11.イチゴ

「ダンゴムシってイチゴ食うのかよ?!」

《そうなんだよー!!》

その日、ファスタラヴィアのコージはダチの通信をキャッチした。

隣国へ留学中のアイツだ。

《沙漠にダンゴムシが居るって事自体が驚きだけど、大きさが掌大なんだよ!》

「うえぇい?! ソレ明らかに“ヘンナノー”じゃね?」

《白いしデカイしマジでありえないーっ!!》

彼は帝国と王国の――百年単位で仲の悪い二国同士だ――その影響を最も受ける立場にある帝国民の1人だ。

色々遭ったのだろう。

コージはこの時偶々暇だったので、小一時間ダチの愚痴を聞いてやった。

《あと胸クソ悪い天使に合ったよ、羽根が沢山あって…》

「ソレもやっぱり“ヘンナノー”じゃね…?」

《うわこんな時間!? ごめんねこんな遅くまで。》

「いいぜ? 暇だったしよ。」

《ありがとう。それじゃ、お休み。》

「おやすみアサヒー。」

アサヒは愚痴を聞いて貰った礼を述べて、通信を切った。


ただいま夜中の、2時半。


虫も眠る丑三つ時には不審事案が起きるという。

さっさと寝たい所だが一向に眠くなかったので、コージは後ろで(多分)興味深そうに此方を見ている輩に声をかけた。

「“胸クソ悪い天使”ってぜってーお前だろ。」

《胸糞悪い? 少しは良い褒め言葉使える様になったね。》

「オレのダチだ、いじめんな。」

《い・や。》

「おーいぃー!」

繊細な炎の形をした赤い髪に、透明感の無いアクアマリンの瞳。デーヒーが居たら煮込み料理にしたくなるだろうイケメンに、白い布を巻いただけに近い服と膝下まであるグラディエーターサンダルでチラ見せしてくる完璧な肉体美(と誰かが言っていた)がウザい。身長も2m近くあってやはりウザい。

からの、米神・腕と背中の境目・腰・踵に4対8枚の、リアル天使の羽根! 広げたら全長50cm強の羽根は、広いはずの通信部機構課の会議室が狭く感じるレベルだ。仕舞えるらしいが、やはり仕舞ってくれそうにない。

「あぁあ見てるだけでさみぃわ!! 服着ろ、服!」

《これキトンっていう歴とした服なんだけど・・・》

つまり、この極寒たる帝国メガロポリスには似合わない男だ。せめて大判ストールを羽織って欲しい。

「クシャドと違って万人に聞こえるし、普通に音声の様なクオリティだぜ。」

《クシャドが骨董品Vintageなんだよ。古いから良いものだと思われてるのに満足して、進化の手を留めている事に気付いてない。》

その上でこの性格だ。御覧の通り聴いてて“胸糞悪く”なるのは最早デフォルトだ。いや、こう見えてまだマシらしい。

尚、まだ比較的大人しいのは、

《此処には、愛する人が居るから。》

らしい。

「クセェ!!」

《人の事言えるの、キミ?》

好きなものは、暴露すると非常に嫌がるが、意外にもイチゴだ。

実はもう一つあるらしいが、それはまた後日にしよう。

《そうだ、暇ついでに訊いてあげる。》

「あ? なんだよ。」

《あの装置の苺だけ、味が違うのはどうして?》

イチゴはみんな大好き、三角錐の様な赤い実を付ける植物だ。

白い花もギザギザな葉も可愛いと評判で、何かと絵になる生き物だ。

生物学的な話をすると、表面のツブツブが種=子房であり、甘くて美味しいあの部分は偽果という。また、親株が子株を生み出す“走出枝ランナー”という無性生殖方式をとる事も可能だ。野菜か果物かは賛否両論分かれるが、本物語では果物とする。

「装置のデザインは先生、素材はネゴたま、配線回路はクリス先輩、液体肥料はムシキたんが作って、苗はミモザ姉さんが自分で好きな品種を取り寄せたから。つーかソレ、ミモザ姉さん専用イチゴだから盗んなよマジで。」

《これオランダイチゴだよね? 最近流行のアイツじゃないよね?》

「…じゃねーの? 甘いし大きいし。」

但し、イチゴもバラ科。

花弁を大地にばらまき、病害虫に好かれる運命にある。

勿論、理由が無い訳では無い。花弁は植物に役立つ菌を寄せ付け、多くの生き物達の食料となるのだ。

バラ科とは非常に気前の良い植物ではないだろうか。バラ科を能く育てる者は、大地を制する…かもしれない。

以上より、大変勉強になる植物の一種である。

《そうなんだ。》

ベスビアナイトは、この極悪天使にしては非常に珍しい事だが、実に感慨深そうにイチゴを眺めた。

《愛の果てに産まれた果実達、不味い訳がないよ…》

「だから食うなし!!」

イチゴ達は今日も氣前よく、艶やかな赤い実を付けている。

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我々が普段食べてるイチゴとワイルドストロベリーとヘビイチゴは違う植物。花の色も実の形も味も違うから、是非食べ比べてみてね!

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参考ホームページ

※王様物語(任天堂)に出てくるモンスターは“ヘンナノ”

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CAST

・リノクのアサヒ

・ファスタラヴィアのコージ

・ベスビアナイト

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