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俺達はそのあと二人で原宿に向かった。見せつける相手はもういないのに、二人で手を繋いで原宿の街を歩く。
礼奈はブティックの窓ガラスに映る自分の制服姿を、うっとりと見つめる。
本当にこの制服が着たかったんだな。志望理由は『制服が可愛いから』だったが、今思い返しただけでも、あの志望理由でよく受かったと感心する。
「あっ、桐生君のお父さんのショップだ」
忘れてた。
原宿には狼の巣穴があったんだ。
礼奈は俺の手を振りほどき、ショップの中に飛び込む。そこが狼の巣穴だってまだ学習できないのか。
店頭に並ぶ新入荷のアクセサリー。
人気ショップだけあって、女子高生が群がっている。
「わぁ、可愛い。このリングいいな。シンプルだしピンクのハートが可愛い」
ピンク色のストーンで装飾された、シルバーのリング。
思わず俺は礼奈の左手を掴む。桐生が突然現れて、左手の薬指にリングを嵌めないようにするためだ。
周囲をキョロキョロと確認したが、どうやら桐生はいないようだ。あいつはバスケ部だし、こんな時間にショップを彷徨いているはずがない。
「それが欲しいの?」
「うん。これがいい」
「他のショップもあるけどそれでいいのか? 高校の合格祝いをまだプレゼントしてなかったね」
「うん、うん、これがいい」
「わかった。それにしよう」
リングを手に取りレジに向かう礼奈。
背後から不気味な影が忍び寄る。
「いらっしゃいませ。南、それ初入荷したばかりなんだ。それにするの? 俺がプレゼントするよ」
うわ、わ、でたな、狼!
このショップは、お前の店じゃないだろう!
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