嫌悪感

茜が照れているのか何なのか、何となく分かる気がしたが、愛斗はむやみに詮索をするのをやめた。

茜は、意外と愛斗の考えていることを見透かす。

時々、自分より自分のことを知っているのではないかと怖くなるまである。

茜のことを知りたいとは言ったが、どちらかと言えば自分のことが知りたい。


「お聞きしたいことが...」

愛斗は覚悟を決めて言った。


「なに?」


「僕はどうして茜さんのことを好きになったんでしょうか」


「なんでそんなこと聞くの?」

愛斗には、茜の今の声に怒りが混じっているように聞こえた。


「すみません」


「別に謝る必要はないわ。なんか思うことがあったの?」


「あぁ。いや、茜さんなら僕のこと、色々知ってると思って。そしたら何か思い出すかもしれないじゃないですか」


「確かにそうね」

茜は腕を組み、納得したような素振りを見せた。


「じゃあ...」


「いや、今じゃないと思うの」


「何でですか?」

愛斗は驚いた。素直に話してくれるとばかり思っていたから。


「なんかね。そう感じるのよ」


愛斗には理解できなかった。

じゃあいつになったらいいのか。

その時になるのか。

よく分からなかった。

茜の思考が読めない。

自分は正直な気持ちを伝えたのに、彼女はそうじゃない。

それがショックでもあった。


愛斗から自然とため息が出た。

茜にも聞こえていただろう。

しかし茜は何も言わなかった。


愛斗は気の抜けたような声で言った。

「で、僕を今日呼んだ本当の理由は何ですか?」

忘れかけていたが、なぜ半ば強制でここに呼んだのか聞いていないような気がしたのだ。

好きじゃないか、という質問をするだけだとは到底思えない。


「未原芽衣さん」


「えっ?」


「あの子のことどう思ってるの?」


愛斗は、唐突に茜の口から芽衣の名前が出てきて困惑した。


芽衣は大切な幼なじみだ。例え、幼い時に共に過ごした日々の思い出がなくても。


「もちろん、大切な幼なじみです」


「他には?」


「他?」

茜の威圧的な口調に対して、反射的に態度の悪そうな返事をしてしまった。


「彼女はあなたにとっての何?ただの大切な幼なじみ?本当にそれだけなの?」


愛斗は、とうとう、この目の前の女性が言っていることを理解するのをやめようと思い始めた。

意味が分からなすぎる。言っていることが分からないのか?

愛斗は茜から目を逸らし、黙り込んだ。


「じゃあ、彼女がもし突然いなくなったら?」


「それは嫌です」

愛斗は即答した。ほぼ反射だった。

それから少し考えて付け足した。

「でも、それはかけがえのない友達だからであって...」


「分かったわ。もう...」

茜は呆れたようにそう言った後、少し間を置いてから再び話し始めた。

「あの子に愛斗が取られるんじゃないかって怖いの...」

今にも泣き出しそうな声、今までに見たことのない茜の深刻そうな顔だった。


「それは...」


「過去の自分が、って言うんでしょ?でも、今の愛斗は今の愛斗なの!」


なぜか、その言葉が毒矢のように愛斗の胸に刺さった。

毒が体中に広がっていくように、怒りにも似た嫌悪感が広がっていく。

しかしその時の愛斗は、毒の真相を掴むことはできなかった。

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