番外編 イレーナ 7歳
わたくしのスキルがはんめいしてから、長い年月をかけてお父さまが開発していた金属がひとまず完成したようです。
「イレーナ、これを試して使い心地を教えてくれ」
「わかりましたわ。お父さま」
金属にはまだまだ改良の余地があるそうですが、今までのものよりかくだんに固くなっているそうです。そのため加工するにもかなりの力とぎじゅつがひつようで大変なんだとか……
お父さまに渡された金属……まずインゴットで渡されます。それがこねこねできなければスプーンやフォークと実用的なものでチェックするのです。
お父さまに渡されたインゴット……わたくしはこねこねできてしまいましたけど……それでも今までよりスプーンやフォークをまげる回数はへっていると思います。少しだけ、かたくなった気がしますから……
「ねぇ、デボラ……これってお父さまになんて報告すればいいのかしら……正直に言ってしまったらお父さま悲しまないかしら?」
「お嬢様……正直に報告した方が後の開発に役立つかと」
「そう……でも、お父さまはわたくしにがっかりなされないかしら……」
「大丈夫です。それよりお嬢様に嘘をつかれる方が残念に思われるはずです」
「……わかったわ。ありがとう、デボラ」
デボラのアドバイス通り、お父さまやお母さまには正直に報告いたしました。それでも以前よりスプーンやフォークをまげたり折れる回数がへったと言えば、すごく喜んでくれたので、それからもまげたり折ったりしないようにがんばっています。
来年からは領地をはなれ、王都にある王立学院へ通うことが決まっています。
貴族の子はみんな8歳~12歳の間の5年間、王都にある学院へ通います。そこで人脈を増やしたり、お勉強をしたりします。
お友だちのリーリアも一緒なのでとてもこころづよいです。
中には商人の子などもいるそうですが、ほとんどの庶民の子供は王立学院ではない学校へ8歳~15歳の間に数年間通うそうです。
貴族でも13歳から16歳まで通う高等科に進む人は半々ぐらいだそうで、その内の7割が男子だそうです。この辺りはデボラから聞きましたがよくわかりません。男の子が多くて、長く学校に通うということでしょうか?
つまり何が言いたいかというと、わたくしは来年からたくさんの貴族の子に囲まれて生活します。
そこで相手をけがをさせたり、さわぎを起こしてしまえばあっという間に貴族にうわさが広まってしまうのだそうです。そうすればお父さまやお母さまにめいわくをかけてしまいます。
なので、学問よりもマナーよりも、力の使い方に重きを置いた特訓が始まったのです。学問はきちんと授業を聞いていればなんとかなるんだそうです。大丈夫ですわ。わたくし大人しくジッと話を聞くのは上手になりましたもの!
「お嬢様、それはジッとしているというより居眠りです。しかも机が壊れました」
「あら……そうですの?はあ、またやってしまいましたわ」
学院で居眠りはげんきんですわね……一発で怪力がばれてしまいますわ。そうですわ、これからはすいみん時間をふやすことにしましょう!そうすれば居眠りをしないはずです。
数年前から王立学院に通っているエバン兄さまは夏期休暇でも冬季休暇でもあまり領地へ帰ってきません……仲良くなったお友だちと学院で勉強しているそうです。
……実際のところはわかりませんが、お父様やお母様とは社交シーズンのときに王都で会えるので問題ないらしいです。
でも、わたくしは少し寂しいです。学院でのお話をたくさん聞きたかった……領地は王都から馬車で2日ほどの距離にあるのですけど、それでも帰ってこないのだから……エバン兄さまはよほど学院生活をまんきつしていらっしゃるのだわ。それほど楽しい学院生活……わたくしも送れるでしょうか。
ダンスレッスンは相手を怪我させないようひとりで踊ります……ええ、最初は執事のアドルフが相手を努めようとしてくれましたが、危うくけがさせてしまうところだったのでまずはダンスをかんぺきに覚え、集中を力加減に回す余裕が出来てから誰かと踊ることになりました。まだまだ先は長そうです……
マナーはもちろんですが、さらにフォークやナイフをまげないよう力加減を気をつけなければいけません……最悪の場合、わたくし人前でお食事できないかもしれません……お食事ができないとお腹がすいてしまいます。なんとしてもマスターしなければ!
レディのたしなみである刺繍は糸を切ってしまったり布が破れたり針を曲げたり折れたりしてまともに縫うこともできなかったので泣く泣く諦めました。編み物も同様で編み棒は折れるし毛糸は千切れました。ああ、学院の授業でもあるというのに、これではきっと落ちこぼれですわね……
そういえば、リーリアが送ってくれた刺繍のハンカチは見事な出来でしたわ。さすが、【裁縫】スキルですわね……うらやましいです……でも、もしわたくしにそのスキルがあっても【怪力】で意味がなさそうですけれど。
余談ですが、貴族の間でもスキルはしょうだんやこんいん関係において武器として使用できるので利用できるものは利用するそうです。
リーリアの【裁縫】は女性なら持っていれば公表することが多いそうです。わたくしは今のところ【健康】と【幸運】だけ公表しているそうです。
もちろん、あえてすべてを隠す貴族もいるようですが、特に女性の場合は結婚につながりそうなスキルは公表するのが一般的なんだそうです。反対に不利なスキルは全力で隠すそうですが……ええ、わたくしのスキルみたいに。
◇ ◇ ◇
わたくしもエミリアお姉さまみたいに可愛らしいリボンを身に付けたいのです!
というのも、エミリアお姉さまからプレゼントされたリボンがあるからなんですけど。
エミリアお姉さまが王都で買ってきてくださったリボンはレースが美しい繊細な薄ピンク色。以前、わたくしがお姉さまのリボンを羨ましがったため、わざわざ色違いをプレゼントしてくださったのです!なんてお優しいんでしょうか……
さっそく、エミリアお姉さまの髪型を思い浮かべながら自分の髪にリボンをつけようとしますが……
ブチッ!
「あっ……」
ああ、切れてしまいましたわ……わたくしの髪の毛が。
リボンを切らないように集中するあまり髪の毛を強く引っ張りすぎたようです。
「お嬢様、どうされましたか!?」
「……デボラ、わたくし髪の毛が……」
「まぁっ、失礼します」
デボラが慌てて髪を確認してくれましたが、幸い目立つほどではありませんでした。
エミリアお姉さまからプレゼントされたリボンが切れていなくてよかったです。
このリボンが千切れてしまっていたらショックで何も食べれなくなるところでした……髪の毛が切れたことは少しかなしいですが、自分のせいですのでしかたありません。それに髪の毛はすぐに伸びるので大丈夫です。
ですが……それからはお父さまやお母さま、デボラにまで自分の髪をいじることは禁止されてしまいました。
ですが、結果的にエミリアお姉さまにプレゼントされた可愛いリボンを頭につけることはできたので満足です。
「お嬢様、よろしいですね?髪の毛は触らない!」
「はい、髪の毛は触らない!」
「リボンはデボラに頼む!」
「はい、リボンはデボラに頼む!」
「居眠りは厳禁!」
「はい、居眠りは……あら、それって今は関係ないのではなくて?」
「お嬢様……」
「はい、居眠りはげんきん!」
デボラのお顔が怖かったので思わずしたがってしまいました。
これを何度か言わされたのもいい思い出ですわ。そのおかげで居眠りしそうになるとデボラの顔が浮かんできて眠気が吹き飛ぶようになったんですもの……ひとつ心配ごとがへりましたわ!
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