世界樹との共同作業
星が輝き始めた空をバックに、世界樹の彼が言う。
「この世界には種類の違う五つの力が流れているんだけど、それがゴチャゴチャになっているんだよ。それを均等になるように整えれば、少しはマシになるんじゃないかな」
彼が言うには、私たちのいるこの辺りはその五つの力というのが特に濃く混ざりあっている場所らしい。
それはもう勝手に地下迷宮が広がったり、花が咲いてしまうくらい濃いという事だ。
「整えるって言っても、どうやって?」
私は聞く。すると彼はますます物語で覚えのあるような説明をした。
「まず五つの力っていうのは地、水、火、風、空なんだ。だからそれぞれを担当する存在を生み出せばいい。この世界に流れる力が生命を持ちますようにってね」
それぞれの力を担当する存在を生み出せば、それらが自由に世界中を飛び回る事で力の流れが均されていくという事だった。あぁ、と私は思う。
「なるほど。精霊ね」
それから私たち四人は会議を重ね、地の精霊を犬、水の精霊をイルカ、火の精霊をリス、風の精霊を鳥、空の精霊を龍の姿にする事に決まった。
さらに精霊たちの知識の源として、あるいは精霊たちの統括として、世界樹の彼に精霊王になってもらう事で満場一致した。
「精霊王までやるとは言ってない……」
彼は不安げに呟く。けれどやってもらうしかないと私は思っている。
想像力が形になるこの世界で、精霊王の肩書を得た世界樹ならば言語の統一ができるだろうと思うからだ。
今この世界には、圧倒的に知識が足りない。聞けるはずの神様もお休み中。もう頼れるところは世界樹の彼しかいないのだ。
そう説明すると、彼も諦めて受け入れてくれた。
「始める前にもう一つ。精霊を生み出してしまうと、今までのように手元に何もない状態では力を使用する事ができなくなる」
彼の説明によると、神々の力は確かに無から有を生み出すものだった。けれどそれを神以外が使う時、必ず世界のどこかで必要な材料が消費されているというのだ。
今までなら勝手に世界のどこかから使ってくれていたのだけれど、五つの力を担当する精霊が誕生すると、目の前に必要な材料がある状態でなければ発動しなくなるという事だ。
「それはもう願ってもない事よ。困ってるのよ、本当に」
私の言葉に、それならと彼が頷く。
そんな彼を見ながらリスくんは、ネットが開通したみたいだと呟いた。
「それじゃあ始めましょうか」
私が言うと、冷凍室の中からピョコピョコと氷の魔獣が出てきた。何かさっきまでとは違う雰囲気を察しているのかもしれない。
「まずは世界樹を精霊王に」
これは、冷凍室を勝手に稼働するように条件を付与した時とやり方は同じだ。ただ、発動した時に三つに分けたソーダ玉が三つとも弾け飛んだ。
発動した魔法が大きすぎた、という事かもしれない。
弾けたソーダ玉が茶、青、赤、緑、黄色の五色の光を絶え間なく発する。その光は彼を中心に私達の頭上の世界樹まで覆いつくし、やがて光の雨となって消えて行く。
その後には髪や服までもがほんのりと光を帯び、さらに美しくなった彼が立っている。
精霊王の誕生だ。
「おめでとう。精霊王」
「うん。思ったより悪くないかも。やっと世界に根を張れた気分だよ」
次に私たちは精霊王の説明に従って、地の魔力だけを練り上げた焦げ茶色の大きなソーダ玉を作った。
それを基に地の精霊を生み出す。
大地の恵みに感謝をしながら、皆で決めた犬の精霊の姿を思い描くのだ。
大地が揺れる。祝福するように土の香りが濃くなっていく。
そして地のソーダ玉を卵がわりに、とても大きな飴色の犬が誕生した。大型犬の倍はありそうな犬だ。尻尾はクルンと丸まって、毛並みは光を纏っている。
こうして地の精霊が誕生した。この惑星にとって初めての生き物と言えるだろう。
地の精霊は足音もなく走り出した。代わりにリンリンと鈴の音が響く。
ぐんぐんとスピードを上げ、やがて地面をも離れて、空中を走るように飛んで頭上の世界樹へと駆け上っていく。
同じようにして水、火、風、空の精霊も誕生させていく。
どういう理由か、随分と疲れる。
水の精霊のイルカは硝子細工のように透き通り、空を泳ぐ。
火の精霊のリスは背中に綿の実のような毛を持ち、臆病ですぐに丸くなった。けれど前の二体と同じように世界樹を目指して上っていく。
風の精霊は青緑色の、長く煌びやかな尾羽を持った鳥だ。そして水琴窟のような声で鳴いた。
空とはつまり雷の力の事。そんな空の精霊である龍は、意外にも私の片腕ほどの大きさだ。真っ白の体にさらりと流れるたてがみ、しっかりとした足と翼。鳴き声はゴロゴロと空を割らんばかりに轟いた。
こうして地、水、火、風、空の精霊が誕生した。
その瞬間、今まで見えていなかった五色の魔力が見えた。
それは星雲のように世界樹を取り巻いていて、その流れに激しく枝葉が揺れる。
柔らかく大きなギザギザの葉の間から、所狭しと五色の花が咲く。咲いては散りまた咲いて、魔力の光の中の花吹雪。
生ったそばからパラパラと実が落ちて、その身から精霊たちが生まれては飛び去って行く。初めの精霊たちよりは随分と小さな精霊たちだけれど、その姿はまるで光の花のよう。
「すげぇ……」
そう声を漏らしたのは精霊王だ。
「あなたの花たち、綺麗だね」
「あぁ。花なんか咲いたの、初めてだ……」
それは夜空の星々よりも輝いていて、私たちは生まれ続ける精霊たちが落ち着くまで、夢心地でその景色を眺め続けた。
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