第196話 自慢の妹です
連れて来られたのは、地下で繋がっていた大きなビルに入っているレストラン。当たり前のように個室に通された。
「デザートだけでも、食事でも好きに頼んでいいよ」
「……おっさんみたいな裏の顔ありありな人に、好きにって言われてもムリ」
俊哉のこれはもう警戒とプラスで面白がっている。
「おや。君は警戒心が強いですねえ。良いことです。ご想像通り、私は誰にでも奢るわけではありません。そんな中で、特例中の特例が高耶くんです」
注目されて、高耶は優希と見ていたメニュー表から視線を上げる。
「……」
「ふふ。ずっと養子にならないかって、口説いてるんですけどねえ。秘伝の当主のままで構わないんですよ?」
「もう成人も間近ですので……」
「そうなると、次は血族の子の婿にとも考えたんですけど、高耶くんはもったいないんですよね~」
困ったなと頬杖をつく蓮次郎。それに、珀豪かふっと笑った。
《誰もが同じことを考えるのだな。さすがは主だ》
「ん? ああ、エルラント様かな。それ、聞いてびっくりしたよ」
《主は人気者だな。誇らしい反面、心配でもある》
珀豪は今、グレーのスーツを着ている。白銀の髪で、切れ長の瞳。執事というより、ホストに近い。そんな珀豪が壁際に立ち、嬉しそうに高耶を見る。その姿に、女性二人は当然のように真っ赤になり、見慣れているはずの俊哉まで見惚れそうになっている。彰彦だけは、キラキラとした目で見つめていた。
「高耶くんが主とか、大変だねえ。高耶くん、君たちに力を借りなくても、ほとんどなんでも出来てしまうんじゃないかな?」
《そこが困る所だ。その上、主の式は我だけではないのでな。役に立たねばこうして喚んでももらえぬ》
「シビアだね~。ふふふ。そんな貴方にも、席についてもらいたいね。どうだろうか? やはり、料理の作り手は、食べてこそだと思うよ?」
《いただこう》
「……」
まんまと蓮次郎は珀豪を引き寄せた。そして、今度は常盤だ。穏やかな表情のまま、入り口近くで警備態勢に入っている。部屋に入ってきたのは、一応今与えられている役割のためだ。
「そちらの貴方も、こちらへ」
《主と同じ席につくなど畏れ多い。私はこちらで》
「高耶くん。前も思ったけど、あれは君の秘書かな?」
「え? 騎士じゃん?」
俊哉にはもう、それにしか見えないらしい。だが、ここで優希が自信満々で口を開いた。
「シュンヤお兄さま、トキワは『勇者』ですわ」
「……あ、はい。なるほど。失礼しました」
俊哉がすごく申し訳なさそうに頭を下げた。優希は得意げに澄まし顔だった。
瀬良と伊原の二人は、ワクワクと何かを言いたそうにしているし、彰彦も以下同文。よって、これ以上の無駄話は不要と判断し、高耶は先に進めることにした。
「……常盤、優希の隣に座ってくれ。優希、少し食事もするか?」
「いただきますわ」
どこまでもお嬢様仕様を続けるつもりらしい。
「俊哉達も、昼は?」
「地下でつまみながら来たから、そんなにだが……ちょい食べたい」
「ならこの辺はどうだ?」
指したのは軽食プレート。この部屋では似合わないが、丁度良さそうだ。値段もその他よりは手頃なので、それほど気にならないだろう。
「いいな。それ。彰彦もどうだ?」
「もらう!」
「瀬良達は?」
「一緒でいいよ」
「二人は、このレディースセットにするか?」
紅茶と小さなデザート付きだ。
「それ! それがいい」
「お願いします!」
上手く決まった。
「優希もレディースセットにするか」
「うん! じゃなかった。はいっ」
「分かった。珀豪は俺とコース料理な。常盤はプレートでいいか?」
《はい》
常盤は、飲み物も要らないと遠慮しがちだ。だが、意外にもハンバーグとかが好きなのは、最近気付いた。なので、そのプレートランチでいいだろう。
コースだと恐らく遠慮する。
「蓮次郎さんはどうされます?」
「高耶くんと同じコースで」
料理が揃うまで、他愛のない話を続け、食事が始まった。
「優希ちゃん……すごくキレイに食べるのね」
「本当にお嬢様とか?」
「ありがとうございます」
お礼を言う笑みまで完璧だった。
「本当にキレイだね。教えたのは高耶くん?」
「いえ、式です。同級の友人家族と合わせて、きちんとしたレストランでマナー講座とかしているんですよ。そのうち、ダンスがやりたいと言い出しそうです」
「っ、ダンス。したいです。ドレスきたり……」
優希が上目遣いで願ってくる。それに高耶は苦笑した。
「ダンスなら、今日会った
「ユウキ、やれるよ! ピアノも『お習字』も『護身術』も、ほかもぜんぶ、たのしいもん!」
優希と友人二人でやっている習い事は、全て瑶迦の所で受けている。それぞれ二時間程度。ピアノは高耶が教え、習字は瑶迦が、護身術は統二が教えていた。
他にも『料理』を珀豪に。『お花とお茶』を藤が教えていた。
「分かった。なら、また可奈ちゃん達と相談な」
「うんっ」
全部飽きずに続けている優希。そのあとにきちんと宿題もして、予習までしていくのだから感心する。
「なんてステキなレディだろう。さすがは、高耶くんの妹さんだ」
「自慢の妹です」
「っ……」
優希は嬉しそうに頬を染めていた。
食事が終わり、ようやく落ち着いて話ができるようになった。
「瀬良の話を聞こう」
「あ、うん……その……弟は、小学生を卒業するくらいの時から、体調が悪くなったの。夢見が悪いって言ってたから、最初は、そのせいでちゃんと寝れなくて眠ってるのかなって。精神的な問題もあるかもとか言われてもいたけど、起きてる時は普通なんだよ。で、最近は突然気を失うみたいに、廊下で寝ちゃう時があって……さすがにおかしいかなって……」
後ろを歩いて話をしていたはずなのに、急に倒れて眠るらしい。
「お父さんとお母さんは、精神的なものだって……お前は弱いとか言われて、部屋にこもっちゃうし……それでも、何か原因があるならどうにかしてあげたい。その、リコン? 症? って治るの?」
「それを逃げ道にしている場合は難しい。俺の知り合いはそれだ。それこそ、精神的に追い詰められて起こる」
「なら、弟は……」
やはり精神的なものかと落ち込む。その解決はとても難しいのだから。だが、高耶は違うと感じていた。
一度優希を見る。そして、椅子にかかっているカバンへ目を向けた。
「恐らく、その弟さんはそれが原因じゃない。離魂症の原因はいくつか考えられる」
これに続いたのは蓮次郎だ。
「今回のように何らかの力によるのが一つ。それと、私達のような能力を持っていて、それを制御出来ずに暴走している可能性が一つ。又は……いずれかの神の愛し子……神子の資質を持つ場合が一つだ」
高耶へと目を向けた蓮次郎。それに高耶は頷いた。
「優希、ムクを出してくれるか?」
「ムクちゃん? はい」
優希はカバンからムクを取り出す。そして、テーブルの上にぬいぐるみの振りをしたムクを座らせた。
「ムク。構わない。瀬良から読み取れるか?」
《やるー》
「へえ。これは……」
「「「「えぇぇぇぇ!!」」」」
咄嗟に音が漏れないように結界を張った常盤を褒めた。
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