俗にゾンビと呼ばれる者たちの増殖

 数年前から、先進国を中心に急速に増殖している生き物がいる。いや、正確には生き物ではない。なぜなら、彼等は生きていないからだ。


 アンデッドーーー一般的にはゾンビと呼ばれているソレの事だ。


 映画その他のメディアでは、それらは感染者によって伝搬されるが、彼等は違っていた。どの国においても、死を迎えると同時にゾンビと化すのだ。


 なにより厄介なのは、彼等はゲームの世界のようにはいかない事だ。拳銃で撃たれても彼等はその歩みを止めることはない。そして都合の悪い事に、生きた人を襲うという部分だけは同じだった。そして、骨になるまで人間を食べつくす。


 彼等を止める方法は、その肉体を消し去る以外にはない。例えば爆弾で木っ端みじんにするとか、火炎放射器で焼き尽くすなどだ。しかし、いずれの方法も人が往来する街中での対処法としては適切ではない。


 では、ゾンビ化する前に処分すればいいかというと、そうもいかない。何しろ死と同時にゾンビ化するのだ。それを阻止するには生きているうちに処分するしかないが、もちろん生きている人間にそんなことが出来る訳がない。

 街中で急に倒れたり、事故に巻き込まれて息を引き取った場合も同様のため、彼等の出現を予知することさえ出来ない状況だ。


 しかし、彼等が出現してから数か月がたった頃、あるニュースが世界中に飛び交った。


 彼等は「一般人」は襲わないというのだ。何故か、彼等は富裕層の人間や科学者、政治家など、特定の人間だけを襲う。事実、目の前で急に死んだ者がゾンビ化しても、彼等は目の前の逃げ惑う人々を追いかけるという事は過去になかった。


 ゾンビがそういった特定の人物をどのようにかぎ分けるのかが不明のまま、それでも多くの人々は安堵した。今では心の中で彼等を応援するものまで居る位だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る