第9話 あふたーすとーりー ルークスの場合

 

 くっ、どうして俺がこんな目にあわなければならないんだ!


 俺はこの国の次期国王だぞ!


 それがどうして、軟禁紛いの生活を強いられなければならないんだ。

 全てはあの女、ステラ・フォールドに関わってしまったからなのか?


 あの女と俺は赤子の頃に親が決めた婚約をしていた。

 それは早いうちから次世代の体制を決めておくという点では合理的なものだった。


 でも、あの頃の俺はなんの疑いも無しにステラと結婚することを喜んでいた。

 それもそうだろう。幼女のときのステラは普通に可愛かったし、フォールド家といえば軍事から領地経営に至るまで活躍し、他の家ならば一つや二つある黒い噂が不自然なくらいなかった名家だった。


 そんな家の子が自分のモノになるのだ。俺の輝かしい将来は保証されたようなものだった。


 だが、ある日を境にステラは変わった。


『あなたのおよめさんにふさわしいかんぺきなおとなのじょせいになります』


 そこからのステラの行動には鬼気迫るものがあった。

 ピアノやヴァイオリン、料理に裁縫、挙げ句の果てには経済学や薬学まで。


 なんなんだ。この女は一体、何を目指しているんだ!


 この頃から俺はステラ・フォールドという女を理解できなくなり、同時に恐ろしく思えるようになった。


 そんなステラから逃げるように、俺は地方への視察や、軍の遠征に参加するようになった。


 そして、この学園に帰ってきた時。学園内の生徒のほとんどがステラを『女王』と呼び、畏怖していたのだ。

 確かに、貴族の位が高かったり、俺のような王族だったら敬意は払われるだろう。だが、一部の生徒にいたってはステラを見るだけで顔を青くし、泣き出すものまでいたのだ。


 そんな女と夫婦になれだって? それこそ、フォールド家の者に国を乗っ取って下さいと言わんばかりではないか。


 それ以降、表面的にはあの女の機嫌を損なわない程度に交流をし、甘い言葉を吐き続けた。

 その裏で、ある程度顔のいい女たちに慰めてもらうことで心のバランスを保っていた。



 だが、いよいよもって我慢が効かなくなり始めた頃に女神に出会った。

 彼女は平民の出身で、その優れた容姿や演技の才能から推薦を受けてこの学園にやってきたらしい。


 初めは他の女たちと同様に、何度か遊んでやったあとに放置しようとも考えた。

 しかし、リリアと逢瀬を重ねるうちに彼女の魅力に引き込まれていった。


 どこにいくにも、なにかするにもリリアとは神がかっている偶然によって会った。

 慈愛に満ちた表情で花を愛で、交友関係を広めるために様々な場所に出かけ、困ったときには俺に頼ってくる。


 これだ! こういう女性が俺が求めていたタイプなんだ‼︎


 俺たちが愛し合うのには時間はかからなかった。

 俺にもたれかかってくるその体が。甘え声と吐息が。俺の中の漢を刺激してきた。


 そうなれば、あの女はもういらない。


 たとえ、どんな障害の壁が待っていようと、リリアと添い遂げよう。

 中庭で起きた一件を皮切りに、俺の中で決意が固まった。


 それからは大変だった。リリアと一緒にステラの息のかかってない生徒からステラについての噂や悪事を掻き集め、王子の特権を使いフォールド家の闇や裏事情まで入手した。

 その中にはフォールド家の現当主がよからぬことを企て、暗躍し始めたと言うではないか。

 上手くいけば、ステラとの婚約を破棄できる上に国家反逆を企てようとするフォールド家を潰すことができる。



 しかし、結果はご覧の通り。



 父上に呼び出されたと思えば、厳しい叱責を言い渡され、「フォールド公爵が条件付きで許してくれなかったらお前の王位継承権を取り消していたぞ。このバカ息子めが‼︎」 と殴られた。


 今まで、父上にぶたれたことなんてなかったのに‼︎


 そうやって俺は、早くリリアに慰めてもらって、ステラとあのアインとかいうやつに復讐をするために今日も頭を回転させる。




「いつか、貴様ら二人にザマァみろと言ってやるからな‼︎」


 。・゜・(ノД`)・゜・。





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