第030話 繋がっているものです

旅行から帰ってきた高耶は、次の日当然のように大学へ行く。


朝一番に会ったのは、小学校が同じだった友人、和泉いずみ俊哉しゅんやだ。


「おっす、なぁなぁ、高耶。お前さぁ、ちょい前に子どもを変態から助けなかったか?」

「……妹の友達が若い男にちょっかいかけられているところは助けたな」


えらく内容を簡潔に言うものだから、一瞬聞かなかったことにしようかと思ったほどだ。昔から、テンションを上げると面倒くさい所がある。その予感を今感じていたのだ。


「やっぱり! 俺のジィちゃんが『見守り隊』やっててさぁ! 危ないところを助けてくれた奴の事が気になるとかって。そんで、高耶と俺が小学校の時の写真見て、そうじゃないかって!」


この連休に母親の実家である祖父の家に行く機会があったらしい。そこで、俊哉に確認されたのだという。


「あのおじいさん……そうか、俊哉の」

「おうっ。ありがとな! ナイフ持ってたんだろ? 危なかったよな」

「まぁ……無事で良かったよ」


知り合いの祖父を助けられたというのは、素直に嬉しい。


「それにしても、最近の若者はキレやすいとかいうけど、マジなんだなぁ。ナイフを常備してるところもおかしいけどさぁ」

「ああいう物に強さを頼りがちなんだよ。自分に自信がないからな」

「あ~、そういや、高校の時に見せびらかしてるのいたなぁ……それも、仲間内で見せ合ってさ」


見せびらかすということは、アクセサリーか何かと勘違いしているのだろうか。欲しいと思ったこともないので、高耶には分からないものだ。


「俊哉はそういうのなさそうだな」

「ナイフがカッコイイとかも思ったことねぇからな。まぁ、災害時には必要かなとは思ってるけど」

「備えかよ……意外と真面目だな」

「意外ってなんだよ。俺は真面目な男だ」

「はいはい」


こいつは妖とも無縁だなと、呑気な友人に苦笑する高耶だった。


◆ ◆ ◆


高耶は大学が終わると、最近は寄り道をせずに真っ直ぐに自宅へ帰る。その理由は当然、優希だ。


「ただいま」

「おかえりなさぁい」


優希も先ほど帰ってきたらしく、リビングのテーブルには、まだ宿題の用意ができていなかった。


高耶が鞄を部屋に置き、戻ってくると、優希はそわそわと駆け寄ってきた。手には可愛らしいピンク色のキーホルダーとハンカチが握られている。


「あのねっ、きょうねっ、カナちゃんとミユちゃんが、おみやげくれたのっ」

「へぇ、あの子達か。可愛いじゃないか」

「うん!」


一時は大丈夫だろうかと思ったが、友達として良い関係が出来ているらしく、良かったとほっとする。


「きょうはカナちゃんのおかあさんが、おうちまできてくれたの」

「ん? もしかして、一緒に帰ってくれてるのか?」

「うん。ミユちゃんのおかあさんのときもあった」

「それは申し訳ないな……」


どうやら、あの青年の件があってから、近所の親達が持ち回りで家まで送ってくれていたようだ。


「おにいちゃんがかえってくるまであそぶ? っていわれたんだけど、しゅくだいやるからっていっておいたの」

「そうか。けど、遊びたいなら良いんだぞ? そうだなぁ……【珀豪】」


高耶は珀豪はくごうを呼び出す。すると、すかさず優希が珀豪に抱きつく。


「ハクちゃ~ん!」

《優希、危ないぞ》

「だいじょうぶ~」


そのなつき様はかなりのものだ。


「珀豪。これから毎日、優希と留守番頼めるか?」

《構わない。こんな幼子を一人で居させるには、少々危険な世の中のようだからな。外で友人と遊ぶ時はついて行けば良いのだろう?》

「ああ。話が早くて助かるよ」


珀豪は、まだその実力を見せていないが、当然、その辺の人よりも遥かに強く頼りになる。


《では優希、主はこの後に仕事がある。我と留守番だ。まずは宿題をやるのだろう?》

「うん。おにいちゃん、いってらっしゃ~い」

「ああ……行ってくる」


本当に話が早い珀豪。そして、もう高耶よりも珀豪に夢中な優希。


少しばかり寂しいと思うのは仕方のないことだろう。


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