クラス

「愛斗!こっち!」


「分かったよ、これ買ったらね」


その女の子は愛斗の浴衣の袖を引っ張って早く行こうと急かしている。だが、愛斗はたこ焼きを買いたいのだ。


「早くしないと行っちゃうよ!」


「待って...!」



...朝か。何か夢を見た気がする。まあいいや、準備して学校に行こう。

昨日と同じように支度をして、同じ時間に芽衣が来る。そして同じ時間のバスに乗って、バスに揺られること50分。扇ヶ浜高校に到着。ここまでは普通の高校生となんら変わらない日常のように見える。だが、愛斗にとっては違った。職員室に行き結香を探し、登校したことを報告する。


「ご苦労さま、今日も後から行く?」

昨日と同じように、ホームルームの時に教室に入っていくか、それとも普通に今から教室に行くか。愛斗はその2択の答えをすでに持っていた。


「今から行こうと思います」


「分かった。じゃあ一緒に行こうか」


愛斗は結香と共に、2階へ続く階段を上る。芽衣には先に教室に行っててもらっていた。芽衣にも学校生活があるし、愛斗のためにそのペースを崩させる訳にもいかないからだ。

愛斗は階段を上りながら気になっていたことを結香に訊いた。


「僕と仲良い人って誰かいましたか?同じクラスに」

これからクラスに馴染む上で必要な存在、友達。芽衣は隣のクラスなのでこればっかりは芽衣に頼ることはできない。


「そうねぇ、男子なら日高ひだかくん、女子なら千代間ちよまさん辺りかしら。むしろその2人としか絡んでないってくらいだいぶ仲良かったわ」


「日高くん...千代間さん...」

その2人の名をしっかりと覚える。


教室にはあっという間に着いた。心の準備をする間もなく、結香は愛斗を教室に入れた。だが、心の準備など必要なかった。教室にはただ1人、黒髪を長めのポニーテールにまとめ上げた女の子が座っているだけだったからだ。


「あ、時田くん。彼女が千代間さん。千代間 夏海なつみ

彼女が千代間さんか。思っていたよりだいぶ真面目そうだ。学級委員でもやってそうな雰囲気。

愛斗は、真ん中の列の一番後ろにある夏海の机に近づいた。


「あの、えっと、時田くん...」

夏海は、なんと言っていいか分からない様子だった。

そんな夏海を見て愛斗は

「無理して気を使わなくていいよ、千代間さん」と言った。


「じゃあ...。ご紹介に預かりました千代間夏海です。3組の学級委員をしています」

やっぱり!こんなにも見た目通りの学級委員っているんだな。しかもだいぶお堅い言葉遣いだ。


「ありがとう。僕は知っての通り記憶がなくなっちゃったんだ。だけどこれからもよろしくお願いしたいな」


「もちろんです、時田くん」


「先生から聞いたんだけど僕たち仲良かったって本当?」

その久城先生は、教卓の椅子に座って脚外を見ている。


「そうだと思います。時田くんは友達があまりいない私によく話しかけてくれました。本当に嬉しかったです」

僕、かなり良い奴じゃん。


「そうだったんだ。ちなみに日高くんとも?」


「はい、彼とも仲がいいですね。彼は、あっ...」

話すのを中断した夏海の視線の先には、体育着を着た1人の男子生徒がいた。


「お、おぉ、愛斗じゃん!うっす」

見るからにチャラそうな体育会系の男子は右手を低く上げ、軽く愛斗に挨拶をしてきた。


「こ、こんにちは」


「時田くん、彼が日高 がく

あのチャラそうな奴と学級委員と僕?かなり変な組み合わせだな。本当に仲良かったのか?


「そう、俺が日高だ。愛斗!」

いつの間にか接近されていて、頭をわしゃわしゃされた。

いや、本当になんなんだこいつ。


「よろしくね、日高くん」


「岳って呼んでくれ」


「分かった...岳...」

初対面の人を下の名前で呼ぶのは少し恥ずかしい。それが男だとしても。


「いいね!やっぱ愛斗は愛斗だな!」


まだこいつのテンションにはついていけないけど、なんだかんだすぐに打ち解けれそうだ。


しばらく3人で話していたが、岳は部活が残っていると言って行ってしまった。教室にも人が集まってきて、会話の大きさが頂点に達した時、ホームルームの開始を告げるチャイムが鳴った。まだ、チャイムの余韻が残っている時に、教室に駆け込んできた男がいた。岳だ。さっきとは違って制服を着ている。


「セーフ!」


「アウトだ。さっさと座れ、日高!」

その、岳と結香の会話を聞いて、クラスが笑いに包まれる。

楽しい。学校ってやっぱり楽しい。昨日帰ってしまったのがもったいないとすら感じる。


「じゃあ、ホームルーム始めまーす。みんな気づいての通り今日は時田愛斗くんが来てるね。これで3組は40人全員揃いました。今日からこの40人で1年間頑張っていきましょう!」

うぉおおおと叫ぶ男子、それを聞いて笑う女子や静かに拍手をする女子、色々な人がいる。愛斗はその光景を見て、クラスというものを肌で感じ、身体に電撃が走ったような興奮を覚えた。

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