<番外編・小話>悪役令嬢は、悪役令嬢になりたい
五百夜こよみ
IF END:分岐点1の選択の結果、奴隷商人ルートは封鎖されました
全てが私の思い通りに進んだ。
婚約者はヒロインを選び、私は悪役令嬢として断罪され、国外追放と相成ったわけだ。
これからこの国が悪の親玉である父上の魔の手から逃れられるか、どういうエンドを迎えるのかはヒロイン次第であるが、上手いことやってくれ!私は先に一抜けた!
「と、言うわけで、公爵令嬢兼未来の国王妃の私が奴隷堕ちエンドを迎えたわけですが、ここまでいかがでしたか、ハッター」
「…思ったよりも落ち込んでいないようで驚きました」
「そこが私の強みというわけだな!わはは!」
「この状況で笑います…?」
とんでもない馬鹿か、狂人を見るような目つきのハッターに私は余裕の笑みを口元に浮かべる。
長年のしかかっていた肩の荷が下りた気分なのだ、笑いたくもなる。
「それでハッター、私をどこに連れていくのだ?娼館?オークション会場?成金の変態爺の屋敷?」
「そこまで現実を悲観した候補先を挙げ連ねておいて、笑えるお嬢様があっしには信じられないんですが」
そういうと、ハッターは少し俯いた。
泣いているようにも見えるが、泣く状況ではないし、どちらかと言えば泣くのは私の方ではないか?
「あっしの家です」
…おい、まさか私を住まわせるのが嫌で悲しんでいるのではなかろうな。
別に私が望んだことではないのに、まるで悪人になったかのような気分だ。
まあ、悪役令嬢ではあるのだから、悪人には違いないか!
それにしても、長年の癖はすぐには消えないのか、今では奴隷商人と奴隷の立場なのだから、敬語など話さず気を使わなくてものを、律儀な奴よ。
「お嬢様も…いえ、オクタヴィアもご存知の通り」
「名を消された私はオクタヴィアではない。アリスだ」
「オレは閣下から、アリスのことを頼まれています」
「父上…」
政治の駒にしつつも、なんやかんや娘のことを気にかけていたのだな。
だが、預ける先が奴隷商人であるというところに、一般人との認識のズレを感じるぞ。
さすが悪役である。
「だから、これからはずっと一緒です」
何もおかしなことは言ってないはずなのに、私は何かがつっかかった。
俯くハッターをじっと見つめる。
泣いているようにも見えたのに、今は反転、笑いを堪えているように見えた。
鬱蒼とした森の奥、馬車が止まる。
いつの間にか辿り着いた先には、ゴシック系ホラーの舞台になりそうな屋敷が静かに鎮座していた。
人間の気配すらない。
私たち二人を置いて、逃げるように馬車は森を後にする。
「ここがアリスの新居です」
ガシャンと音を立てて、閉まる門を背後に振り返る。
もう生きているうちに、この門から外へは出れない予感がしていた。
ハッターは既にいつもの頼りなげな表情で、優しく私に微笑んでいた。
・
・
・
ー月日は流れてそれからどうした?-
「お嬢様ぁ!」
「何だ、騒がしい」
「何だじゃないですよ!何をしているんですか!」
「準備体操だな」
「準備体操っ?!!」
「私は生まれたばかりの赤子か。?!つけるほどのことはしてないだろ」
「い、一体何のっ、何の準備なんですかぁ!」
「…ランニングだが」
「らららランニングゥ!!!」
「歌ってるみたいに驚くな」
「お嬢…アリスは元気すぎます!軟禁状態なのになんでそんなに元気ありあまってるんですか!昨日抱き潰せばよかった!」
「こやつさらりととんでもないことをほざきよって…仕方なかろう。運動しなければ筋肉が衰える。健康に悪いではないか」
「健康…ってそんなに大切ですかね…?」
「大切だ!そこは疑問に思うところではないぞ!」
「確かにアリスには長生きしてほしいですが。オレが死ぬまでは」
「死んだ後は?」
「一人になんてしないので安心してください。死ぬ時は一緒です^^」
「こ、こやつ…言っておくが、無理心中など御免だぞ!」
「またまた~!アリスのことはちゃんとわかってますよ!本当はうれしいんですよね!でも、まだダメですよ!楽しみは最後にとっておかないといけません!死ぬのは人生を謳歌してからです!」
「そんなことは言われんでもわかっているわ!ハッターは私を何だと思っているのだ!」
ハッターはニコリと微笑んで、
「オレの愛しの、死にたがりさん」
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