第121話 後悔のないように

明日の夜に鎮魂ちんこんの儀を行うと決め、高耶は連盟に報告を入れておくことにした。


儀式場を作るのは清掃部隊の役目だ。儀式を行う旨を報告した後、清掃部隊に改めて依頼という形で連絡を入れたのだが、名乗ってすぐに代表が出た。


「はい。なので、あまり慌てずによろしくお願いします」

『承知いたしました! 完璧な儀式場をご用意し、素晴らしい鎮魂の儀にしてみせます!!』

「いや、いつも通りで十分完璧ですし……」


別にいつも手を抜いてはいないだろう。だが、気合いの入れようが違った。


『万事お任せください!!』

「……お願いします……怪我のないように……」

『っ、はい!!』


余計な所に力が入ってしまいそうで思わず注意したが、それがまた感動を呼んだらしい。涙ぐんだような声で会話は終了した。


「高耶君……もしかして、彼らまた暴走してる?」

「ええ……ですが、完璧な儀式場にすると言ったので、大丈夫だと思います……」


そうして、高耶が電話している間、源龍からも離れて統二と二葉が噴水近くで話しをしていた。


最初に話しかけたのは二葉だ。


「秘伝……その……儀式って見ることができるのか?」

「鎮魂の儀? 規模にもよるかな。どうして? 見たいの?」

「っ、ああ……だって、あの人に利用されただけだとしても、俺がやったことに変わりない……」


二葉はずっと考えていた。確かにそそのかされたというのはある。だが、実行したのは自分だ。


「自分がやったことの不始末を他人に任せて忘れるのが許されるのは子どもだけだって、この前のあの人に言われた……」

「あの人……あ、和泉さん? いつ?」

「改札入って別れる時……」

「へえ」


統二の中で一気に俊哉の株が上がった。


「それで?」

「……俺は子どもじゃない……専門的なことは分からないし、できないかもしれないけど、ちゃんとどうなるのか見届けるべきだと思う……」

「確かにね。でも、儀式は夜だよ? お家の人、良いって言わないんじゃない? 次の日は学校だし」


明日の夜ということは、日曜日の夜だ。それも儀式場はここからもかなり遠い河原だ。どこへ何のために行くという報告を簡単にできるものでもない。


「っ、だからっ、と、泊めてくれないか……」

「……っ、家に?」

「そうだよっ。も、もちろん、お兄さんが儀式を見せてくれるって言ったらだけど……」

「う~ん……僕も居候いそうろうしてる身だからなあ……」


ここで、嫌だと言わないのが統二だ。今までどれだけ嫌味を言われてきたといっても、統二の中ではあまり気にしていなかったと良く分かる。それを知って、二葉は少々納得できないような顔をする。これは話すようになった最近、よくする顔だった。


悪いことをしていたと自覚があるからであり、それも統二は自覚してたんだなと思うくらい。大人な対応だった。だからこそ、二葉は自分が子どもではないと証明したいのだ。


そんな統二達の前に、高耶と源龍がやってくる。


「どうした?」

「あ、えっと……二葉君が自分にも今回のことに責任があるからって、儀式を見たいそうなんです……それで、良ければ家に泊まって……って言うんですけど……」


統二にも、今回の儀式がどういった形式になるのかがわからない。きっと統二は見ることを許されるだろうが、二葉はどうだろうかと自信なさげに尋ねた。


「構わないぞ? 家の人が納得するならだが、それよりも君の心の問題もあるしな」

「そうだね。君に申し訳ないって気持ちがあるなら、必要なことかもね。気持ちにケジメを付ける意味でも」


それを聞いて統二も二葉もはっとした。


このまま高耶に任せてしまって関わりを断ってしまえば、きっとこの先何度も思い出すだろう。あの時のあれはどうなったのだろうかと。それは後悔のような苦い思いとなって残り続ける。


俯いてしまった二葉の頭に、高耶が手を伸ばす。


「っ……」

「あの日からあまり寝れてないだろう。そんな状態では色んなものにつけ入れられる。そうだな……今から許可をもらってくるか。今日から泊まればいい」

「っ、いいんですか……」

「ああ。君が心配している子達も儀式には参加させられないが、明日にでもついでに誘ってゆっくりするか」

「あ……っ、はいっ」


あの日に二葉と同じように心に傷を負った二人の少年と、良ければ優希の友達二人も誘おうかと決める。


「ちょうどいいね。高耶君も休めるんじゃない? 因みに、私もいいかな?」

「他に仕事とか大丈夫ですか?」

「今はお役御免になってるからね。いやあ、初めてだなあ。お泊まり会」

「そんな嬉しそうに……」


綺麗な顔を更に満面の笑みで彩る源龍は、本当に初めてなようだ。


ならばそれもいいかと高耶は早速準備に取り掛かった。


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