第149話 見えてます?

中はどうってことない普通の家だ。キッチンやトイレも最新式、お風呂もバスタブは大きく広さが意外にもあり、売るのに問題のない物件であることが分かる。


寧ろ、売れないのがおかしい物件だろう。立地も悪くないのだ。


だが、術者である高耶や迅は、中を見て顔をしかめていた。どうしても暗く見えてしまう。迅は連盟の担当であることもあり、それらを見る力は持っている。昔から不思議な体験をすることは多々あったらしい。それが本格的に関わるようになって、更に視える力も強くなったのだ。


「うわぁ……これは凄いね。いかにもって感じ。レベル三なら、いつもはまだ辛うじて感じるくらいなのに、肌に感じるよ」

「俺が居るからな……」

「え? だって、別に術者と一緒で強まるとか聞かないけど?」

「……」


陽達三人を挟んでの会話だ。三人は神妙な面持ちで、周りを警戒しているようだ。


少しでも彼らの気持ちを楽にしようと会話をしていたが、この答えを高耶は自身の口から言いたくなかった。それが常盤ときわに伝わったらしい。気を利かせて代わりに告げたのだ。


《主と相性が良いのでしょう。好意的感情も強いようですし》

「わっ、そ、そうなの? 相性かあ!」

「……」


喜ぶ迅。だから言いたくなかったのだと高耶は眉を寄せた。それに気付いて、常盤が声を落とす。


《余計なことでしたでしょうか》

「いや、他の奴に説明されるよりは良い……ありがとな」

《っ、いえ……》


珍しく常盤が照れたように表情を変えていた。そういえば、こうして常盤だけを頼って喚ぶのは久し振りだと、こんな状況でも呑気に思う。


《主、あそこのようです》


常盤はきちんと気持ちを切り替えてそこを指した。ここで、智紀ともき浩司ひろしが違和感に気付く。


「あ……れ? さっき、電気……付けたよな?」

「そういえば……消えてる……わけじゃない? 付いてる……けど……っ」


入ってくる途中で、智紀は電気のボタンは押していた。それを浩司も確認している。間違いなく廊下に電気は付いているはずなのだ。だが、どうしてか暗い。それは、黒い瘴気しょうきが天井付近を覆っているからだった。


「うわあ……これはマスクしたいね」


瘴気に気付いた迅が思わず呟く。


常盤が浄化しながら進んでいる。だが、今でも溢れ出てくる瘴気が天井付近に漂っていた。高耶達の顔の辺りは、それこそマスクをしているように常盤がしっかり浄化、保護しているので問題はない。だが、見えていると口を覆いたくなるのだ。


ここで智紀と浩司の目にも視えたようだ。


「あ……えっと……黒い……霧?」

「本当だ……急に見えるようになった」

「おい。あまり注意して見るな」

「「はい……」」


注意する陽の表情は強張っていた。今まで見えなかったものが視える。その異常さに警戒しているのだ。そんな三人の様子を後ろから見て、迅は明るく意見する。


「大丈夫だよ。護符を持ってれば、ちょっと見え易くなるだけで、影響はないから」

「この護符……そんなに凄いものなんですか……」

「高耶君のだからね。連盟の……術者の中でもあの若さでトップクラスなんだ」

「へえ……凄い」

「でしょ、でしょ?」

「……」


もう迅は放っておこうと決める高耶だ。


「さて、あれだな」


やってきたのは庭の見えるリビング。その中心に黒い固まりがあった。


「……あんなの、前はなかった……」

「見えなかっただけじゃ……」

「そうだろうな……」


智紀と浩司、陽は警戒しながらそれを見つめた。だが、慣れている迅は、明らかにおかしなものを見てもその調子は変わらない。


「電気つける?」

「ああ。あまり変わらんが、気持ちは変わるだろ」

「はいは~い」


そうして、迅はリビングの電気を付けた。多少は変わったように感じるが、本当に付いているか見上げて確認するくらいには変化がない。


「常盤、可能な限り浄化を」

《承知しました》


すると、黒い固まりは形をなくしていく。そうして、残ったのは濃い中心の黒い楕円の固まり。じっと見つめていれば、まるで誰かがその場にうずくまっているように見えてくる。それが時折、揺らめいていた。


そして、聴こえてきたのだ。


《……ネ……コセ……ネ……ネヨコセ……》

「ね?」


迅は童顔に似合いの可愛らしい様子で首を傾げた。


「確か、庭師だし……根っこ? とか?」


何が欲しくて留まっているのかと、迅は庭を見て眉を寄せた。『根』とか意味がわからない。だが、高耶にははっきりとそれが聴こえていた。


「金か」

「え?」

《ヨコセェェェェッ!!》

「わわっ」

「「「っ……!」」」


呑気にしていた迅も、これには飛び上がるほど驚く。高耶は咄嗟に、腰を抜かした三人の前へと移動していた。


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