第077話 参加しないでください

焔泉からの電話で、少々気疲れ気味の高耶は、次に見知った背中を見つけて立ち止まる。


「はぁ……それで、達喜さん? なぜここにいらっしゃるので……」


さすがに、このままでは充雪の社しか残らないのではないかと心配になり、意を決して門をくぐったのだが、そこに達喜たつきがいた。


「いやなに。焔泉殿に電話をもらってな。せっかくだから、一緒にカチコっ……んんっ、道場破りをどうかとな」

「……もうカチコミでいいです……」


言い直す必要はない。間違いなく、これはカチコミだ。だって、遠慮なく銃弾ではないが、風や水や火や土の弾が飛びまくっている。


武でいく道場破りとは絶対に言えない。


秘伝での武の象徴である充雪が率先して指揮を執っているので、これはこれで良いのだろう。ご先祖様推奨すいしょうのだから、文句は言えない。


「近くに来ていたんですか?」

「おう。分家が近くにあってな。茶をしてた。お前んとこと違って、うちは本家とか分家とかあんま気にしねぇからな」

「それはいいですね……」


聞く所によると、達喜の所は彼のように陽気で小さな事を気にしない者達ばかりらしい。一族内でいさかいはなく、むしろ当主の座は面倒だと押し付け合うほどだという。達喜本人も、押し付けられたと言ってはばからない。


「んで? 高耶は混じんねぇの?」

「……あれにどう混じれと……? 既に家が半壊してるじゃないですか……」

「おう。あれは凄かったぞっ。あっちの家なんてレーザーみたいなので真っ二つだしよぉ。そんであっちは腐食したみたいにサ~ッと砂みたいになって消えた」

「……」


犯人が分かってしまった。


「アレってあれだよっ。勇者! 聖剣持った勇者がいたんだって。そんで魔王もいたぞ! すっげぇ色っぽい姉ちゃん! あれ誰だよっ、高耶の式神だろっ」

「……そのようです……」


確信した。


「光の常盤と、闇の黒艶です……四神ではないので、あまり外に出していませんが……」


あの行儀の良い常盤や、自身の特殊性を理解して理性的に振る舞う黒艶までもが率先して破壊行動にいそしんだとは意外だ。


「へぇっ。六神とか、お前は本当にすげぇなぁ。最近は四神でも契約しきれねぇって言われてんのによぉ」

「たまたまです……」


陰陽師達の力も、昔と比べると全体的に落ちてきている。四神との契約というのも、できない者もある。


さすがに、首領達は四神を持っているが、他の家の当主でも式と契約できる者は少ない。代わりに妖と主従の契約をする者が増えている。


「それに、今日見て思ったが、お前の式……あれだろ。いわゆる、精霊王だろ」

「っ……」


彼のような者は見ればわかる。何より、今の状況がそれをはっきりと示している。どれだけ本家の他の式神達が出てこようと、高耶の式神達には敵わないのだ。格が違うと言えた。


本当に高耶が式神達に言って本家をどうにかしろと言えば、この本家の者と契約をした式神達はすぐにその契約を打ち切って消えるだろう。


彼らにとって、高耶の式神達は王だ。本来、事を構える事すら許されない。


それは、達喜達の式神にも言えることだった。


「隠してたのか?」

「いえ……ただ、いらぬ諍いを避けようとは思っていました。契約した当初は式神達にも力関係があるとは思いませんでしたし……」


高耶が彼らと契約したのは、十歳そこそこの頃だ。そういう、しがらみのようなものについて考える頭はなかった。


「充雪もそういうの教えてくれなくて……俺が彼らのことを知ったのは、大陸の方での仕事の時でしたし」


時折、大陸の方に派遣され、あちらのエクソシストと合同で仕事をする時がある。その時に珀豪達が精霊王せいれいおうだと知ったのだ。お陰で、あちらでは子どもだからとめられる事もなく、むしろ歓迎されていた。


「なるほど。だからあっちから回される仕事の時、お前が来ないか一々確認されんだな。納得した」

「確認されるんですか……」


それは知らなかった。


「おう。もしかして変な感じに目ぇ付けられてんじゃねぇかと思って、高耶にはあんまあっちの仕事、回さんようにしてたんだよ」

「それは……すみませんでした」


それも初耳だ。知らず、気を遣われているとは最近気付いた。焔泉は目をかけてくれているし、こうして達喜も何かあれば駆けつけてくれる。他の首領達も、何くれと世話をやいてくれていた。


「気にすんな。俺らが勝手にやってんだからよ。優秀な若者に目をかけるのは当然だろ。それも、大人が子どもに迷惑かけて、嫌がらせしてるって聞けば手を出したくもなる」


本家のことに関しては、本当にいつ手を出そうかと考えていたらしい。


「お前はよくやってる。若ぇんだしって、他が嫌がる仕事も率先してやるし、誰よりも仕事してるしよ。普通、首領に就いてる奴が現場に出張ったりしねぇよ? 俺とかふんぞり返ってるだけだし」

「……」


もちろん、達喜には当主としての仕事はあるが、そこは上手く周りに回しているし、言うほど嫌でもないらしい。


「お前も、もうちっと貫禄がありゃぁな」

「この歳でそれがあったら驚きですよ……」

「あ、確かに。それも可愛くねぇな」

「……かわいく……」


ないはずなのだがと、少し落ち込んだ時だった。


「き、キサマ!! 式を使って強襲するとは、卑怯だろう!! 秘伝の者としての矜持はないのか!!」

「これはまた、えらいバカが来たな……充雪殿も見えん小物が……」

「……すみません……」


達喜が本気でバカを見たという表情で、そいつを見ていたのだ。


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