第161話 影響が出ているかもしれません

週末。


待ち合わせの場所は、くだんの別荘がある最寄りの駅だ。最寄りとはいえ、別荘のある山は遠い。


駅に近い小屋に、扉を繋げてやって来た高耶と源龍は、駅に向けて歩きながら、山の方を見て目を細めていた。


「嫌な感じがしますね……」

「あれから霊穴れいけつの開きやすい場所の地図を確認したんだけど……ここはチェックされていなかったよ。さっきの小屋もあまり手入れされていなかったしね……」


霊穴の開きやすい場所というのは各地にある。それらは連盟で管理し、間違っても妖が霊穴から出てきて騒ぎを起こさないように注意していた。


そのため、移動用の扉も連盟で管理されており、こうした山深い場所では、所有物件として一つ確保されているのだ。地方での扉を確保する行脚師あんぎゃし達が掃除をしたり補修をしたりするのだが、ここの扉は使う頻度ひんどが低いのか掃除や補修が行き届いていなかった。


「……別荘の事が終わったら確認に行きます」


霊穴の状態はどのみち誰かが確認しなくてはならないだろう。


「私も行くよ」

「いいんですか?」

「寧ろ、なんで一人でやろうとしているのかな」

「……ん?」

「……高耶くん……」


一人で行動することが常だった高耶だ。約束した仕事以外にまで源龍を付き合わせるつもりがなかった。


その上、高耶は能力が高い。これにより、難しい案件でもなんとか出来てしまう。本来ならば連盟に報告し、対応する人選をしてもらい、後日その人が対処する。


しかし、高耶の場合。報告した問題がそのまま高耶の仕事として割り振られるため、その流れで報告後にすぐ『よろしく!』とされ『やっておきます!』で終わるのだ。


「高耶君って、本当に仕事人間なんだね」

「そう……ですか?」

「そうだよ。これは知ってる安倍の当主達が心配するわけだよね……」

「……?」


なぜかしみじみと言われた後、大きくため息をつかれた。


駅に着くと同時に陽が車でやって来た。


「高耶くんっ。待たせたかな」

「いいえ。今到着した所ですよ」


そう聞いても、陽は困った顔をした後に頭を下げた。数十分に一本しか電車は到着しないのだ。待たせたかどうかはよく分かる。


それを察したのだろう。源龍が確認する。


「高耶くん。彼は私達の仕事のことも見て知っているのかな」

「あ、はい」

「なら良いね。私達は移動のための特別な手段があるので、電車は使っていないんですよ。なので、本当に今到着したばかりです」

「え……ああ。そうでしたか」


ここでようやく高耶も気付く。


「すみません。言っていなかったですね。移動に問題がないので、ここを待ち合わせ場所にしたんです」

「なるほど」


今回は依頼人の霧矢修きりやしゅうだけでなく、陽とその友人の建築士である野木崎仁のぎさきひとしも同席することになっていた。


そのため、何台も車を連ねて行くよりは、近くまで来てそこから連れて行ってもらおうと考えたのだ。陽達は申し訳なさそうにしていたが、高耶としては、ギリギリまで家に居られるのでこの方が断然良い。


「それじゃあ、乗ってくれ」

「はい。お願いします」


高耶と源龍は陽の車に乗り、細い山道を進んだ。


「途中の道で崖崩れがあってね。大雨とかはなかったと聞いたんだが、困るよね。この道は少し悪いんだ。まあ、揺れるが落ちることはないから」

「そうでしたか……」

「……高耶君……」

「ええ……影響が出ているかもしれません……上に着いたら綺翔に調べさせます」

「そうだね……頼むよ」


後部座席で並ぶ高耶と源龍はそうして相談し合う。それぞれが外の景色を確認しながら、霊穴の影響を確認していた。


「暗いのは……」

「妖だね……ここまで来ると……うん。あの辺は、瘴気が出ているかも」

「マズいですね……」

「本部に報告するよ。すみません、少し電話させてもらいます」

「え、あ、はい」


陽は源龍にドギマギしながらバックミラーごしに頷いた。まだ源龍のことをきちんと紹介していないので緊張もしているのだろう。何と言っても見た目が女性かと見紛うほどの美形なのだから。


電話で話しだした源龍。それを確認して、高耶は身を乗り出す。陽が不安そうだったのだ。


「少しここの土地で妖が多くなっているようなので、本部の方に報告しているんです」

「そうなのかい……」

「大丈夫ですよ。異変があるのはあちらの山の方ですので」

「へえ……まあ、高耶くんに任せておけば大丈夫かな?」

「あまり期待されても困りますが、今回は助っ人も居ますし、何とかしますよ」

「そう……うん。頼むよ」


少し安心したように、陽の肩から力が抜けていた。


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