9話 元魔王、髑髏のローザをパワーレベリング


イテオロの魔王城離宮宿屋

ニムエを四天王に任じた翌朝、元魔王ラバスは、皆に、一階の食堂へ集合するよう命じた。

ローザとパリカーは、すぐやってきたものの、ニムエがなかなか降りてこない。


「凄剣のニムエは、いかがいたした?」

「もしかして、まだお休みなのかも。私、見てきますね」


ローザは、二階のニムエの客室へと向かった。


―――コンコン


「ニムエさん、ローザです。まおうさまが、お待ちですよ?」

「う~ん……あとごふん……」

「起きて下さい、開けますよ?」


ローザが、部屋に入ると、ニムエは、まだ夢の中であった。


「……もう食べれにゃい、ふふふ……」

「まおうさまが、お呼びですよ?」


ローザに揺すられ、ニムエが、ようやく目を開いた。


「……」

「目、覚めました?」

「……朝?」

「はい」

「起きないと……」


ニムエは、ふらつきながら、ベッドから起き上がろうとした。

しかし、足元が覚束ない彼女は、そのまま床の上に転倒してしまった。


「ニムエさん!?」


ローザは、慌ててニムエを助け起こそうとした。

しかし、転倒によるダメージは、ニムエのHPを1削った……



*ニムエは死亡しました*



「えっ?」


ローザが、呆然とする中、階下の元魔王ラバスは、異変にいち早く気付いていた。

元魔王ラバスは、嘆息しつつもスキルを発動した。



【リセット】



なんと、ニムエは生きていた。


「あれ? 今、私??」

「ニムエさん!」

「もしかして、私、死んでなかった?」

「死んでましたよ! 気を付けて下さい」

「気を付けてって……ええ~~~!?」


ニムエの目が、飛び出さんばかりに見開かれた。

この世界、死体に仮初の命を吹き込む、死霊術は存在する。

しかし、死者の完全復活が可能な、蘇生術の様な魔法は存在しない。


「えっと……もしかして、私、聖剣なのに、アンデッド化しちゃった?」

「してない......と思いますけど」

「じゃあ、死んだのに、なんで生きてるの?」

「多分、まおうさまのおかげかと。まおうさま、何か特殊なスキル、お持ちみたいなんですよ。ニムエさん、覚えてないかもですが、昨日も一回死んで、生き返ってますよ」

「そうなの!?」


ニムエは、驚くと共に、喜んだ。


今回の勇者が持つ特殊スキルとやら、今の私にはぴったり。


「これで安心して死ねるわ」

「何が、安心して死ねる、じゃ。愚か者が!」


ローザとニムエは、同時に声の方に顔を向けた。

そこには、二人の様子を確認しに来た元魔王ラバスが、立っていた。


「凄剣のニムエよ、転倒ごときで死ぬとは、何事じゃ!」

「そんな事言っても、誰かさんのせいで、私、HP1だし」


やや不貞腐れるニムエに、元魔王ラバスが、冷ややかに告げた。


「……さっさと下りて参れ。作戦会議を開くぞ」



元魔王ラバスとローザは、一足先に、階下に下りて行った。

一人残ったニムエは、着替えを済ませると、自分も急いで階下に向かった。


「あっ!」


足元への注意が疎かになっていたニムエは、階段で足を滑らせた。

そのまま、ごろごろと階段を転がり落ちて行く。

当然の如く……



*ニムエは死亡しました*



元魔王ラバスは、こめかみをぴくぴくさせながら、スキルを発動した。



【リセット】



なんと、ニムエはi(ry



……いくらなんでも、死に過ぎやろ、あいつ。

もしかしたら、くしゃみした衝撃でも死ねるんちゃうか?

攻撃力あっても、濡れティッシュ装甲やったら、戦闘も任せられへんやん。

使いづらいやっちゃな……

追い出すか……

……

いかんいかん、わしは、魔王。

世界を統べる男や。

一時の感情に流されて、物事決したらあかん。

それに、使えんからって、簡単に追放したら、後で謎のパワーアップして、ざまぁされてまうかもしれんしな。

せやかて、毎回【リセット】使うのも、面倒くさい。

しゃあないな……


元魔王ラバスは、ニムエの方に向き直った。


「ゴホン、凄剣のニムエよ」

はひ?」


階段からの転落死が、無かった事になったニムエは、早速、朝ご飯をがっついていた。


「そなたに、我の加護を授けよう」


元魔王ラバスは右手を高々と掲げた。

ニムエの周囲を光の渦が取り巻いた。


ほへはこれは?」

「これで、そなたは、我の周囲5m以内に留まる限り、本来なら即死するダメージを受けても、HP1残る」

はひはほうありがとう


……どうでもエエけど、わし、魔王やで?

飯を頬張りながらお礼って、どうなんや……


元魔王が一人ぼやく中、パリカーが、しなだれかかってきた。


「まおうさま~。ニムエにだけえこひいきって、ずるいですぅ」

「ええい、離れんか」

「まおうさま……」

「なんじゃ、髑髏のローザよ……って、また目が怖くなっておるぞ?」

…………

……


こうして、元魔王ラバスと愉快な仲間達は、いつもの賑やかな朝の一時を楽しんだのであった……


「いや、少なくともわし、楽しんでへんし。っちゅうか、なんやねん、毎度毎度のこのベタなナレーション!」


そんな元魔王ラバスに、落ち着きを取り戻したローザが問いかけた。


「まおうさま、何かおっしゃいました?」

「ゴホン、気にするでない」

「ところで、朝から食堂に集合するようにっておっしゃってましたけど、どうされたんですか?」


せや、こいつらに話があるんやった。


「皆の者、我等の当面の目標は、エセ魔王エンリルの討滅である!」

「「「はい!」」」

「古来より、敵を知り、己を知れば、百戦して危うからず、という。ここらで、我等の戦力を冷静に分析しておこうと思う」


元魔王ラバスは、ここまで話すと、ローザに向き直った。


パリカーとニムエの能力は、【看破】スキルで確認済み。

問題は、こいつや……

前に、アンデッド操るの得意1話参照っちゅう事は、聞いたけど、基本的な能力が不明や。

わし、人間の能力見抜けるスキル持ってへんしな。

ここは、正直に、本人に聞いてみるか。


「時に髑髏のローザよ」

「はい!」

「そなたのレベルとHP、MPを申してみよ」

「はい。レベル1 HP15、MP28です!」

「……」


お、お~い!?

なんや、この新規作成直後のキャラみたいなステータスは?

まさか、ニムエみたいに、固定って事無いやろな?


「最大レベルは、どれ位じゃ?」

「MAXですか? 一応、99,999,999みたいです」


意味不明に上限は、高いな……

ちゅう事は、鍛えりゃ、結構使えるようになるんちゃうか?


「髑髏のローザよ」

「はい!」

「そなたは、我が魔王軍四天王序列第一位。それに見合った実力が求められる」

「そ、そうですね……」

「今日から、そなたの特訓を開始する!」

「は、はい。えっ?」



そして……



―――ギョェェェ!


全身傷だらけの芋虫のような魔物が、怒りの咆哮をあげ、ローザに襲い掛かった。

しかし、その牙が、ローザを噛み砕く寸前、魔物は硬直した。


「髑髏のローザよ、今じゃ!」

「は、はい! まおうさま!」


てぃ!


ローザの攻撃

ローザは、杖で殴り掛かった!

サンドワームに、1ポイントのダメージを与えた!

サンドワームを倒した!

経験値、10,265ポイント獲得!

ローザは、レベルが上がった!

…………

……



ここは、アルザスの街の遥か南方、アタハリ砂漠。

朝食後、元魔王ラバスは、早速、ローザ、パリカー、ニムエを連れて、この地に転移してきていた。

サンドワームは、特殊攻撃を持たない中級レベルの魔物。

つまり、そこそこの経験値が期待できる割りに、危険度は低い。

元魔王ラバス達で、HP残り1まで削って硬直させ、ローザがとどめを刺す。

これを繰り返して、ローザの効率的レベルアップを行おうという計画であった。


午前中3時間ほどかけて、20体倒したところで、お昼休憩を取る事にした。


元魔王ラバスが、お弁当を広げるローザに問いかけた。


「髑髏のローザよ、そなたのステータス、いかほどまで上昇した?」

「はい、まおうさまはじめ、皆さんのおかげで、レベル20、HP185、MP420になりました」


ローザが、嬉しそうに答えた。


さすがは勇者様だわ。

駈け出し冒険者の私が、たった半日でレベル20到達とか、夢みたい。

これなら、私も大魔王討伐戦で活躍出来ちゃう日も遠くないかも。


ローザが、根拠の無い自信を深めつつある中、元魔王ラバスは、失望の色を隠せなかった。


あかん。

このやりかたやったら、悪魔大神官ローザのレベルカンストさせんのに、何年かかるか分からへん。

もっと強くて経験値高い魔物狩らんとあかんな……


元魔王ラバスは、パリカーに話しかけた。


「紅蓮のパリカーよ、どこぞ、もっと凶悪で、経験値稼げる魔物のおる場所、知らぬか?」

「魔界に行けば、もっと凶悪なの多いですけどぉ。多分、今のローザちゃんだと、例えぶん殴ってもHP1すら削れないと思いますわ」

「その辺は、わしの力で、なんとでもしてみせようぞ。とにかく、最凶、最強、最悪な魔物の群れる所へ案内せよ」

「最凶、最強、最悪な魔物が群れている所、ですか? 大魔王城地下の最凶監獄とかだと、条件に合いそうですけどぉ、厳重な結界張られてるんで、容易には侵入……」

「よし、そこへ行こう。案内せよ」

「えっ? でも、厳重な結界が……」

「案ずるな、我は魔王ラバス。エセ魔王の結界如き、デコピン一つで破壊して見せようぞ」


お昼休憩後、元魔王ラバスは、大魔王城地下の最凶監獄にて、ローザのパワーレベリング実施を行う事を宣言した。


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