第231話 普通ではないこと

先ずやる事は、パズルだ。


甲冑組み立てパズル。それを聞くと、難しそうに感じるが、今回の場合は明確に正解が分かる簡単なものだ。


色は間違いようがないので、同じ色の物で組み立てられるのは三つ。そして、その部品を持って近付けば、正解ならばそのまま本体として置いた胴体の部分に磁石がくっ付くように引きつけられ、正しい場所に納まる。


だから、それぞれが部品を持って、橘の結界で囲んだ場所へ入り通過していくだけで良い。その間に反応した物を探すという具合に進めた。人手はあるので、それほど時間はかからないだろう。


高耶はこの一帯に結界を張った後、率先して甲冑の胴の部分をそれぞれの結界内へ移動させたりしていたのだが、徐々に正気に戻った年配の祓魔師エクソシスト達によって追い出された。


「『我々でやりますので!』」

「『あちらでお寛ぎください!』」

「『すぐに! すぐに! 終わらせますから!』」


すごい剣幕だった。


「『いや、ですが……』」


やはり年配の者たちに走り回らせるのは気が引ける。そんな思いを、統二は感じ取ったらしい。


「兄さん。当主は当主らしくだよ。年齢は気にしない。僕らが行ってくるから。ほら、橘の当主が呼んでるよ」

「あ、ああ……」


蓮次郎は、レスターと忙しく動き回る他の者たちを見ながら、優雅にティータイムに入っていた。とはいえ、レスターは少し居心地が悪そうだ。


そんな所へ、こいこいと手招く蓮次郎と目が合ってしまった。


無視するわけにもいかず、高耶はそちらへ向かう。瑠璃は、甲冑が結界から出たり入ったりをするため、変に刺激しないよう、帰還させていたので、高耶についてくる者はいない。


統二と勇一も、甲冑の組み立ての方へ向かっていったのだ。


常磐と果泉は未だ戻って来てはいない。心配はしていないが、気になってはいた。


蓮次郎の所まで来ると、彼は椅子を勧めた。丸いテーブルに、レスターと三人がつくことになる。


「高耶くんは本当に働き者だよね。でも、他の子がやれることはやらなくていいんだよ」

「すみません。誰かに任せるとか、慣れていないもので……」

「高耶様はなんでもできてしまいますからね……」


レスターが少し気の毒そうな苦笑を向ける。


「ふふふっ。そうだねえ。高耶くんは、基準が狂っちゃってるからね。何が他人に出来ないか分からなかったりするのかな」

「あ……そうかもしれません……気を付けてはいるのですが」


高耶は、決して天狗にはならない。出来ないことを他人に責められることが、辛いこともわかっている。だから責めないし、貶したりもしない。


だが、どこから他人には難しいことなのかが高耶には分からない時がある。一般的な結界や浄化などならば、連盟の情報から能力基準が分かるが、それ以外の平均値を知ることは難しい。


同じように、式神の格も他とは違う。無茶なことでも、できてしまうのだ。その上、近くに比較できる者がいなかった。


たいていは、共に修行する相手がいるため、他人にとって難しいことなのかどうかはそこで分かる。そんな環境も高耶にはない。ある意味、常識知らずだった。


これまで困らずに来られたのは、普段の生活では目立たず多数に埋もれてきたため。連盟の仕事では一人で受けていたためだ。お陰で、未だに基準が行方不明のままだった。


「偉ぶらないもんねえ」

「偉ぶりませんものねえ」

「……」


蓮次郎とレスターが、困った子を見るような目で見てきた。


「あの子らが、瑠璃ちゃんが還っても、そのまま動かなかった理由、分かる?」

「瑠璃のせいではないんですか?」

「違うよ」


特に高耶をバカにしていた若者たちは、瑠璃が還ってからもそのままずっと、高耶が動き出しても、呆然としていたのだ。高耶としては、瑠璃の存在をきちんと認識するまでに、時間がかかっただけだと思っていた。


「あれはねえ。ここら一帯を覆った結界の精度に驚いてたの」

「精度だけではなく、規模もですよ」

「……三等級ですよ?」

「だって高耶くん。調整し三等級に落として・・・・るでしょ。普通、極めたら、極めた分のそこまでの結果のものしか出来ないからね?」


結界は結界として習得する。その威力や練度によって、等級が分かれるのだ。


「手を抜いて一つ下の等級とか、普通は無理なの。知ってる?」

「……知りませんでした……」


高耶は、その場その場で、必要となる結界を調整して張るのが当たり前だった。しかし、それは普通ではない。


「橘家が結界術に優れている理由は、種類によって分けた結界が使えるからだ。それらも、力を落として使ったりなんて出来ないよ。修練したら、それだけ強く強固なものになる。その結果しか出せないの」


威力で分かるのではなく、用途によって様々な種類の結界を使い分ける。それが橘家だ。弱い結界も弱い結界として修練し、安定させた一つの結界を使う。


「だから、三等級の精度なのに、一等級以上の規模になるとか、ないから。驚くの当然でしょ?」

「まあ、アレらにその違いが分かったとは思いませんが、あの木の陰などで様子見していた下級悪魔や怨霊が浄化されたのは見えたようです。なので、これがランク3以上であることは確認できたでしょう」


結界の強さは、こちらでは等級で表すが、あちらはランクで表しているだけだ、内容はどちらも変わらないため、若者達にも理解できたようだ。


運んできた鎧には、結界を施してはいたが、何かがあるとは分かっていたのだろう。隙があれば取り憑いてやろうとする悪魔や怨霊が近くに潜んでも居たのだ。それらが、結界に押されるようにして消えていった。


「この規模はランク1以上を修得していなければ無理なものです。ですから、上位の者達ほど、衝撃は大きかったはずです。ランク1とランク0の結界は、いくら橘のといえど、二重で張ることができませんからね」

「そうなんだよね~。他の結界も消しちゃうから、せっかく広範囲に使えても、使い勝手悪いんだよね~」


因みに、特級は威力そのままに、結界を一人分にまで縮められるものだ。狭い範囲でも使えるが、これも二重張りが出来ないという欠点がある。


とはいえ、二重で張る意味がないほど強力だということでもあるのだ。なんせ、中は聖域並みに浄化されるのだから。


「まあ、何はともあれ、高耶くんがすごいってことは、証明できたかな」

「はあ……」


なんだか、責められた気もするが、蓮次郎は満足げなのでいいかと高耶は少しだけ肩の力を抜いた。


はじめてから三十分が過ぎる頃。兜の部分を残して、全てが組み上がった。


それでは仕上げという所で、常磐と果泉が難しそうな顔をして戻ってきたのだ。


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