せまくて、ほそくて、いきぐるしい

ちびまるフォイ

つつのなかにいる

いつからここにいたのか自分でもわからない。


自分がきっちり収まる幅ほどしかない狭い縦穴。

足元にはフタがある。

頭の上にもフタがある。

フタで挟まれている窮屈な場所。


いったいここはどこで、自分は誰なんだ。


「ぐっ……このっ……!」


頭の上にあるフタを持ち上げようとしたが動かない。

まるで何かに押さえつけられているようだ。


では足元のほうならどうか。


「せまっ……くそっ……!」


立つだけでやっとの狭い縦穴スペース。

体を折ることがことができないので、足元のフタを開けることが難しい。


垂直に膝を曲げることでなんとかかがむ。

足元のフタには取っ手がない。


薄暗い細穴の中で必死にカリカリと指でとっかかりを探す。


なんとか壁とフタの間に指を滑り込ませフタを開けた。


「うわっ!」


フタを開けたとたんに垂直落下。

数十センチ落ちたかと思ったら、すぐに不安定な足場に着地した。


「これは……肩か?」


「誰だ! 肩に乗っているのは!?」


足元のフタを開けて落ちた先には同じように縦穴に閉じ込められている人がいた。

まるで肩車しているような状態。


足を肩から下ろせば窮屈なスペースに落ちてぎゅうぎゅうになるだろう。

ただでさえ狭いのに。


「急に上のフタが開いたと思ったら、いったいあんたはなんなんだ!」


「こっちだって知りたいよ。俺は足元のフタを開けただけだ」


「なんでそんなことを!」

「もっと広い場所に出られると思ったんだよ」


お互い身動きが取れない。

ここで口論してさらにストレスを溜めると壊れてしまいそうだ。


「それより……ここはどこなんだ。俺は一体何者なんだ?」


「そんなこと知るか。こっちはあんたの顔を見ることすらできないんだ」


「なあ、お前の下にもフタがあるのか?」

「……あるよ」


「開けてみよう。もっと下に行けば外に出られるかもしれない」


「それなら上のフタを開けたほうがいいだろう」

「上は開かなかったんだよ!」


「……わかった。かがむから落ちてくるなよ」


下の人も垂直に膝を曲げてフタを開ける。

限られたスペースの中、壁へ沿うようにしてフタを開けた。


「っ!」


フタを開けるとまた穴が続いていた。

足元の人間と一緒に垂直に少し落ちるとまた止まった。


「止まったぞ! 下になにがある?」

「わからん! 誰かの肩みたいだ!」


「上にだれかいるのか!?」


垂直に3人が肩車して細長い筒のようなスペースに押し込められている。

いったいここはなんなんだ。


「急に上から落ちてきて、いったい誰なんだ!」


「こっちだって知りたいくらいだよ! それに……ぐっ?!」


話しているとき、自分の肩にドンと足が落ちてきたのがわかった。


「だ、誰か……下にいるのか……?」


上の階層から誰かが落ちてきた。

肩に人を乗せるのがこんなにも重いとは思わなかった。


最下層から声が反響してくる。


「重い! もう限界だ!! 助けてくれ!」


「そうはいっても、上には上がれないんだ!」


「壁に手をつけてよじ登るくらいできるだろ!!!

 こっちはお前らを支えられなくなって、今にもつぶれそうだ!」


「だから、上のフタを開けられないから上にいけないんだって!」


どん、とまた肩に衝撃が加わった。

また上層から誰か落ちてきたようだ。


2人ぶんにもなった重みで肩が壊れてしまいそうだ。


「ぐっ……このままじゃ……」


時間は不規則だが上から何も知らずに落ちてくることは同じ。

ここがどこかわからないが、進める方向へ進むしかない。


「おい! 一番下のやつ! 足元のフタを開けろ!!」


「フタ!? そんなの開けてどうするんだ!

 それに肩のおもみでかがんだら膝が壊れそうだ!」


「もたもたしているとまた上に人が増えて重くなる!

 今のうちにさっさと進むしかないだろ! 出口があるかもしれない!」


「わかったよ!」


壁に手を合わせて一時的に肩車状態を解除する。

最下層のものはフタを開けて落下する。


「どうだ!? 外に出れたか!?」


がくん、と階層が落ちたのがわかった。

また1段下がったのだろう。


「おい! 最下層のやつ! 返事をしろ! 出口はあったのか!?」


返事はない。


「下から2番目の奴! 足元どうなってる!?

 さっきからいくら呼びかけても返事がないんだ!」


「わからない。暗くてなにも見えないんだ。

 足元の感触もなくなっている」


「はあ!?」


「またフタみたいなのがあるんだ。今度は開けられない。

 今度は下層の向こう側から押さえつけられているみたいなん――」




「おい、どうしっ……うわ!?」


がくんとまた一段下がった。

足元には再びフタの感触がある。


「ここが最下層……? 前の二人はいったいどこに……?」


フタを開けようにも今度はとっかかりがない。

押しても引いても、蹴ってもびくともしない。


上からは下の状況を伺う声が聞こえる。


「おおーーい! 下はどうなっている?」


「わからない! 今度はピッタリ閉じているフタがあるんだ!

 俺の足元にいた前2人もいなくなっている!」


「いなくなるっていったいどこに?

 こんな狭い場所じゃどこへも隠れようがないだろう」


「こっちだって知りたいよ!」


そのとき、肩にズンと重みが加わる。

また誰か上層から落ちてきたのか。


「ぐぅっ……!」


重くてとても耐えられない。

徐々にヒザから崩れてゆく。


そのとき、足元のフタがじわじわと開いた。


足元からまばゆい外の光が広がっていく。


がくんとまた下層に落ちる。

ついに外に出ることができた。


今まで囚われていた場所を見上げることができた。


「ああ……ここは……!」



ロケット鉛筆の外に出た俺はそのまま紙にガリガリと身を削られた。

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