女優になった後輩
Joker
女優になった後輩
「先輩……私、受かりました!!」
「おぉぉ!! そうか!! やったな!」
「はい!!」
バイト先のハンバーガーショップで俺は二個年下の女の子と話をしていた。
彼女は以前から女優になるという夢を持っており、養成所のオーディションについに合格したらしい。
「すごいなぁー流石は芽瑠ちゃんだ」
「えへへ~」
照る彼女を見ていると俺までうれしくなってきた。
なんたって彼女は二年間も色々なオーディションを受けて、ようやく合格したのだ。
オーディションに落選するたびに彼女はすごく落ち込んでいた。
それを知っているからだろうか、他人の幸せなのに俺までうれしくなってくる。
「じゃあ、今日はお祝いに俺が好きなバーガーごちそうするよ」
「え!? 本当ですか!! やったー!」
「あ、でも体系維持の為にカロリーの高い物はやめとくか?」
「いえいえ大丈夫です、別腹なので!」
「そう言って体重が増えたって嘆いてたのは誰……」
「えい」
「ぎゃぁぁぁぁ!! 脇腹をつねるな!」
「えへへ~」
彼女、東岬芽瑠(とうさき める)ちゃんと出会ったのは彼女が16歳、俺が18歳の時だった。
容姿が良く、テキパキ動く彼女はバイト内でも評判だった。
そんな彼女と仲良くなった切っ掛けはなんだっただろうか?
まぁ、ただ話していたらなんか仲良くなっていたのだろうが……。
*
彼女が養成所に行き、数カ月が過ぎた頃だった。
彼女が脇役で出演したドラマが大ヒットした。
その影響か、彼女の演技力も話題となり、彼女は一躍人気者になった。
容姿もさることながら、そのトーク力で彼女は業界で地位を手に入れた。
もちろん、彼女は女優の仕事が忙しくなりバイトをやめてしまった。
「芽瑠ちゃん……元気かな?」
俺は今年で21歳、来年からは就活生になる。
今でも彼女とはたまに連絡を取っているが、バイトをやめてから数カ月、会うことは無くなっていた。
そんな時だった、彼女から一緒に食事でもどうかとメッセージが遅られてきた。
「飯か……なんでこのタイミングで?」
俺は不思議だった。
今や女優の東岬芽瑠は有名人。
今が忙しい時だというのに、なんで俺に連絡を?
俺は色々聞きたい話もあったので、彼女と食事に行くことにした。
「よっ! 久しぶり」
「あ、先輩! おひさで~す!」
待ち合わせの場所は駅前の個室があるファミレス。
やっぱり有名人だ、人目をすごく気にしている様子だった。
「ん? あれ? 俺だけか?」
「はい! 先輩と私の二人っきりですよぉ~」
「なんだよその意味深な言い方……俺はてっきり他のバイトの奴らも読んでるのかと思ったんだが……
「まぁ、細かいことは良いじゃないですか! さ、何食べます? 私奢りますよ!」
「おいおい、あんまり年上舐めるなよ、俺が奢ってやる」
ま、正直結構キツイが……偶に会ったんだし良いだろ。
「そんな見栄を張んなくて大丈夫ですよ~、私稼いでますから」
「知ってるよ、でも後輩には出させらんねーよ、しかも女の子に」
結局代金は割り勘になった。
最後の最後で俺が負けてしまった。
押しの強さは変わってないな……。
「なぁ、どうだ? 芸能界は?」
「え? あぁ……まぁ色々ですよ」
「そうか、なんか芽瑠ちゃんが遠い存在になった感じがしてさ……」
俺が笑いながらそう言うと、彼女は俺の顔を見てなんだかがっかりしたような表情をしていた。
「と、遠くなんかないですよ……」
「いやいや、俺みたいな一般人が大女優様を独り占めしてて良いのかねぇ~」
「私は先輩の前ではただの女の子のつもりです……」
「ん? お、おう……」
なんだか彼女をお怒らせてしまったらしい。
気まずい空気になり、俺たちは食事を済ませて店を出た。
「美味かったな、もう遅いし家まで送るよ」
「じゃあ、お願いします」
俺は彼女を自宅に送り届けるために、二人で歩き始めた。
「……」
「……」
気まずい……先ほど彼女を怒らせてしまったからか、俺たち二人の空気は悪かった。
てか、なんで怒ったんだ?
俺がそんな事を考えていると、半歩後ろを歩いていた彼女の腕が俺の服をつまんだ。
「ん? どうした?」
「……先輩は……私と会えて嬉しかったですか?」
「え? 何を言ってんだよ、嬉しかったよ。色々話せたし」
「そうですか……先輩覚えてますか?」
「え? 何を?」
「一年前、私とした約束?」
「約束?」
約束なんてしただろうか?
別にしてない気がするが……。
俺がそんな事を考えていると、彼女は俺の顔を見上げて顔を真っ赤にしながら話始めた。
「私が女優になって有名になったら……キスしてくれるって約束です……」
「え? ……えぇぇぇぇぇぇぇ!? いやいや、俺そんな約束してないよ!!」
「し、しました!! 私と厨房で!!」
「ちゅ、厨房? ちゅうだけに?」
「ふん!!」
「アイタッ!!」
軽く冗談を言っただけなのに脇腹を殴られてしまった……。
しかし、厨房と言うワードで少し思い出したぞ。
確か冗談で言った気がする。
女優になって有名になったら俺がキスしてやるよ。
なんてことを言って、確か怒られた気が……。
「あの約束……今果たしてください!!」
「いやいや! ちょっと待ってくれ!」
「まちません!!」
彼女はそう言いながら、俺の方に一歩、また一歩と迫って来る。
幸いここは人通りの少ない住宅街、人には見られていないと思うが……。
「キスしてください!!」
「だ、だから……あれは冗談で……」
「でも約束は約束です!」
なんでこんな事になってるんだ……。
てか、この子はなんでそんな約束を覚えてたんだ?
「あ、あのな? キスって言うのは好きな人とするもんだぞ? それに君は今有名人だ、どこで誰に見られているか分からないんだから、からかうにしてもこんな人目のありそうなところでそんな事を言うのは……」
「じゃあ……先輩の部屋に連れてってくださいよ」
「そ、そういう事じゃなくて……はぁ……どうしたの? 何か嫌な事でもあった?」
「……あると言えばあるし……無いと言えば無いです」
「なんだよそれ。はぁ……さて、もうお遊びはおしまい、早く帰らないとだろ?」
俺がそう言って歩き出そうとすると、彼女は俺の手を強く握ってきた。
「……嫌です」
「え?」
「帰りたくないです」
「おいおい、本当にどうした? やっぱり何かあったのか?」
「……先輩……私……先輩が好きです」
「……え?」
「先輩が大好きです」
「いや、あの……」
「愛してます!!」
「ま、待て待て! な、なんだよ急に!」
「好きです! 抱いてください!!」
「飛躍しすぎだろ!! 良いから落ち着け!!」
ヒートアップした彼女は止まる事を知らず、俺の手だけを握っていた彼女の両手はいつしか、俺の両腕を抱いて離さなかった。
「……部屋行きたいです」
「だから俺の話を聞いてくれ! なんでそうなる!?」
「……寂しかったです……」
「え?」
「先輩がずっと応援してくれたから……私は頑張ってこれたんです……でも、バイトをやめて先輩と会えなくなって……夢が叶ったはずなのに、なんかぽっかり穴が開いた気がして……それで気が付いたんです……私にとって先輩がどれだけ大きな存在だったのか……」
「そ、そうか……」
「だから………私と……」
彼女はそう言って俺の顔に自分の顔を近づけてきた。
大きな瞳を閉じ、彼女は俺に何かを求めていた。
その何かを俺は知っている、しかし彼女にそれをすることが俺は出来なかった。
「えい」
「イデッ! いったーい!! 何するんですか!」
「年上をからかうな、帰るぞ」
「からかってません!!」
俺は彼女と自分に嘘をつき再び歩き始めた。
しかし、やっぱり彼女はそんな俺を許しはしなかった。
「先輩……」
「……離してくれないか……」
「やです……」
彼女はそう言いながら、俺の背中に抱きつく。
彼女の気持ちが嘘でない事に俺はもう気が付いていた。
しかし、彼女の夢を応援するのであれば、今のこの売れている時期に男の影なんてあったら、それは彼女の邪魔になってしまうのではないだろうか?
俺はそんな事を考えてしまっていた。
「……ありがとう……でも君の気持には答えられないよ」
「それって……私が女優だからですか?」
「………」
「そうなんですね……じゃあ私、女優止めます」
「え!? いやいや、やっと夢が叶ったんじゃないの!」
「今は新しい夢があります」
「だったら、その夢の為に……」
「だからやめます、私の新しい夢……先輩のお嫁さんなので」
「……」
そう言う彼女の笑った顔に、俺は思わずドキッとしてしまった。
女優になった後輩 Joker @gnt0014
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