。


そこには、病に倒れた巫女がいたのだ。


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