モニターアルバイトに奪われた人生

エルムのツッコミ担当

第1話

私は福岡県北九州市にある大学に通う、行橋市在住のNである。本日は1月6日、年明け最初の講義日だ。午後3時半頃、最寄り駅から大通りを歩いて大学に到着すると、見知らぬ物腰の柔らかい中年男性が声を掛けてきた。

「新興ファイナンスの者です。アルバイト先の実態調査アンケートをやってまして、すぐに終わりますので協力頂けませんか」

僕はすかさずスマホの時計を見る。ゼミの時間にはまだ余裕があったので、引き受けることにした。すると、中年男性は続けて言った。

「外でやるのもあれなので、室内にいきませんか」

「あ、そうですね。じゃあ、すぐそこに食堂ありますから、そちらでやりますか」

「では、そちらでやりましょう」

ということで、私と中年男性は食堂のある建物内に移動した。


移動するや、男はノートを差し出してから言った。

「では、早速アンケートをしていきたいのですが、その前に新興ファイナンスに登録していただく必要がございますので、名前、住所、生年月日、あと運転免許証もお願いします」

私は「登録が必要とか最初に言わなかったよな」と思ったものの、特に怪しい素振りも見られなかったので、言われた通りに個人情報をノートに書き出し、運転免許証も見せた。

男は運転免許証の写真を撮り終えると、このように言った。

「続いて、顔認証する必要があるので、顔写真撮ってください」

私は写真に映るのが嫌いである。なので、やや後ろめつつも何とか撮り終えた。

「撮り終えましたよ」

「では、今から電話で登録作業いたしますので、スマホを貸してください」

男に言われるがままにスマホを差し出し、男は僕のスマホを使い、何度も電話をし直した。

男が電話を終えると、ようやく本題のアンケートに入った。最初、数分で終わると言われたが、既に開始から40分近くが経過しており、ゼミの時間に差し掛かっていた。しかし、ここまでしてアンケートしないわけにもいかず、私は最後までアンケートをした。

どういった内容の質問をされたかは覚えていない。しかし、30問程度口頭で質問され、その回答をひたすらノートに書き写したことは覚えている。


アンケートに全て回答し終えたとき、時刻はまもなく午後5時になろうとしていた。

「すみません、ここまで遅くなってしまって」

「ホントですよ。どうゼミの先生に言えばよいのやら」

「本当にすみません...あ、最後に口座番号教えて下さい」

「へっ?なぜ」

「こちらから2月20日頃に謝礼金が振り込まれますので」

あぁ、そういうこと、と勝手に解釈して口座番号を教えた。

「では、本日は本当にありがとうございました」

「こちらこそ」

別れたあと、私はダッシュでゼミ教室に向かい、何とか誤魔化すことには成功した。しかし、このモニターアルバイトが想定外の展開に向かうことを、この時は知らなかった...

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