第027話 不安は渦巻いて

家族が落ち着くのを待って、高耶は首領の一人へ電話をした。それは言わずと知れた陰陽師を代表する家。首領をまとめる宗主である安倍あべの焔泉えんせんだ。


『おやおや。どうされた?』

「確認したい事がありまして……」


聞きたかったのは、鬼渡家の者についてだ。


『長く鬼の血を取り入れた弊害なんやろなぁ……力はあっても、肉体が付いてきまへんのや。家を潰した言うても、鬼畜な事はしてはりまへんぇ? 自然消滅やわ』


鬼の血の力は強く、人の身では毒でしかない。生まれた子ども達は総じて短命だったという。


『ただなぁ……鬼渡家の血筋は絶えても、その後、同じように隠れて鬼の血を取り込む者達が結託してなぁ。それらが鬼渡を名乗ったんよ』


今問題になっている鬼渡家の者は、本来の鬼渡家の血を引いてはいないはず。鬼の血を取り入れた組織と言った方が正しいだろうとのことだった。


「何人いるかも分からないし、もしかしたら、連盟に加盟している家の者かもしれないということですね?」

『理解が早よぉて助かるわ』


コロコロと笑う焔泉。昔から目をかけてくれる彼女だが、こちらから質問しないと教えてもらえない事が多々ある。


本家の後ろ盾や知識が乏しい高耶としては、からかわれているだけのような気がしてならない。


「……分かりました。ありがとうございます」

『ええよ。また聞いてや?』

「はい……助かります」


本当に、自分の何が彼女の琴線きんせんに触れているのか分からないが、有り難く情報はいただいておく。


電話を切ろうとした所で、不意に忠告された。


『気ぃつけぇ? 鬼渡の者は女やさかい。それも、大層な美人やぇ』

「女……」

『ふふっ。ほな、期待しとりますわ』

「……はい……失礼します……」


一体何を期待されているのか。よく分からないが、やれる事をやるだけだ。


「女……となると……やっぱりあれが鬼渡か……」


高耶がすれ違った女性。源龍に似たあの女性が鬼渡の者かもしれない。直感は無視出来ないとはいえ、複雑だった。


「源龍さんは確かにキレイな顔してるけど……あれは……」


本当にそのまま榊源龍を体の線や作りだけ女性にしたような姿だったのだ。あれだけ似た人物がいるという事実に身震いしてしまう。


「似てる人がいるってレベルじゃないだろ……」


この世には何人か自分にそっくりな人がいるとか聞くが、実際に知人に似た人でも出会ったことがあると答えられる人は何人いるだろうか。


一人悶々と思案していれば、電話が鳴った。


「ん? 泉一郎さん?」


何事かと思い通話ボタンを押す。


『あ、高耶くん。清雅です』

「どうかしましたか?」

『いや、孫娘が失礼なことをしたようで……申し訳ないっ』

「そのことですか。いいえ、人がいる時間でしたから、こちらも上手くいくとは思っていませんよ。問題ありません」


想定内ではあったが、ただ、あれほど絡んでくるとは思っていなかった。


『それで、誤解したままでいさせるのでは、また迷惑をかけるかと……秘伝家のことを話してもよろしいでしょうか……』


あの性格では、真実を話さなければ納得しないだろう。


「はぁ……そうですね……あ、いえ。できれば黙っていていただけますか? お孫さんの今日の印象からいくと、他の友人や周りの方にも話してしまいそうですからね……今はこの地でやらなくてはならない事があるので、存在を悟られるわけにはいかないのです」


隠密行動とまではいわないが、鬼や鬼渡の者に高耶の存在が知られるのはマズイ。


『そうですか……』

「すみません。もう少し落ち着くまで待ってください」

『わかりました。お邪魔にならないよう、麻衣子には厳しく言っておきます』

「あまりお気になさらず」


彼にとって高耶は恩人であり、秘伝家といえば彼ら武術を引き継いできた者達からすれば神のような存在なのだ。


そんな相手に向かって、孫娘が詐欺師だのペテン師だのと言えば心穏やかではいられないだろう。


通話を切ると、高耶大きなため息をつく。


「あの性格じゃ、叱られた所で曲げないだろうな……」


気の強そうな孫娘だった。無視しようとも突っかかってくるのだから、かなり心臓が強い。


「早い所、ケリを付けるしかないな」


鬼を倒してしまうか、完全に封印してしまえれば、鬼渡の者も何もできないはずだ。


何より、あのお喋りな孫娘から、鬼渡の者に高耶という不審な男についての情報が伝わるのは時間の問題だ。


目を向けられてしまっては動きにくくなる。彼女の力も把握できていない現状では、不利なのが目に見えている。


「俺に本当に倒せるか?」


拳を握り自問する。鬼を倒せるだろうか。鬼渡の彼女が敵として目の前に立ちはだかった時、拳を握れるだろうか。そんな不安は、高耶の胸を占めていくのだった。


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