ユートピア
ここは地上の低所得者層エリア、
いわゆる貧民街やスラム街と
呼ばれているような場所。
ここに生きる人々は
日々の世界の糧を得る為には
どんな事でもやる。
他人を騙し金品を奪う、
盗み、恐喝、傷害、
その為に人の命が奪われる事も
それ程珍しくない、
そんな犯罪多発地域でもあった。
まんまと街娼の女に
有り金を巻き上げられたポップ、
お腹を空かせて歩いていても
次から次へと柄の悪い連中に
絡まれ殴られる。
「おい、お前セミ男だろっ?
金持ってんじゃねえのかっ?」
ストリートギャングのような男達は
出会い頭にまず一発
ポップを殴ってから、
そう質問した。
ポップが着けているゴーグルは
まさに自分が地下から出て来た
セミ男だと宣伝して
歩いているようなものであり、
こうした所持金目当ての者達に
標的にされ狙われ続ける。
「ちっ、文無しかっ」
「あのクソ女(あま)どもに
もう金巻き上げらた後かよ、
このどスケベがっ!」
「しかし、お前等も
地下で七年間も強制労働させられて
せっかく地上に出て来たのに
このざまとか、ホント笑えるぜ」
「セミ男は、間抜けばっかりで
マジウケるわ」
男達はそう悪態を吐きながら
ポップを何発か殴って
憂さを晴らした後、
何処かに去って行った。
道に倒れているポップ、
当然誰かが助けてくれる訳はない。
口から出ている血を拭って
立ち上がるポップ、
何故自分がこんな理不尽な目に
あっているのか、
その理由すらも分からない。
地上はユートピア、
理想郷ではなかったのか?
それともユートピアの意味は
これこそが正しいものなのか、
自分の知識が
間違ってインプット
されているのではないかと疑う。
憤りというよりは
むしろ悔しさと悲しみ。
自分達が地上の生活を
支えていると誇りを持って
地下で働き続けて来たのに、
その地上はこんな世界だったのか
という失意と絶望。
-
それでもひたすら
地上を彷徨い歩くポップ。
ぐぅぅぅぅぅぅ、と
お腹が空いて鳴っているが、
食べ物を買うお金もない。
通りに面した店、
その店頭に美味しそうな食べ物が
並んでいるのを
涎を垂らしながら見ているしかない。
「なんだいっ、セミ男かいっ?
あんた達にやる
食べ物なんてないんだよっ、
とっととどっかにお行きっ!
営業妨害なんだよっ、まったく、
これじゃあセミ男じゃなくて
ハエ男じゃあないかっ」
店の女スタッフは
そう言ってポップを追い払った。
-
しばらくして、それでも
お腹が空いて仕方ないので
ポップは路地裏に出されている
ゴミ箱を漁り、残飯を食べる。
残飯とは言え
まだまだ食べられそうな物が
大量に捨てられており、
味もそこそこ美味しい。
ポップはいつの間にか
貧民街を抜けて
高所得者層エリアに来ていたのだ。
ここには物が溢れおり、
同時に贅沢に捨てられて行く。
飢えていたポップは
残飯をガッツくように食べ続けた。
すると店の厨房の
シェフが出て来て、
ポップの横っ腹を蹴とばす。
「このセミ野郎っ!
また残飯を漁りやがってっ!
ゴミを散らかすんじゃないよっ!」
もちろんポップは
そんなことをするのは
はじめてなのだが、
他のセミ男達もこうして
ここで残飯を漁っていたのだろう。
何度も殴られ蹴られ
意識朦朧としているポップは
そのまま表の通りへと
投げ捨てられた。
高所得者層に住む人間達の
ポップに対する視線は冷たい。
「まぁ、やあね、
またセミ男ですって」
「ホント、こちらには
来られないように
何か対策でもして欲しいですわね」
結局、何処へ行っても
セミ男に対する
地上の人間達の偏見や差別は
変わらなかった。
彼らセミ男達が
一生懸命地下で働いて
地上の生活を支えていたというのに、
これが地上の人間達の答え。
地上の人間達は
地下で暮らすセミ男達を蔑んで、
まるで非人間のような扱いをする。
確かに彼らセミ男達は
人によって造られた
特殊な人間ではあったのだが。
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