第2話 主人公?そいつが敵です。

 

「あぁ、リリア。まるで川辺に咲く美しい一輪の花のようだ」


「そんな、リリア照れちゃいます」


「恥じらう顔がまた一段と可愛らしい」


「もう、ルークス様ったらお上手なんですから……」


「これは、紛れも無い俺の本心だ」




 うげっ。なんだよこの大量の砂糖をぶち込んだココアみたいな会話。

 甘すぎて胸焼けするぞまったく。


 現在、国中の貴族の子供達が通う高等学院の中庭で国の王子が女生徒と逢い引き中だ。


 そして、僕はそれを近くの茂みから観察&盗聴中。


 銀髪碧眼の甘ったるい顔をしてるのが、国一のイケメンと名高いルークス王子。

 その横にいるピンク色の巨乳女が、平民から王妃への下剋上を目指してるリリアだ。


 普通のやつから見たら、イケメン王子に言い寄られてる恥ずかしがり屋な少女の絵にしか見えないが、あの女はビッチである。


 今日現在、あのリリアに落とされた男子生徒の数は二桁へと移行しようとしている。


 リリア、なんて恐ろしい子………。



「ちょっと、あなた!そこで何をしているのよ‼︎」




 仲睦まじい二人の甘い時間を裂くように、鋭い怒声が飛んでくる。


 声の主はもちろんこの学園の女王様。

 金髪ドリルツインテールの姉様である。


「ルークス! これはどういうことですの?講義をサボって談笑なんて」


「ス、ステラ……ええと、これはだな」


 姉様に詰め寄られてタジタジの王子。

 学園の派閥を統一した姉様の眼光には教師すらも中々逆らえないしな。


「待ってください。ステラさん!ルークス様は体調が優れなかったリリアを心配して下さってただけなんです‼︎」


 ただし、ゲーム主人公には効果なし。


「それがどうしたのですか?」


「なっ………ステラ! 君は具合の悪そうな子を放っておけと」


「いいえ、具合が悪いのであれば大人しく家で眠っているか、保健室へ向かうのが当たり前ではありませんの? 当学園の保健医は一流の能力を持っていますわ」


「いえ、ちょっと気分が優れないだけだったので保健室にいくまででは無いかとリリアは思ったんです」


「それくらい、我慢して授業に出席なさい。私たちとは違って、平民のあなたはサボっていられるほど、余裕はなくってよ」


「…………リリアは」


「リリア・ルルリア。最近のあなたの行動は目に余るわ。授業をサボっては他の男子生徒と遊んでいるらしいわね。学業の面でも試験の成績は芳しくなく、突出して運動ができるわけでもないようね」


 姉様からのド正論に涙目になるリリア。

 でもさ、その通りなんだよ?

 うちの学園は貴族と平民で評価の方法がまるで違うんだから。


 貴族の子供達は幼少期から様々な習い事や勉強を習得しており、学園には他の家や一般の家の子供達との交流を深めるために通っている。最悪、パーでも家のコネでどうにかなる。


 一方、平民と呼ばれる生徒は、貴族たちが当たり前に受けている高水準の教育を受けて、将来は優秀な文官や商人になるために死に物狂いで貪欲に学ばなければならない。

 卒業時に職が決まらなければ、後に残るのは高額な授業料のローンだけなのだから。



「……リリアだって、一生懸命に頑張ってるんだもん! ステラ様みたいにみんなからちやほやされてる人なんかにはわからないんだもん!」


「はっ、どの口がそんなことを言うのかしら。泣き言ばかりで何もしないあなたに人のことをどうこう言える権利があって?」


 うわー、姉様が完全にキレてる。今にも持ってる扇子でビンタしそうだよ。


「………ッチ」


 おい、リリア。舌打ちか? 今、この女舌打ちしましたよ! 姉様と王子に聞こえないくらいの音量で舌打ちしましたよ!


 怖っ。泣いた振りしながら舌打ちとか怖っ‼︎俺の作ったゲームだけはあるよ。あの主人公はとんでもない悪女だよ。


「それに、人の婚約者であるルークスに、」


「ステラっ‼︎」



 スパーン!



 えっ?今、何が起こったんだ。

 姉様を睨みつける王子と、信じられないといった様子で頬を抑える姉様。

 もしかしてこれ、姉様がビンタされた?あぁん?


「君がそんな風に誰かを悪く言うなんて、見損なったぞ」


「ルークス?……なんで、……私はただ」


「国王である父の言う通りに君と婚約を結んでいたけど、この一件で考えを改める」


「っ⁉︎ そんな、待ってよルークス! 私はあなたのために、あなたにとって誇らしい妻になれるように今まで頑張ってきたのに‼︎」


 ポロポロと泣き出す姉様を余所に、王子は演技継続中のリリアの手を引いて歩き出した。


 そして、トドメに。


「来週ある最後のダンスパーティーは君じゃなく、このリリアと踊ることにする」


 そう言って、立ち去った。

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