無理矢理勇者として転生させられた元魔王、異世界で無双する
風の吹くまま気の向くまま
第0話 そんな転生、絶対に認めへん
「……よくぞここまで参った、勇者ダイスよ。褒美に我れが真の恐怖を……グハゥッ!?」
いきなり聖剣に貫かれた!
いや、ちょっと待てや、まだ喋ってる最中やったやん!
ヒトの話は最後まで聞けって習わんかったんか?
あ、わし、ヒトやのうて、魔王やった……。
―――プツン。
意識が途切れた。
白い空間。
なんや目の前に、珍妙な格好した女が立ってんな。
まるでわしが大嫌いな女神みたいや。
ハっ!? まさか、わし、死んだんやろか?
「その通りです。元魔王ラバスよ。あなたは死にました」
「えっ? あんなあっさり? おかしいやろ、わし、魔王やったんやで?」
「勇者ダイスが強すぎて、あなたが弱すぎたのでしょう」
オイ、なんやその、身も蓋も無い言い方は?
「でも、安心なさい。貴方を転生させてあげます」
どういう風の吹き回しや。
なんで、女神が魔王を転生させたるとか言うてるんやろ?
「貴方には、【異世界シオナリヤ】で、勇者になってもらいます」
「はっ? いや、普通に意味わからんねけど?」
「【異世界シオナリヤ】の大魔王エンリルは、余りに強大。私が送り込んだ勇者達悉くが、返り討ちにあってしまいました」
そりゃご愁傷様。
「総計1万人送り込みましたが、全く歯が立ちません」
多いな、オイ!
「これ以上、人間の魂を浪費するわけにはいかないので、貴方を送り込むことにしました」
ちょい待て!
勝手に話進めんなや!
「なんで、わしがそのなんたら言う世界で勇者せなあかんねん。わしは、腐っても魔王や!」
それに、元魔王を勇者にって話、テンプレ過ぎて、みんなお腹いっぱいやで?
「それでは、転生を開始します」
ちょ、待て……うわぁぁ!
白い光に視界が塞がれて……。
ヒトの話最後まで聞かんやつ、ホンマ多過ぎやろ……。
元魔王ラバスは、周りの景色を呆然と眺めていた。
草原である。
ひたすら波打つように緑の草木が風にそよいでいる。
のどかな春の昼下がりといった風情だ。
「って、何でやねん!?」
どうやら、ここが【異世界シオナリヤ】とやら言う場所らしい。
これからどないせえっちゅうねん。
あ、その前に、わし、今どんな状況なんや?
まさか、赤子になってしもてるとか……。
慌てて自分の格好を確認するが、着ているものは、死の直前に纏っていた自慢の魔王専用魔装(通称;闇の衣)のようだ。
視線の高さもそんなに違和感無し。
しかし……
なんや、この手は?
視界に入った自分の手は、魔族らしいごつごつさやカギ爪とは無縁な?
「まさか……」
元魔王ラバスは、鏡の魔法を使った!
元魔王ラバスは、元魔王なので、元魔王の使えた魔法は、全て使えるのである!
「……誰やこのナレーション。っつうか、やっぱりいぃぃ!」
元魔王ラバスは、頭を抱え込んでへたり込んだ。
なんと、彼の外見は、普通の人間になってしまっていたのだ。
まさか、どこかのコンビニバイトから、世界征服目指さないといけないのであろうか?
「いや待て、確か前に読んだラノベやと、魔力を増大させたら、元の姿に戻ったりしてたで」
元魔王ラバスは、魔力を極限まで増大させてみた。
チュドーン。
元魔王ラバスを中心に、半径100mが吹き飛んだ。
しかし……。
「ああっ!? 人間のままや……」
元魔王ラバスの心が絶望にそまる。
「フッ、フフフ、フハハハ!」
ひとしきり哄笑した後、元魔王ラバスは決心した。
「ええやろ。あのクソ女神、わしは絶対勇者なんかやらんからな。その代わり、わしが真の大魔王として、この世界を恐怖に陥れたるわ!」
せやけど、世界征服、まずどっから手をつけたらええんやろ?
元魔王ラバスが、前の世界で魔王になって数百年が過ぎていた。
おかげで、最初にどうやって魔王になったか、すっかり忘れてしまっていた。
「まあええ、とにかく最初は配下や。強そうな奴手下にしていきゃ、その内何とかなるやろ」
歩いていくと、行く手から悲鳴が聞こえてきた。
「魔物が、魔物が~~! 誰か助けて!」
魔物?
これは絶好のチャンス!
元魔王としての力を見せつければ、配下第一号に出来るんちゃうやろか?
「おい、そこの魔物!」
魔物は、グレートボア、つまり巨大イノシシ。
言葉は当然通じず、ブフォブフォ唸りながら、人間の女に襲い掛かろうとしている。
「もしかして、冒険者様ですか? お助け下さい!」
女は無視!
グレートボアを手なずけるには……どないすりゃええんやろ?
と、とにかく、最初が肝心、力見せつけとくか。
グレートボアを掠めるように……。
「食らえ! ファイアーボール!」
おっと! 手元が狂った!?
わわっ! 間違えて直撃させてしもた!
グレートボアは、消し飛んだ。
元魔王ラバスは、呆然と立ち尽くす。
「有難うございます」
女が頭を下げてくる。
いや、ちゃうからね。
間違っても、謎の冒険者が、凄い魔法でグレートボア消し炭にして助けてくれた、とか妙な噂、広げんといてや。
それ、へんなフラグ立っちゃうから。
いっそ、フラグ立てられる前に、この女も消しとくか……。
「おい、女」
「何でしょうか? 冒険者様」
「運が悪かったな……」
「?」
元魔王ラバスの手の平から放射された強大な魔力が、女の周囲を包み込む。
後は、この手の平を握れば、我が魔力でこの女はグシャリ。
……のはずが、いきなり周囲10mが吹き飛んだ!
えっ? わし、まだ何もしてへんで?
つうか、今の何?
まさか、この女が実は凄い実力者とかで、何かやったんか?
「ほう……我が魔力の直撃を受けてまだ立っているとは。貴様が新たな勇者だな?」
いつの間に現れたのであろうか?
少し離れた所に、オオカミ頭のいかにも悪魔な感じの魔物が立っていた。
因みに、元魔王ラバスは、魔王専用魔装(通称;闇の衣)を纏っている限り、通常の魔法で傷つける事は不可能だ!
ついでに、元魔王ラバスの魔力に包まれていた先程の女も、無傷のままである。
「我こそは、大魔王エンリル様の四天王の一角、大悪魔アモン! 先程強大な魔法を使用したであろう? それを我に感知されたのが、貴様の運の尽きよ」
強大な魔法?
さっきの、半径100m程吹き飛ばしたアレの事か?
「……っつうか、お前、今何っつった?」
元魔王ラバスはキレていた。
「大魔王エンリル様の四天王……」
「ちゃうわ! その前!」
「?」
「よくも、わしを勇者呼ばわりしてくれたな?」
くらえ! メルトダウン!!
チュドーン。
大悪魔アモンは、消し炭になった。
「有難うございます」
女が尊敬の眼差しで頭を下げてくる。
なんや、もうどうでも良うなってきた。
元魔王ラバスの目は、死んだ魚のようだ。
そんな元魔王ラバスに構わず、女は話を続けた。
「お願いがあるのですが……。荷物持ちでも何でも構いません。お供させて頂けないでしょうか?」
お供?
元魔王ラバスの眉根がピクリと動いた。
「お供……と言う事は、我が配下に加わりたい、という事か?」
「配下でも何でも構いません! 実は、私、駆け出しの冒険者でして、いつかは勇者様のお力になりたい、と……」
「女!」
「は、はい?」
元魔王ラバスは、ずいっと女に顔を近づけた。
「我が配下に加わりたいのであれば、特別に許可しよう。しかし! 我を二度と勇者扱いしてはならぬ! 良いな?」
「は、はい!」
「それと、我の事は、魔王様、と呼べ」
「まおうさま……でしょうか?」
「いかにも」
女は、束の間混乱したが、すぐに理解した。
凄く強いのに、きっと少し残念な人なんだわ。
でも、さっきの“本物の大魔王の四天王”も、この方を“勇者”って呼んでたし……。
そう考えた女は力強く頷いた。
「わかりました、まおうさま!」
元魔王ラバスの、世界を股にかけたリベンジが、今始ま……るのか?
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