第十一話『宮殿の最後』②
× × ×
金盞花が揺れている。
頬を撫でる風に、真琴はようやく目を覚ました。
辺りを見回してみるが、そこにアリオやニーナたちの姿は無い。
──雅!? 雅はどうなったの!?
ニーナは「雅ちゃんはカプセルの中で生きている」と、言っていた。
戦いの行方を知らない真琴は不安と焦燥感に駆られて空中庭園を飛び出した。
記憶を頼りに、真琴はニーナの研究所へと走った。
厳重な扉は何か強力な力で壊されたらしく、破壊されていた。
ほどなく、真琴はその理由を知った。
培養液に諏訪彩女浸された諏訪彩花の前にアリオが立っていたからだ。アリオの隣には、セーラー服姿のセーレが立っている。
「アリオ……」
「真琴、あなたを待っていたわ……最期に会いたかったのでしょう」
アリオに促されて視線を追いかけた真琴は言葉を失った。
そこでは緑の培養液に浸されて、雅が浮遊している。
「雅!!」
雅は培養液の中で、その美しく長い黒髪を揺らめかせている。目を閉じたその姿はまるで眠っているかの様だ。
「雅!! 雅!! 雅!!」
何度呼びかけてみても、雅は一切、反応しない。
「雅、ごめんね……わたし……わたし、雅を救えなかった……」
真琴の脳裏に雅の様々な表情が浮かんでは消える。
怒った顔、悲しい顔、困った顔、そして笑顔。
どれもが真琴にとってかけがえのないものだった。
「お別れは済んだかしら……そろそろ破壊するわ」
「ちょ、ちょっと待って!!」
培養液に入った彩女と対峙するアリオの前に真琴が割って入った。
「『医療システム』を壊わしたら、雅が本当に死んじゃう。アリオやめて!!」
「ニーナの『医療システム』はニーナ本人が死ぬと自動的に停止するんだ。魔女が死んだら魔法の効力が切れるみたいに……。雅も彩女も、もう死んでる……後は身体が朽ち果てていくだけなんだ」
セーレは優しく言い聞かせる様に言った。
「でも……」
「培養液の中で無残な姿を晒すより、灰になった方がマシだと思うけどね」
セーレに言われても真琴はその場を動こうとしない。
そんな真琴にアリオがツカツカと歩み寄った。そして、真琴の手首を掴むと、強引に引いて後方へと投げ飛ばした。
華奢なアリオからは想像も出来ない膂力に真琴は後方の床へと身体を打ちつけた。それでも、真琴はアリオを止めようと起き上がった。
真琴はよろめきながらアリオへと向かって来る。
バシュッ。
アリオは虚空から魔銃『ブルトガング』を取り出すと、真琴の足を撃ち抜いた。
火力は小さかったが、真琴の自由を奪うには十分だった。
「うぅ……」
真琴は呻き声を上げて倒れた。
今度は起き上がろうとしても身体に力が入らない。
「やめ……て。みやび……を……うたない……で」
「……」
「おねが……い」
真琴はそう言って再び力尽きた。
アリオは彩女に向き直ると、魔銃『ブルトガング』を構えた。
しかし、アリオはその引き金を引こうとしない。
セーレが不思議そうにアリオを見た。
「アリオ、どうしたの? 躊躇ってるの?」
「……少しだけ気分が悪いのよ。今、破壊するわ」
アリオは『ブルトガング』の引き金に指をかけた。
「アリオ、諏訪彩女の心は死んでいても、身体は『世界の欠片』の持ち主なんだ。それに『緋雨』はその力を発動してる。中途半端な攻撃じゃ、この『医療システム』は壊せないよ♪」
「わかってるわ」
アリオは目を閉じると、自身が最も愛する存在の名前を呼んだ。
「アリアお姉さま……来て」
アリオが呟くと、傍らの空間が揺れた。そして、その空間は人影を形作り、やがてそこには銀髪の少女が現れた。少女はアリオの双子の姉、アリアだった。
アリアはアリオとは色の違うブルトガングを手にしていた。
「お姉さま、感謝いたしますわ」
アリオがそう言って銃口を彩女へと向けると、同じようにアリアも銃口を彩女へと向けた。
アリオは右手で、アリアは左手でブルトガングを構えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます