愛と罪
眩しい。ここはどこだ?白い清潔感のある天井が見下ろしている。
だが、初めての光景ではない。
「愛斗!」
「お兄ちゃん!」
母と義妹の声だ。
愛斗が天井を向いたまま目だけを右に動かすと、母、美咲、白衣を着た医師、そして茜がいる。
「ちょっといいかな」
そう言って、病室にいた医師は、愛斗の身体を診始めた。
愛斗には記憶があった。この医師の。
「須崎先生…」
自分の検査をしている医師の名を、愛斗は知っている。
「覚えててくれたか。それはよかった」
「当然です。先生のことを忘れるような恩知らずではないですから」
「じゃあ彼女のことは確実に覚えているね」
須崎が言う彼女と言うのが、愛斗には最初、誰のことか分からなかった。
須崎の陰にいて気づかなかったのだ。
「七奈さん…」
よく分からないが、安心のようなものを七奈から感じ、愛斗は目を潤ませた。
「もう来ちゃダメって言ったのになぁ…。貧血で倒れるなんて。ねぇ先生?」
「そうだな。最近疲れてたんじゃないか?」
貧血…。疲れていた…。それは―
「私のせいです」
その時、今まで黙っていた茜が口を開いた。その声は掠れ、怯えているようにも聞こえる。
「どういうことかな?」
須崎が茜に訊く。
「私、愛斗くんをわざわざ呼んで、昨日色々と言ってしまって…」
茜は言葉を詰まらせた。それを見た七奈が、茜の背中を擦る。
病室から会話が消えた。茜の泣き声と背中を擦る音。それだけがこの空間の空気を揺らしている。
けれど、この空間の主導権は医師である須崎にあった。
次の須崎の一言には、その場の誰もが凍り付いた。
「続きを話してもらえるかな」
愛斗の見立てには必要なのだろう。だが、茜に対してのその一言は、圧倒的な威圧感を醸し出した。
「は…はい…」
『怯えている』では表しきれない返事だった。こんな風に茜がなってしまうなど、愛斗は思ったこともなかった
そんな言い方はない。茜が可哀そうだ。
須崎に対して、愛斗は怒りすら覚えた。けれど、茜も芯のある女性ゆえ、力と声を出し、答える。
「多分、昨日相当それで悩んだんだと思います。今朝も私が一方的に泣きながら謝罪して、困らせてしまって…」
茜は、完全に自分の責任にしようとしている。愛斗は何一つ悪くないと言って。
愛斗は、それは違うと思った。
確かに昨日、なぜあんなことになったのか、原因が明確には分からない。だが、自分の答えが茜にとって不満だったなら、「女心」を分かれなかった自分にも落ち度はある。
と、愛斗はそう思っている。
「そうか。合ってるかい?」
須崎は愛斗に、真相を確かめる。
愛斗は言った。
「間違ってます」
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