セミ男と地上の七日間

ウロノロムロ

仄暗い世界

仄暗い世界。


ヘルメットに付いている

ヘッドライトだけが、

目の前にある

ゴツゴツした岩盤を

照らし出す。


ひたすら

振り下ろし続ける

ツルハシと岩盤との

衝突音だけが

響き渡って行く。


地下深くで

ひたすら穴を掘る、

それが七年間続いている

彼の仕事。



この七年より前の記憶はなく、

地下に居る七年間だけが

彼が持つ記憶のすべて。


ずっと地下で暮らしているので、

地上のことなど全く知らない、

どうなっているのか

どんなところなのかも

分からない。


ただみんなの噂を聞く限りでは

とんでもなく素晴らしく

ユートピアみたいな場所だ

と言う話だ。


そのみんなも

地上に行ったことはなく、

もちろんユートピアなぞ

見たことがある訳もないので、

あくまで噂に過ぎないのだが。


-


通信器が鳴り

本日の業務終了を告げると

彼は手を止め、

自らが掘った穴を逆戻りし

トロッコが通る場所まで向かう。


『やれやれ、

やっと今日も終わりだ、

これでご飯にありつける』


やって来たトロッコに

飛び乗ると

既にそこには同僚の

アットが乗車済みだった。


「よう、ポップ、

後残り何日だい?」


彼は仲間から

ポップと呼ばれていた。


「ちょうど後

残り三十日てとこだね」


「お、いよいよだな、

楽しみだな、地上が」


「アットは後、

どれぐらい?」


「俺はまだまだだな、

三百日以上残っている」


「あぁ、クソッ羨ましいぜ、

こんなところとは

俺も早くおさらばしてえ、

地上に行きてえもんだ」


アットはいつものように

ここでの暮らしを愚痴っていたが、

ポップはそこまで

この生活が嫌いではない。


他の暮らしを知らないので、

これが当たり前だと

思っているだけ

なのかもしれない。



二人が乗ったトロッコが

終点に着くと、

様々な地域を走っている

多数のトロッコが

既にそこには到着しており、

降車する者達で溢れ返っている。


みなポップやアットと同じく

この地下で働く者達だ。


そしてこの先にある

彼らの居住区まで連なって

歩いて行くことになる。


-


ここは異世界の

地下数千キロ深くにある

エネルギー施設。


地上の人間達が

生きて行く上で

必要なエネルギー、

クリスタルや鉱石などを

採掘し続けるのが彼らの仕事。


『セミ男』と呼ばれる彼らは、

この地下施設で働きながら

七年間の時を過ごす。


ここにはそうしたセミ男達が

一万人以上働いており、

日々の生活を送っていた。



そして、ちょうど

七年間のお勤めを終えた時、

彼らはここを離れて地上へと

出て行くことになる。


七年間の地下生活を

余儀なくされている為、

彼らは地上の人間達から

『セミ男』と

呼ばれているのだ。


それがこの世界で

もう何十年にも渡って

続いている慣習であり、

ポップはこの七年間、

地上に向かった者達を

見送り続けて来ていた。



何故七年なのか、

それもまた誰も知らない。


地上に全く出ることのない

この地下生活を営むのは

七年が限界なのだとか、

セミ男達の間で

まことしやかに言われていたが

それもただの推測に過ぎない。


ただポップも

七年間の満了が近づくに連れ、

体調不良を感じるように

なって来ていたので、

やはり地下での生活は

七年間が限界なのかもしれない、

と思っていた。



ポップは後三十日で

ここでの七年間の生活を終え

地上へと旅立つことになる。


ここに居る者達は全員、

自分達が地上の世界を

支えているのだという

誇りを持って働いているが、

地上を見たことがある者は

この中には誰一人としていない。

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