第23話 告白

 

 誘拐騒動から5日……


 この間に色々とコトが動いたそうで……誘拐のことは内密に処理することになり、救出に立ち会った騎士達にも厳重な口止めがなされたんだとか。

 これにはロベール侯爵家を筆頭にベルナー侯爵家、サルマンディ伯爵家、フォーベル公爵家など数多くの貴族の協力のもと、果てには王家までが乗り出しエミリアお姉様や王妃様、パトリシア様の婚約者のダヴィド様などなど……力を持つ人々が暗躍されたそうです。


 その間に誘拐された方々が助け出されたり、他にも誘拐され長らく行方不明だった方の行方がわかりそうだというお話を聞き、一刻も見つけ出されることを願います。


 エバン兄様はリーリアが誘拐された反動なのか……リーリアの家に入り浸っていつもリーリアに張り付いているそうで……リーリアからどうにかならないでしょうかという困惑のお手紙をいただきました。あの時もリーリアのかすり傷にすらかなりショックを受けていたみたいですから今もまだ心配なのでしょう。

 多分……ひと月ぐらいしたら満足すると思いますので頑張ってくださいとお返事しました。もしくは、隊に呼び戻されるまで、でしょうか……ただ、エバン兄様の気持ちもわからないわけではありません。わたくしだってもし逆の立場なら同じようなことをするかもしれません。


 


 先日、パトリシア様からお茶会の招待を受けました。

 普段なら怪力のせいで躊躇するところですが……皆さまはすでにご存知ですし、また会えると思うと気になりません……急ぎつつも丁寧に参加の旨を伝えたお手紙を書きました。念のため、茶器は持参することも書いておきます。パトリシア様ならくみ取ってくださると思います。

 そういえばあの時、牢で衰弱していたシェリーちゃんも今ではすっかり元気になったそうでお茶会に参加予定なんだとか……本当に良かったです。

  

 「皆さまお元気かしら……楽しみですわ」



 ◇ ◇ ◇



 本日はわざわざフィリップ様が王都の屋敷を訪ねて来てくださいました。

 応接室に案内してもらい、使用人にお茶を頼みます。


 本日はフィリップ様にいただいたブレスレットを身につけています……あの時、壊れてもよいとおっしゃってくださったので勇気を出してつけてみました。

 何故でしょう……フィリップ様が笑顔です。


 「イレーナ、調子はどうだ?」

 「わたくしは元気ですわ、フィリップ様はいかがです?」

 「ああ、元気だ……本当はもっと早く来たかったんだが、例の件の後処理を見届けていたら時間がかかってしまった。すまない」

 「そうだったのですね……わたくし、フィリップ様にたくさんお話しなければならないことがありますの」


 大丈夫ですわ……きっとフィリップ様は受け止めてくれるはずです。緊張し少し渇いた喉をお茶で潤します。


 「話とはなんだ?」

 「あの……わたくしのスキルのことについてですわ」

 「ん?イレーナのスキルは【怪力】と【鑑定】なのだろう?」


 なんでもない事のようにフィリップ様はスキルを口にされました。


 「ええ、そうです……ですが、それだけではありませんの。わたくしのスキルは【怪力】【鑑定】【健康】【幸運】【不屈】【ブースト】なんですの」


 少し目を見開いたフィリップ様……


 「スキルが6つもあるなど……聞いたことないな」


 やはり、6つは珍しいんですのね……


 「できれば内密にしたいことです。ですがフィリップ様には知ってていただこうと思いました」

 「……わかった。打ち明けてくれてありがとう」


 そんなに穏やかに微笑まれてしまうとわたくしの胸がドキドキしてしまいます……まだお話が残っていますのに。


 「あと……以前、フィリップ様が気にされていた『エタンセルマン』のデザイナーのことなんですが……」

 「あー、そんなこともあったような……」

 「ええ、あの時……いずれお話しますと申しましたが……それもわたくしなんですの」

 「……は?」


 あら、言い方が悪かったでしょうか……

 

 「ですからっ、わたくしが『エタンセルマン』のアクセサリーを作っているんですのっ」


 それでもフィリップ様は半信半疑のようなので……念のためそばに置いていたインゴットを手に取り目の前でこねてみせます。


 「多分、スキルの【怪力】と【ブースト】が関係していると思いますが、このようにしてアクセサリーを作っていますの」

 「……そうだったのか、俺はイレーナの作ったアクセサリーを魔道具にしていたんだな」

 「……はい。もし魔道具にする上で何か要望があれば直接どうぞ?」

 「いや、特にはないかな。では……お祖父様とお祖母様の使っていたあのカップもイレーナが作ったのだな?」

 「はい、そうです」


 フィリップ様は少し考え込んだ後……


 「イレーナの魔力は何色なんだ」

 「わたくしですか……確か青色だったかと」


 魔力検査を受けたあの時、わたくしはきちんと見ていなかったのですが……確かお父様が青色だったと言っていたような……


 「イレーナ……あれを作るとき何か力が抜けるような感覚はあったか?」


 力が抜ける……?


 「どうでしょう……試してみますわ。デボラ精霊石はあるかしら?」

 「はい、お嬢様こちらにご用意しております」


 あら、瓶なのね……気の利くデボラは瓶の蓋も開けており、準備万端です。

 ささっといくつかカップを作り、水で溶きドロッとした精霊石の粉をカップ全体に塗り込み乾かします。


 「しばらく乾燥させるのですけど……」

 「では、確認は後にしよう」

 「はい。わたくしのお話はこれで全てですわ……」

 「そうか、わかった」


 しばらくお茶を飲みつつカップが乾くのを待ちます……ドキドキしてなかなかフィリップ様のお顔が見れませんわ。


 「フィリップ様、そろそろ乾いたかと……」

 「では、早速だが試してみてくれないか?」

 「はい」


 いつものようにカップを手に取り念じます。もちろん、力加減はそっと……


 「できましたわ。あら……そう言われれば何かが抜けたような気がしますわ」

 「そうか……イレーナ、やはりこのカップは魔道具で間違いないようだぞ」

 「まあ……ですが通常は精霊文字を書かねばならないのでは?このような方法があるなんて……」

 「確かにそうだが……俺も試してみていいか?」

 「ええ、どうぞ」


 残りのカップをフィリップ様に渡します。


 「ちなみにイレーナは何を念じているんだ?」

 「ええっと、カップが壊れませんように。美味しくお茶が飲めますように……ですわ」

 「ふむ……」


 フィリップ様もカップを握り念じているようです。真剣なお顔も素敵です。

 しばらく念じ続けていましたが……


 「どうやら俺ではダメなようだな。まったく反応しない……もしかしたらイレーナが金属をこねて作るときにも魔力を消費しているのかもしれないな……」

 「そうなんですの?」

 「ああ、素材そのものにイレーナの魔力が込められているからこそ精霊様が反応しているんだと思う。通常なら反応しないようだから……」

 「まぁ……知らないうちにそんなことになっていたんですね……」

 「文献を調べてみないとわからないが、もしかしたら新発見かもしれない」

 「わたくしはただ、金属製のカップがなんだか味気なく感じたので精霊石の粉を塗っただけですのに……」

 「ただ、金属をこねてカップを作れる職人はまずいないから検証が難しいかもしれないな……」

 「そうですか……」

 「他の方法も模索してみるよ」

 「ええ……」


 その日は夕食までご一緒して、パトリシア様からお茶会に誘われ参加する旨をお返事したとお話しいたしましたら、フィリップ様が一緒に行くとおっしゃってくださいました。


 リーリアからのお手紙ではエバン兄様も付いてくる気満々だとあった上、パトリシア様にも知らせてあるそうなので問題ないと思います。

 お帰りの際もパトリシア様のお茶会にはついて行くからと日時をしっかり確認されて帰って行かれました……特上の笑顔を残して……


 「デボラ……どうしましょう。ドキドキして眠れそうにありませんわ」

 「お嬢様、ご安心ください……すでに準備してありますので」 

 「ですが、領地と違って小屋はありませんよ?」

 「ええ、ですのでお部屋にご用意を……」

 「まぁっ」


 気の利くデボラのおかげで、夜が更けるまで自室でアクセサリーを作り続け、少し寝不足になってしまいました……

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