第061話 本能で判断すると……

風の式である珀豪は、一番初めの高耶の式神だった。この世界には精霊と呼ばれるものが存在する。それが陰陽師たちの言う式神だ。


西洋に行けば精霊と呼ばれるし、契約や顕現の仕方も様々だ。


人が精霊と契約するということは、力として使うことに他ならない。けれど、中には人と同じように式を扱う者たちもいる。


この屋敷の主人と高耶はそれだ。珀豪達や、この屋敷にいる藤達も、そんな主人を持つゆえに、世話焼きな気質を持ってしまったんだと考えている。


《主にも困ったものだ。時折抜けておるというのか……そこも嫌いではないのだが》


そう口にすれば、横にいる藤も困った表情で同意する。


《お仕事柄、普段は目立たぬようにと考えておられるのは分かるのです。ですが、そろそろ二十を迎える若者としてはよろしくありませんわね》


これに、天柳が口を挟んだ。


《そうよね。主様のクローゼットなんて、色物が全くないのよ。茶色か黒なんてもっと歳を取ってからでもいいわよね》

《その通りです。任せてください。そんな事もあろうかと、高耶さんに合う服を色々と揃えております。期待してください》

《藤ちゃんさすがね! ああ見えても主様、今時の女の子達が騒ぐようなアイドル並みに素材は良いのだもの!》


テンションが上がっていく天柳と藤の気配に、珀豪が一歩下がる。


優希が、隣に来た珀豪を見上げてその服の裾を引っ張った。


「ハクちゃん?」

《む……いや、気にするな。女性同士、盛り上がっているところを邪魔するのもと思っただけだ》


式神に性別はないのだが、高耶も当たり前のように天柳や藤を女性として扱うので、珀豪もそういうものとして扱うようになった。


「おにいちゃん、カッコよくなる?」


キラキラとした瞳で見上げてくる優希から、前を行く藤と天柳と同じ雰囲気を感じ取り、珀豪は表情を引きつらせる。なるほど、間違いなく女という気質だと改めて己の天柳達に対する認識を確認する思いだ。


《……いつもとは印象が変わるだろうな》


珀豪はそう言うに留まった。すると、呆気に取られて、今まで口を挟むことが出来ずにいた美咲が尋ねる。


「ねえ、ここにいる人達は、高耶をどう思っているの?」

《ああ……あれらにとっては、息子か弟といったところだろう》


女性として見るのならそれがぴったりだ。これに樹が頷く。


「確かに、高耶くんが逆らえない感じだったものね。高耶くんって、女性に弱いのかな?」

《逆らうべきではないものを本能的に察する能力が高いのだ。女であろうとなかろうと、本来は自身の信念や常識から外れていれば容赦をしないのでな》

「へぇ……想像できないな」

《敵ならば女であっても戦うことを躊躇されない》

「う~ん……やっぱり想像できない」


血の繋がりのない優希にも最近は兄馬鹿な様子を見せるようになった高耶を見ている。更には、母親の再婚相手である樹にも嫌な顔一つしない。そんな優しい高耶が容赦ようしゃしない様というのは、想像できないらしい。


《そこは知らぬ方が良いかもしれんな》

「確かに、そういう場面に出会う機会はない方がいいのかもね」


家族としては知りたいと思うのだろうが、そんな機会などないに越したことはない。


《うむ。どのみちここでは、主は常に押され気味になると教えておこう》

「それは楽しそうね」

「ちょっと可哀想じゃない?」

「いいのよ。あの子、最近特に甘えてくれないんだもの。男の子ってつまんないわ」

《……主は甘え方を知らぬだけだと思うがな……》


怒ってばかりに見えた美咲も、実は高耶が頼ってくれないことが不満だったようだと理解し、珀豪は苦笑するのだった。


◆ ◆ ◆


奥へと連れて来られた高耶は、その部屋にあるものを見て固まっていた。


「……菫さん、橘さん……これってまさか……」


嬉々としてそこに飛び込んで行ったすみれたちばなに確認しようと尋ねた。


《全て主様が用意された高耶さんの服です。高耶さんが百歳を過ぎても着られるよう年代ごとに分けてございます》

《ちなみに隣の部屋には鞄や靴などの小物もありますので、ご覧ください》

「……と、隣も……」


四十畳ほどの部屋一つが、まるで服屋を丸ごと用意したような状態になっている。その全てが、高耶のための服らしい。それが、隣にもあるというのだから、驚くに決まっている。


《主様は高耶さんをご子息のように思っておられます》

《主様は高耶さんをお孫さまのように思っておられます》

「……それは……知ってる……」


だからあまりここへ来ようと思わなかった。はっきり言って恥ずかしいのだ。


《 《はい。溺愛しておられますから》 》

「……」


それは言葉にして欲しくなかった。


《さぁ、高耶さん。こちらを》

《お手伝いいたします》

「いや……自分で着替えるから……」


とはいえ、趣味は悪くない。部屋にあるのは、派手すぎない青や緑など、明るくも奇抜きばつではないものでまとめられている。


着替える服を受け取り、端に用意されているカーテンで仕切られた場所へ向かう。素早く着替えなければ、二人が突入してきそうだったので、慌てて着替えた。


そうしてカーテンを引くと目の前に二人が迫っていた。


「な、なんだ?」

《髪を整えさせていただきます》

《眼鏡はお取りください》

「はい……」


色々と気に入らないらしいことは良くわかった。


高耶にとってこの屋敷にいる精霊達は、世話好きで少々強引な姉達なのだ。逆らうべきではないと本能で感じていた。


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読んでくださりありがとうございます◎

応援・フォロー・★のお礼をとしていたのですが……ウザイとのことで申し訳ありません。

今後、お礼はお伝えできませんが応援感謝しています◎

気に入って読んでいただければと思います。日々の楽しみの一つになれば嬉しいです◎

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