1話 四天王髑髏のローザ

元魔王ラバスは、改めて自分の配下第一号をしげしげと眺めてみた。

元魔王ラバスは、元魔王なので、どんな魔物の強さや能力も瞬時に見抜く【看破】のスキルを持っている。

【看破】スキル発動!


若い女

人間

背中にかかる位の長さの青い髪

手には、低レベルの魔力石がはめ込まれた杖

服装は、白いローブ

以上

……


「って、ちゃうやん!」

「急にどうされたんですか?」


突如大声を上げた元魔王ラバスを、女が不思議そうに見上げる。


「あかん。つい勢いで配下に加えたけど、こいつ人間やった。こいつが使える奴かどうか、さっぱりわからへん」


【看破】の対象は、魔物限定。

元魔王ラバスは、人間の能力を見抜くスキルを持ち合わせていなかった。

そんなスキルが必要になる瞬間は、彼の長い魔王ライフで一度も無かったからだ。

そう、あの日までは……

元魔王ラバスは、前の世界で、数百年間、魔王城で引きこもりをしていた。

世界征服は、配下に任せ、読んだラノベは、10億冊。

あの日、勇者ダイスに瞬殺されるまで、そもそも、彼は、人間を直接見たことが無かったのだ!


「せやから、なんやねん、このやたら説明臭いナレーションは? あと、瞬殺は余計や!」


とは言うものの、配下の能力が分からないのは、まずい。

気を取り直した元魔王ラバスは、女に語り掛けた。


「時に女よ、名を名乗るがよい」

「はい、ローザと申します。駆け出しの神官です」

「うむ、神官か……」


元魔王は、かつての配下、悪魔神官を思い浮かべた。

確か、あいつは、アンデッドを操るのが得意やったはず。

という事は、こいつもそんな感じのスキル持ってるんやろ。

一応、能力の方も聞き出しとくか。


「神官ローザよ。そなたは、何が得意じゃ?」


ローザは、考えた。

この勇者様、滅茶苦茶強いし、正直に癒しの術が得意ですって言っても、“薬草女はやっぱりいらん”とか言われちゃうかもしれないわ。


「あの……アンデッドとか……」


解呪したり出来ますよ?


ローザが言い終わる前に、ラバスは、満足そうに言葉を重ねてきた。


「やはり、アンデッドの扱いが得意なのだな」

「扱いが得意と言うか……」


解呪したり出来るだけなんですが。


「では、女……いや、ローザよ。そなたを我が魔王軍四天王の最初の一人に任ずる。今よりそなたは、髑髏のローザと名乗るがよい」

「えっ? ドクロの……ですか?」


アンデッド、それも凄く弱い魔物を解呪出来たりするだけなのに、妙な二つ名を付けられてしまった。

やっぱり、この勇者様、イタい人なんだわ。


ローザが、改めてその想いを確信に変える一方、元魔王ラバスは、彼女の反応を観察していた。


あれ?

あんまり喜んでへんような?

最初の配下やし、優遇したろ思ったんやけど、人間は、喜ぶツボが、魔物とちゃうんやろか?

“やっぱり配下辞めます”とか言われたら、めちゃショックやわ。

ここは、正直に聞いてみよう。


「髑髏のローザよ。四天王では、不満か?」


元魔王ラバスの不安げな顔を目にしたローザは、考えた。

これは、俗にいう魔王ロープレに違いない。

きっと本当の勇者様は、ガラスのハートで、こうして仮面を被らないとダメなコミュ障なのかも。

ならば、私も神にお仕えする聖職者のはしくれとして、勇者様の心の癒しになって差し上げないと。


ローザは、とびきりの笑顔で言葉を返すことにした。


「とんでもございません。まおうさま、髑髏のローザ、地の果てまでもお供する所存でございます」

「うむ。励むがよい」


ローザの返事を聞いた元魔王ラバスは、鷹揚にうなずいた。


元魔王ラバスは、胸を撫でおろしていた。

なんや、やっぱり喜んでるやん。

なにせ、いきなり四天王や。

大抜擢やん。

まあ、後から強そうな奴が配下になったら、四天王、入れ替えてもエエしな。

そうや、まずは新たなる魔王城を手に入れて、配下増やさんと。


「髑髏のローザよ。我が魔王軍の最終目標は、世界征服である」

「は、はい……えっ?」

「そのためには、当面の拠点とさらなる配下が必要だ」


ローザは、考えた。

世界征服?がよく分らないけれど、きっと、勇者様は世界一の強さを目指してらっしゃるんだわ。

それで、どこかの街で物資補給をして、新しいパーティーメンバーを募集したいって事ね。


「でしたら、近くにアルザスの街があります。ご案内しましょうか?」

「ほほう。人間の街か。よかろう、案内せよ」


まずは、その街を占領して、真の大魔王がこの世界に降臨した事を、大々的に宣言するのもエエな。

この世界に無理矢理転生させられた当初は、どないしよ思ったけど、なんや、展望開けてきたやん。


元魔王ラバスは、こみ上げる笑みを抑えきれない。


「勇者様、喜んでくださってる。私も、早くレベルを上げて、勇者様を少しでもお助けできるように頑張らないと」


元魔王ラバスの顔にひりつく笑みを見て、ローザは、自身の決意を新たにするのであった。



小一時間歩くと、遠くにアルザスの街が見えてきた。

だが、様子がおかしい。


「魔物の軍勢が!!」


ローザが、悲鳴のような声を上げた。

なんと、アルザスの街は、魔物の軍勢に十重二重に包囲され、総攻撃を受けている真っ最中であった。

街のあちこちから火の手が上がり、魔物の軍勢が、壁際まで殺到している。


「髑髏のローザよ。あそこに行くのは止めておこう。見た所、間も無く陥落する」


ちっ!

大魔王エンリルとかいう奴の手下どもやな。

先越されたか。

まあエエ。

他にも人間の街、たくさんあるやろ。


元魔王ラバスは、踵を返した。

しかし、ローザは、ボロボロ涙を流して、泣き崩れてしまった。


「髑髏のローザよ、いかがいたした?」

「まおうさま……もう、あの街で最後なんです」

「何の話じゃ?」

「私達人間の街……」

「!!」


なんやて~~!!?

てことは、大魔王エンリルとかいうやつの世界征服が、まさに成ろうとしてるってか?

なんとうらやましい。

いや、ちゃうな……。

わしは、前の世界で瞬殺されたのに、アイツは、この世界で1万人も勇者血祭りに上げて、世界征服達成やと?

なんや、胸の奥からメチャ黒い感情が沸き上がってくる。

これは、アレやな。

リア充爆発しろっちゅうやつやな。


「……許せん!」

「えっ? まおうさま?」


その時、ローザは見た!

元魔王ラバスの瞳に宿る正義の炎を!(本当は、嫉妬の炎だが)

元魔王ラバスの身を震わせる、決して悪を許さないという正義の憤りを!(本当は、嫉妬で身震いしているだけだが)


「髑髏のローザよ」

「はい! まおうさま」


ローザが期待を込めた瞳で見つめる中、元魔王ラバスは、高らかに宣言した。


「我は、偽の魔王エンリルを粉砕する」

「はい!」

「まずは、あの街を、我に断りも無く攻め落とそうとしておる痴れ者どもに、鉄槌を食らわせてやる」

「はい!」


元魔王ラバスが右手を高々と掲げると、突如、アルザスの上空に巨大な魔法陣が出現した。

そこから放たれた強大な魔力が、アルザスの街全体を包み込んだ。

それは、元魔王ラバスだからこそ使用できる、絶対防御の結界魔法。

物理、魔法を問わず、あらゆる攻撃を一定時間、一切無効にしてしまう。

アルザスの街に総攻撃を掛けていた、魔物達が騒ぎ出した。


「静まれ! 野郎ども! おい、ベゼル、ありゃなんだ?」


魔王軍指揮官、四天王の一人、大悪魔イモンが、傍らに侍る、大魔導士ベゼルに問いかけた。


「あれは……禁呪の一種かと思われますが、詳細は分かりかねます」


イモンとベゼルが、驚愕の表情で見守る中、上空にさらに重なるように魔法陣が生成されていく。

そして、そこから、煌めく凄まじい魔力が地上に向けて迸った!


チュドーン


魔物の軍勢は、消滅した。


アルザスの街は、歓呼に包まれた。

神の奇跡であろうか?

陥落寸前であった街が、突如、絶対防御の結界で守られたかと思うや、包囲していた魔物の軍勢が、殲滅された。

誰もが抱き合い、神への感謝の祈りを捧げる中、街の入り口に、二人の冒険者が現れた。


「さすがは、まおうさまです! 私、一生ついていきます!」


ローザの瞳に宿る尊崇の念を満足げに確認しながら、元魔王ラバスは、街へと歩み入った。


「ふっ、木っ端の魔物の群れなど、何万いようと、我が敵では無いわ!」


上機嫌だった元魔王ラバスは、しかし、街の様子に、少し不安になってきた。


なんや、住民ども、わしの大嫌いな神に感謝しとるな……

もしや、わしのやった事って、客観的に見て、勇者っぽくなかったやろか?


しかし、そんな元魔王ラバスの不安は、ローザの一言で打ち消された。


「さあ、参りましょう、まおうさま! 世界が私達を待っています!」


せや、わしは魔王。

世界は、我に征服されるのを待っている!


意外と単純な元魔王ラバスであった。

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