第015話 魔法少女ではありません

充雪は難しい顔をしながら腕を組んで高耶の前に座り込むと、調べて来たことを話す。


《山の神には会えんかった。どうも弱っているらしいな。社から動けんのだろう。鬼の封印を保たせるのに必死みたいだ》

「今すぐ行ってどうにかなる……とは思えんな。一応神力を高める呪具を作ってみるか」

《それがいい》


一時的に弱った神を回復させる技というものがある。それは本来、土地に力を与えるもので、そこから神は力を補うことができるのだ。


封印の儀などのために、場を整える場合に使われる呪具。普通は片手間で出来るものではないが、高い技術力を持つ高耶にならば、こうした旅先でも可能だった。


半分は充雪によっていつでも材料集めが出来るからというのがある。今夜中に下準備だけして、明日以降、充雪に必要な物を集めてもらうつもりだ。


「ただ、鬼がどういう封印術で封じられているのか分からないからな……やしろの周りだけにしか効果のない簡易のものにする。確認するが、鬼の封印場所は、やしろより遠いんだよな?」


懸念けねんしているのは、鬼にまで力を与えてしまうことだ。


《多少離れているな。一般的な大人の男が歩いて十五分というところだ》

「それならなんとか……」


思わず呟くと、ふすまの向こうに優希の気配を感じて振り返る。


「……優希? どうした?」


声を掛けると、優希がそっと少しだけ襖を開けた。


「おにいちゃん……いっしょにねていい?」

「……まだ寝れないんだ……父さん達は?」

「ねちゃった」


隙間から見えた両親は、確かに眠ってしまっているようだ。疲れていたのだろう。思えば、二人とも久し振りのまともな休みなのだ。仕方がない。


一方、優希は初めての家族での旅行に興奮して眠れないらしい。


どうすべきかと悩んでいれば、充雪が声を掛ける。


《風邪引くぞ、布団に入れてやれよ》

「そうだな……」

「おにいちゃん? さっきから、だれかとおはなししてるの?」

「あっ、いや……」


しまったと思った。反射的に充雪の方を振り向いたり、声に出したりしていた。高耶自身も、慣れない環境と、ここ二週間の疲れが出ているのだろう。


《見せてやったらどうだ?》

(おい……)

《いいだろ。別に家族に秘密にしろとかないぞ? お前ももう少し肩の力が抜けるだろうよ》

(……)


高耶は大きく息を吐く。それから、立ち尽くす優希を手招いた。


「優希、布団に入りな」

「うん」


優希を布団に入れてから、高耶は札を取り出す。それに力を込め、襖の上辺りに向けて飛ばすと、そこにピタリと張り付いた。


「いまのなにっ!?」

「声が聞こえなくなるまじないだ」

「それっ、それしってる! ケッカイっていうんだよねっ!」

「……よく知ってるな……」

「うんっ。あのねっ、モモハナが、まほうをつかうときにはケッカイをはるんだよっ」

「……そうか……」


『モモハナ』というのは、今時子ども達に人気の魔法少女なアニメの主人公のことらしい。


「まほうつかうの!? おにいちゃん、まほうしょうじょなのっ!?」

「……それを言うなら魔法使いな。なら、そうだな……使い魔を見せてやる」

「サキサキちゃんっ!?」


分かりやすく使い魔と言ってみたが、すごい食い付き具合だ。因みに『サキサキちゃん』とは、魔法少女の使い魔。お花の妖精さんらしい。


「その、サキサキちゃんみたいに可愛いやつじゃなくてだな……爺さんなんだが……いいか?」


期待を裏切ることを断っておく。すると、優希は構わないといったように布団を跳ね上げて目を輝かせていた。


「はぁ……この人は俺の先祖の爺さんだ」


そう言って呪印じゅいんを切る。すると、只人ただびとにも充雪が見えるようになるのだ。それに更に呪印を切って声も聞こえるようにしておく。簡単にやっているように見えるが、これが出来るのは、限られた術者だけだ。首領の中にもこれだけは出来ない者がいたりする。得手えて不得手ふえてが出る術なのだ。


「っ、おじいちゃんだ……っ」

《初めましてだな。オレは充雪。セツジィって呼んでくれるか?》

「うんっ! セツじぃ、はじめましてっ。ゆうきですっ」

《おう。よろしくなっ》

「すごいっ、ういてるぅっ」

「優希……落ち着け……」


それっぽく、わざわざ浮いて見せる充雪。お陰で、先ほどより目が覚めてしまったのではないかと少し責め気味な視線を向ける。仕方がないので、もうこのまま高耶が作業する間、充雪に話し相手になってもらおうと決めた。


「爺さん、優希と話ててくれ。俺は端で作業してるから」

《任せろ。寝物語にオレの武勇伝を聞かせてやろう》

「おはなしきくーっ」

「優希、眠くなったら寝ろよ?」

「うんっ」


こうして、夜は更けていくのだった。


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